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第1話 十年ぶりの帰還 その7

プロスヴァー達が城門から町に向かうのと入れ違いに、町からゴブリンの魔の手を逃れてきた人々が次々と門をくぐり王宮に入ってくる。

「みんな早く奥に行くんだ。ここなら安全だぞ!」

ネカヴァーは不安な表情の民達にそう言って安心させる。

「僕達が化物共を倒してくるから大丈夫だ。さあ早く避難するんだ」

ネカヴァーがそう民に言い聞かせている間にプロスヴァーと彼が指揮する兵達は先に町に出る。

すると王宮の中にいた時には聞こえなかった剣戟や悲鳴があちこちから聞こえてくる。

「俺たちはこのまま西の採掘場に向かうぞ。東はネカヴァー達が向かうから彼らに任せる。行くぞ!」

そう言って全速力で駆け出しその後を兵達も必死についてくる。

プロスヴァーも兵達も出来ることなら全ての民を助けたい。しかし全員を助けられるほどの力がないのもまた理解していた。

だからこそ西の採掘場に一刻も早く到着し、原因を突き止めこの虐殺を終わらせるために走る。

町は文字通り死屍累々だった。

そこかしこにドワーフの兵士、そして民の遺体が血を流し石造りの道を赤く染めていた。

その遺体を見てプロスヴァーは暗い怒りが湧き上がってくるがそれを抑える気にはなれなかった。

彼の頭の中はいつの間にかゴブリンを皆殺しにすることしかなかった。

「きゃあああっ!」

その時右の角の向こうから女性の悲鳴が聞こえてきた。

プロスヴァーは更に速度を増して走る。彼と同じく重い鎧を身につけている兵達は追いつけずどんどん引き離されていく。

「プロスヴァー様、お待ちください! 一人では危険です!」

一人の兵の制止も聞こえず、プロスヴァーは全速力で角を曲がる。

その目に映ったのは、ゴブリンに連れて行かれる親娘だった。

必死に抵抗している母親にゴブリンは娘に持っている剣を突きつけて従わせようとする。

その傍らには、父親であろうか、男性が血を流して倒れていた。

「うあぁああああぁ!」

プロスヴァーは吼えた。それはまるで彼の中の怒りが口から溢れたようだった。

それを聞いた動きを止めたのはゴブリンのみならず、親娘も驚いて彼を見つめる。

プロスヴァーは三匹のゴブリンに狙いをつけ走り出す。

「ゴブゴブ!」

「ゴブッ? ゴブブブッ」

ゴブリン達は何かを言い合っていたが、ドワーフには聞き取れず意味不明だった。

その間にもプロスヴァーはどんどん距離を詰める。

すると左右から彼を止めるかのように剣と盾を持ったゴブリン二匹が立ち塞がる。

プロスヴァーはそれを見ても止まらない。

二匹は迫るプロスヴァーに刃を向けた。

「王子が危ない。槍を構え! 投げろ!」

ヒュンと風切り音がプロスヴァーの背後から迫り、そのまま左右から追い抜けて槍が飛び、彼の前に立ち塞がる二匹の頭を貫いた。

親娘を連れ去ろうとした三匹のゴブリン達も逃げていたが、その二人が足枷となってすぐ追いつく事が出来た。

「おおおぉおおっ!」

プロスヴァーは一匹の顔を盾で殴り飛ばし、残り二匹に肉迫する。

子供をとっさに盾にしようとした二匹目のゴブリンの眉間を躊躇うことなくまっすぐ剣で貫いた。

三匹目は逃げ出そうとしたが母親に足を掴まれて無様に転倒する。

ゴブリンはうつ伏せに倒れ起き上がろうと頭を上げようとするが、プロスヴァーはその頭を踏みつけ押さえ込む。

「ゴブッゴブブッ!」

「黙れ!化物が!」

苦しそうに喚くゴブリンの頭を踏んでいた左足を上げて思いっきり踏み潰す。

グシャ、と嫌な音がしてゴブリンはそのまま動かなくなった。

「王子! お怪我はありませんか?」

プロスヴァーは辺りを見て安全を確認してから、鞘に剣をしまう。

「ああ、俺は大丈夫だ……それより親娘は無事か?」

「はい二人とも怪我はしておりません」

それを聞いてプロスヴァーは胸をホッと撫で下ろす。それと同時に暗い怒りも静まっていく。

彼は恐怖で震える二人に近づくと声をかける。

「大丈夫か? 歩けるか?」

「はい。私達は大丈夫です。ありがとうございますプロスヴァー様……」

プロスヴァーは倒れている男性の事を彼女が見ていることに気づく。

「すまん。彼を助けることはできなかった。もう少し早く来る事ができればよかったのだが」

「いえ、プロスヴァー様は悪くありません。悪いのはあの化け物達です! お願いですどうか奴らを皆殺しにして下さい!」

女性は今にも泣き出しそうなのをこらえプロスヴァーにそう訴える。

「ああ、任しておけ。俺たちで奴らを皆殺しにする。ここよりも王宮の方が遥かに安全だ。さあ、早く避難するんだ」

その時プロスヴァーは母に抱かれた少女がこちらをじっと見つめていることに気づく。

「大丈夫だ。もう怖い化物はいなくなったからな」

「……ママ、この人も怖いよ」

子供の一言はプロスヴァーの心を抉る。

だがそれを表に出すことはしなかった。

「こら! なにを言うの!……申し訳ありません。お許しください」

「よい。きっと混乱しているのだ……おい、お前達、この親娘を王宮まで案内しろ。その後はダブローノスに指示を受けろ」

「「はっ!」」

避難する親娘を見送りながら、少女に言われた言葉をつい口に出す。

「俺もあいつらと同じか……」

プロスヴァーは少女に言われて自分が怒りで我を忘れていたことを恥じる。

「? 何か言いましたか。プロスヴァー様?」

「何でもない。これ以上犠牲を出さない為に早く採掘場に向かうぞ」

冷静になったプロスヴァーは少女の言葉を心の奥深くにしまいこんで兵達に指示を出し、再び走って採掘場に向かうのだった。

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