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第1話 十年ぶりの帰還 その4

今から十年前。北にあるドワーフの王国、カロヴァー王国は繁栄の極みにあった。

山をくり抜いてその中に王国を築くのはドワーフ達の伝統であったが、その地下に鉱石採掘場を作り、そこから取れた鉱石を加工する技術にも長けていた彼らは、人間達にそれを売り込んで巨万の富を得ていた。

更に現国王であるガラヴァーには二人の息子がおり、王国の未来は希望に満ちていた。

あの事件までが起きるまでは。


「兄上、ここにおられたのですか」

プロスヴァーは自分を呼ぶ声の方に振り帰る。

「ネカヴァーか、どうした? そんなに急いで」

彼らがいるのは、王宮の地下深くに作られている墓地である。

ここには代々の王族達の亡骸が石の柩の中に納められていた。

王宮の地下に彼等が眠るのは、死を迎えても子孫を護り、王国が栄えていくのを見守るためである。

プロスヴァーは一つの墓の前に跪いていた。

それは弟ネカヴァーを産んですぐ亡くなった王妃リェーヒ。二人の母であった。

「今日は命日でしたね」

そう言ってネカヴァーも王妃の墓に向かって一礼をする。

ネカヴァーはプロスヴァーより五歳若い八十五歳で兄より細い顔立ち、父譲りの黒い髭、そして黒い髪を肩まで伸ばし母譲りの青い瞳を持つガラヴァー王国の第二王子である。

王妃が亡くなった時、二人共幼かったのでほとんど思い出はない。何せプロスヴァーは五歳の時だったし、ネカヴァーは生まれて間もなかったからだ。

しかし、国王である父は、出来る限り時間を作って王妃の事を二人に聞かせ、母代わりの優しい乳母のお陰で、彼等は卑屈になることなく真っ直ぐ育っていった。

「ああ、あんまり来ない親父の代わりにこの一年の事を報告してたんだ」

プロスヴァーは立ち上がるとネカヴァーの方を振り向く。

「それで何かあったのか?」

「はい。その父上が私達に話しがあるそうです。一緒に玉座の間に行きましょう」

「あまり行きたくはないな。どうせまた婚姻の話だろ」

「父上も早く孫の顔が見たいのですよ」

「お前が早く見せてやれよ。もう結婚する相手がいるのだから」

そう言われてネカヴァーは慌てふためく。

「な、何を言っているのですか! 僕と彼女はまだ結婚とかは……」

ネカヴァーはガラヴァー王国から東にある大洞窟の中にあるペシチェ王国の妹姫と付き合っているのは周知の中であった。

「あ〜分かった分かった。聞いたこっちが馬鹿らしくなる。さっさと行くぞ」

「兄上。そちらから聞いておいてそれはあんまりです。今日は僕も父上に加勢しますからね」

「ふっ、例え何人(なんぴと)に言われようと俺はまだ結婚しないからな」

二人は仲良くそんな事を言い合いながら玉座の間に向かうのだった。


彼が玉座の間に向かっている同じ頃。

鉱夫達がせっせと働き鉱石を採掘していた。

城下町から少し離れたところに地下への入り口があり、そこが鉱石採掘場になっていた。

そこでは若く血気盛んな若者も老いているが熟練の技術を持つ者も皆一緒くたになって働いていた。

ある若いドワーフが他の者に負けないくらいの量の鉱石を採掘していた。

彼がいるのは数年前に見つかった新しい場所である。

ドワーフ達がいつものように新しい採掘場所を得るために地下を掘っていた時、ソレを見つけたのだ。

ソレはとても大きく何の装飾の施されていない金属の扉だった。

その扉は岩の壁の中にあり偶然見つけた物だった。

扉に使われている金属はドワーフ達でさえも分からない謎の金属だったが、幸か不幸か扉の鍵は壊れていて開けることが出来た。

両開きの扉を押し開けた先には一面を岩の壁に覆われた広場のようになっていて、そこでは良質な鉱石を数多く採掘することが出来た。

若いドワーフもタガネと金槌で壁から鉱石を休む事なく採掘していく。

彼にはある夢があった。高価な宝石などに加工できる石を見つけることができれば大金持ちになれる。そうすれば恋人と結婚して、二人で小さな店でも開いて生きていこうと決めていた。

しかし彼が見つけたのは宝石に加工できるような石ではなかった。

いつものようにタガネを壁に押し当て金槌で叩こうとしたその時、タガネが壁の中に吸い込まれていく。

彼は一瞬疲れているのかと目を擦るが、その光景は見間違いではなかった。

タガネはドンドン壁の中に吸い込まれていき、岩壁の中に消える。

そして壁が口を開いたのだった。

それはまるで地獄へ通じる入り口のように中は真っ暗で何も見えない。

若いドワーフのみならず周りのドワーフ達も一体何事だとその壁の穴を見詰める。

「ん? 何か音が中から……」

カチャカチャと金属が擦れ合うような音が穴の中から聞こえてきて彼は思わず顔を近づけた。

その直後、黒い刃が彼の眉間を貫いていた。

「えっ……?」

彼は仰向けに倒れて自分に何が起きたか分からないまま死んだ。

黒い穴から現れ、若いドワーフを刺し殺したのは醜い醜いゴブリンであった。

しかも一匹二匹ではない。どんどん溢れるように穴から出てくる。

「うわぁあああっ!」

ドワーフの鉱夫達は我先にと逃げ出す。

一匹ならまだしも何十匹のゴブリンに、武器を持たない彼等がどうやっても勝てるはずはなかった。

そして追いつかれた者はゴブリンの凶刃に次々と倒れていく。

何人かのドワーフはピッケルなどで対抗していたが、彼等もすぐにゴブリンの波に飲み込まれてしまう。

百匹のゴブリンが穴から出た後、最後にゴブリンの何倍も大きな体躯を誇る血のような肌を持つ二本の角を生やした化け物が現れる。

その怪物こそがゴブリン達を従える者だった。

「ドワーフ達ヲ皆殺シニシロ!」

「オォオオオォオオッ!」

その一言でゴブリン達は雄叫びをあげながら一斉に走り出す。

広場のドワーフ達を皆殺しにしたゴブリン達は他の鉱夫達を殺しながら上へ上へと向かう。

更なる血と肉と悲鳴を求めて。

彼等は久し振りの血の饗宴に酔っていたのだった。

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