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第1話 十年ぶりの帰還 その6

三人が和やかに談笑していた時、突如玉座の間の大扉が大きな音を立てて開かれた。

入ってきたのは鎧を身に纏った王の副官を務めるダブローノスだった。

いつもなら誰かが入ってくる時は、事前に伝えられるもの。

しかも扉を開閉する時は静かに開けるのが決まりだった。

王と王子たちがいるのにそれを承知でそんな失礼なことをする人物は、余程の愚か者か、それとも一刻も早く伝えたい事があるかのどちらだった。

「如何したダブローノス。お前がそんなに慌てるとは……それにその格好、何があったんだ?」

ガラヴァーはいつも温厚なこの親友の慌てた様子に何か良くない事が起きたことを悟った。

「陛下……大変です。奴らが……」

ダブローノスは玉座まで近づいて跪くが、ここまで思い鎧を着て走ってきたのだろう。

なかなかしゃべる事が出来ず必死に息を整えていた。

「どうした? 奴らとは何だ」

その時、開け放たれた扉の向こうを見ると兵達が慌ただしく動いていた。

それを見て真っ先に動いたのは玉座の傍に立っていた王の盾達である。

彼らは背中に背負う大盾を持ち王を守れる様に距離を詰める。

息を整えたダブローノスの言葉は国王の想定していた事態をはるかに超えるものだった。

「採掘場からゴブリンの軍団が現れ、町を襲撃しています」

「何だと! ゴブリン共が何故採掘場から現れるのだ!」

ガラヴァーは息子達との会話の時とは比べ物にならないくらい語気を荒げる。

ドワーフにとってゴブリンはそれだけ忌み嫌われているからだ。

「原因は分かりません。しかし民が奴らに襲われているのは事実です」

「何ということだ。あの醜い化け物共め。一体どこから……」

「陛下。宜しいでしょうか?」

プロスヴァーが二人の会話に割り込む。

「今は原因を突き止めるよりも、先にやる事があるはずです」

「すまん、そうであったな。ダブローノスよ。民達を急ぎここまで避難させるのだ」

民が避難できる様に、王宮は砦の機能も併せ持っている。

しかしそこに篭るということは文字通り最後の砦を意味していた。

「既に民の避難は開始しています。しかしゴブリン共の動きも早く避難は滞っています」

「陛下。僕達も民の避難の手助けをしてきます」

ガラヴァーは悩むことなく答える。

「頼むぞお前達。だが無茶はするなよ 。民をここまで避難させることを優先させるのだぞ」

「分かっています陛下。行くぞネカヴァー」

「はい兄上」

二人は武器を取るために武器庫へ向かう。

それを見届けたガラヴァーは勢いよく立ち上がり言い放つ。

「儂の武具を持って来るのだ!」

指示を受けた家臣が持ってきた長持の中に収められていた鎧を取り出し、ダブローノスに鎧を着けるのを手伝ってもらいながら、ガラヴァーは自分の血が熱く燃え上がるのを感じていた。

地下に住むことが多いドワーフの中で天敵とも言えるのがゴブリン達だった。

闇の勢力が敗北した時、散り散りに逃げ延びたオーク達は力を失い醜いゴブリンと成り果てた。

その後ゴブリン達は地下に住む様になり、度々ドワーフ達の脅威となっていた。

この王国を建国する時も、ガラヴァーとダブローノスは周辺のゴブリンとも戦いこれに勝利していた。

「ダブローノスよ。久々に血が騒ぐわ。ゴブリン共を皆殺しにするのは久し振りだからな!」

「陛下。無茶はなさらぬ様に敵が何故採掘場から現れたのか不明です。もしかしたら奴らを束ねる首領がいるかもしれません」

「ああ、分かっておる。その時は儂も戦場に立ちそいつの首をはねてやるわ!」

そう言ってガラヴァーは兜を被り愛用の両刃の大斧を右手に持つ。

その姿を見てダブローノスはこの戦いに負ける要素はないと確信していた。


武器庫に到着したプロスヴァーとネカヴァーの二人は急いで鎧を纏い、愛用の得物を手に取る。

プロスヴァーはロングソードを腰の鞘におさめ六角形の盾を右手に持つ。

ネカヴァーは両手剣を背中に背負い二人は戦支度を完了させた。

「準備できたな。行くぞ!」

「はい。兄上」

二人は重い金属鎧を着ているとは思えない軽い足取りで廊下を歩く。

着いた先には兵達が彼らの到着を待っていた。

「ネカヴァーお前は町の東側に行ってくれ。俺は西の方の様子を見てくる」

「えっ、兄上それは危険すぎます!」

「何故だ? 今は町中にゴブリンがいて民を襲っているのだぞ。町に出れば安全なところなどないだろ」

「ダブローノスの話を忘れたのですか? 奴らは採掘場から現れたと言っていました。それはつまり……」

「分かってる」

プロスヴァーはネカヴァーの言葉を遮る。

「俺は民を避難させながら、兵を連れて西の採掘場で何が起きたのか原因を調べてみる」

「兄上、ならば私も一緒に行きます」

「駄目だ!」

「な、何故です!

プロスヴァーはネカヴァーの肩に優しく手を置き力を入れる。

「お前は近々ツォーヴィ姫と結婚するんだろ。彼女を悲しませるな」

「兄上……」

「おしゃべりはここまでだ。今この間にもゴブリンが我らの民を殺しているんだ。説教はこれが終わったらたっぷり聞いてやるよ」

「分かりました。死なないでくださいよ。言いたいことがいっぱいあるのですから」

「俺もお前の結婚式を見ないで死ぬつもりはない。じゃあ後でな。お前達、俺について来い。ゴブリン共を皆殺しにするぞ!」

「「「おおぉおおおっ!」」」

プロスヴァーが檄を飛ばし、兵達は雄叫びを上げて応える。

こうして弟ネカヴァーは町の東に行き、兄プロスヴァーはゴブリンの軍勢が現れた採掘場へ向かうのであった。

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