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第1話 十年ぶりの帰還 その3

平手打ちされて呆然としていたプロスヴァーはヤケ酒のように酒を煽っていた。

その時また誰かが近づいて来て彼に声をかける。

「王子。お久しぶりです」

「……うん?」

プロスヴァーが声をした方を振り向くと懐かしい白い髭が目の前にあった。

「ダブローノス、ダブローノスか!」

プロスヴァーは一瞬にして再会の喜びで酔いが覚める。

「王子。懐かしゅうございます」

「よくここが分かったな!」

「ええ、貴方が王国に戻って寄るところと言ったら王宮か、行きつけだったここぐらいしかないでしょう」

二人は再会を喜んで抱き合う。

「久しぶりだな。色々と話したいことがあるんだ。さあ座ってくれ」

「失礼します」

椅子を薦められたダブローノスはそう言ってプロスヴァーの向かいに座った。

「おい、もう一杯ビールを頼む。後、彼にも同じのを用意してくれ」

酒場のオヤジにそう大声で告げる。

「王子、そんなお構いなく」

「何を言うか! 十年ぶりに会ったのだ。一杯ぐらい付き合ってくれでもいいだろう」

その昔馴染みにあった子供のような笑顔を見てダブローノスも考えを改める。

「分かりました。一杯付き合いましょう」

その言葉を待っていたかのようにタイミングよくオヤジがビールが注がれたジョッキを持ってきた。

「では、乾杯!」

オヤジが立ち去り二人はなみなみとビールが注がれた石のジョッキを打ち鳴らし一気に飲み干すのだった。

一気に杯を空にした二人は暫くアルコールが身体中を巡っていく感覚を味わっていた。

先に口を開いたのはプロスヴァーの方だった。

「あれから十年か……お前はあの時から変わらないな」

「いやいや、貴方はまだお若いからそう言えるのですよ。ここ最近は私も昔より体力がなくなってきて歳をとったな、と実感しております」

「そうか。俺にはお前が歳をとったようには見えないがな」

「ありがとうございます。もちろん私もまだまだ若いものに負けないために毎日鍛えておりますから」

「はははっ、そうか。お前のポールアクスさばきをまた見たいものだ」

「なら、昔みたいに稽古の相手をして差し上げましょうか?」

「いや、それはまたの機会にしておこう。青アザだらけになるのはごめんだからな」

「それは残念」

「「ワハハハハハッ!」」

二人は酒場の喧騒に負けないぐらい大声で笑う。

プロスヴァーは子供の頃からダブローノスに剣の稽古をつけてもらっていた。

その時は一回もダブローノスの操るポールアクスを捌くことができずいつも打ち負かされていた。

二人にとってそれはまだ王国が平和で幸せだった頃の懐かしい記憶だった。

「…………」

「……王子はこの十年間何をしておられたのですか?」

一番聞きたいことをなかなか聞けないプロスヴァーを見かねてダブローノスが先に口を開く。

「王子が出て行ってから今まで一度も便りも寄こさず、風の噂で王子が無事だとは聞いていたのですが、何処で何をしているかまでは全く王国の耳には入りませんでしたから」

「そうだな。俺はこの王国を出て最初に鍛冶屋で働いていたよ。人間の街で店を出す親方の元で働いていたんだ……」

プロスヴァーはゆっくりと自分の体験してきた十年間をゆっくりと話していく。

ダブローノスは黙ってそれを聞いていた。

「……それでつい最近まで傭兵稼業をしていたんだが……父、陛下が封印していたダンジョンに兵を送ると聞いてな。戻ってきたんだ」

「なるほど、しかし王子。兵をダンジョンに派遣する事一体誰から聞いたのです? 我々は外にはこの事を漏らしていないはずなのですが」

ドワーフ達がどんな困難な問題でも他の種族の力を借りずに自分達で解決しようとするのはプロスヴァーも、もちろん知っていた。

「確かマホウツカイとか言う得体の知れない人間の女性だったな。この王国に来た事があるのだろうか?」

ダブローノスは一瞬ある伝説の英雄を思い出すがすぐに違うと思いその考えを頭から追い払う。

もし同一人物だとしたらその人物は数万歳を越えているだろう。

そんな長い間生きられるのはエルフ以外には考えられなかったし、確かその英雄は記憶が確かならエルフではなかったはずだ。

なのでダブローノスはプロスヴァーにこう答える。

「マホウツカイ? いえ私も聞いた事はないですな。それにあの事件から十年、人間との交流も王は絶ってしまいましたからな」

プロスヴァーは声のトーンを落として一番聞きたい事を尋ねる。

「王は、陛下は一体何かあったのか? 王自身があの封印を解くのはどう考えてもおかしい。お前もそう思うだろう?」

「……そうですね。貴方の疑問に、十年前の私なら迷わず、はいと答えたでしょうが、今の陛下を見ている私には、はいとは言えません」

「一体何が! 王の身に何かあったのか? 答えろダブローノス!」

思わず身を乗り出しダブローノスの襟元を掴むプロスヴァー。周りの客は喧嘩でもしているのかと、遠巻きに見つめていた。

「私の口から聞くよりも、実際に会って確かめてみるべきでしょう」

「しかし、俺は王宮への出入りは許されていないぞ」

「私と共に行けば大丈夫ですよ……そうですね、では明日の朝一番に共に参りましょう」

「今からでは駄目なのか?」

「申し上げにくいのですか、王子。酒の匂いを抜いたほうがよろしいかと」

プロスヴァーは言われて自分がしこたまビールを飲んでいた事に気づく。

「分かった。じゃあ今日はここの宿に泊まる。明日朝に城に向かうのだな?」

「はい。私が明日こちらまで迎えに参ります」

「ああ、頼む」

「それでは王子。ここで失礼させて頂きます」

プロスヴァーは去り際のダブローノスにこう告げた。

「ダブローノス。会えてよかったぞ!」

「私もですよ。王子」

ダブローノスが去った後、プロスヴァーは重い足取りでカウンターまで行き宿を取った。

湯浴みをして酒の匂いを落としてすぐに彼はベッドに飛び込むとすぐ寝てしまう。

夢の中で彼は十年前の事件を思い出していたのだった。

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