第6話 不死者の住まう町 その7
「転送石が無い?」
「……はい。その通りです」
プロスヴァーのその言葉に答えたのはヴェシマだった。
「どういう事なんだ?」
「その、お二人を出来る限り早く助ける為には作っている時間がなかったんです」
「つまり、私達は帰れないの?」
それを聞いて二人を重い空気が包み込む。
ヴェシマはそれを打ち払うように慌てて言葉を続ける。
「あっ、で もそんな落ち込まないでください! 作る道具は持ってきてありますから」
「ここで作れるの?」
「はい。少し広い場所があれば作れます。唯……」
「どうした? 何か問題か?」
「えっと、その、完成するまで一月ほどかかるんです……」
それを聞いたクラヌスは開いた口が塞がらないといった顔をしていた。
「だが、ヴェシマ。時間がかかっても、君は転送石を作る事が出来るんだろう?」
「はい!」
「別に帰れないわけでは無いんだ。少し帰るのが、遅くなるだけ。そうだろう」
ヴェシマは頷く。
「なら、問題は無い。俺たちはここで不死の王冠を手に入れる為に来たんだ。まずは王冠を一刻も早く手に入れよう」
「……そうよね。ごめんなさい。もしかしたら帰れないって。ちょっと驚いちゃっただけ。ごめんねヴェシマ」
「いえ。いいんですよ」
「あの、宜しいですか?」
「どうしましたエデルさん」
話が一段落すると、おずおずとエデルが口を開く。
「えっと、さっき皆さんが仰られていた、不死の王冠の事なんですけど……」
七人の目が一斉にエデルを見つめる。
「ひゃっ! そんな睨まないでください」
エデルは両手をパタパタと振って視線を遮ろうとする。
「すいませんエデルさん。皆、少し離れるんだ……これで宜しいですか?」
「は、はい。大丈夫です」
七人が少し離れた事で、エデルは落ち着きを取り戻し、話し出す。
「皆さんが話していた不死の王冠の事なんですけど、その王冠かどうかは分からないんですけど、王様が病の治療の為にとても強い魔力を秘めた王冠を手に入れたという話を、思い出したんだんです」
「強い魔力を秘めた王冠……ですか」
「はい。唯、それ以上はちょっと……すいません。お役に立てなくて」
「そんな事無い。とっても有力な情報よ」
「ええ、どんな小さい情報でも我々には必要です。ありがとうございます。エデルさん」
「そうですか。お役に立てて良かったです」
「じゃあ、早く城の調査に行きましょう!」
クラヌスがプロスヴァーの顔を覗き込んでそう言ってくる。
「ああ、みんな何か異論はあるか?」
プロスヴァーは仲間達の顔を見回す。
「ない」
「僕もないです」
ソンツェルとヴラークが手を上げて答える。
「私達も異論はありませんぞ」
「…………」
ダブローノス親子からも反論はなかった。
「ボクも異論はありません」
最後にヴェシマの返事を聞いてから、プロスヴァーは大きく頷く。
「じゃあみんな。急いで準備してくれ。すぐ出発するぞ!」
「「「おおっ!」」」
「色々とお世話になりました。エデルさん」
出発の準備を整えた七人は家の前に並び、代表としてクラヌスが別れの挨拶をする。
「いえいえ。こちらからもお礼を言わせてください。家中ピカピカにしてもらってありがとございました」
「お世話になった人の家を綺麗にするのは当たり前よ」
家の中は七人が来る前よりも綺麗に掃除されキラキラと光り輝く。
プロスヴァー達は、出発の準備をしながら、家の中を隅々まで掃除していたのだ。
「私達ドワーフは受けた恩は必ず返すものなの」
「ではエデルさん。お世話になりました」
「はい。皆さん。どうかご無事で」
エデルが深く頭を下げてお辞儀し、プロスヴァーも軽く頭を下げてそれに答える。
そしてプロスヴァーを先頭にして七人は、見送るエデルに会釈をしながら歩き出すのだった。
七人は隊列を組んで、城下町を城に向かって歩く。
先頭はソンツェルとヴラーク。
その後をプロスヴァー、クラヌス、ダブローノスが続き、ヴェシマの背後を守るようにチャリーノスが殿を務める。
ソンツェルとヴラークは二人一組で少し先行して、前方を偵察する。
「敵だ」
角を曲がった先に二人の衛兵が佇んでいた。
「仕事熱心な事で」
「どっちを殺る?」
「僕一人で充分」
ヴラークはクロスボウを構える。
「もし取り逃がしたら、その時はよろしく」
「へいへい。お手並み拝見」
クロスボウには更に改良を施され、ストックが取り付けられていた
それを肩につける事で、手ブレを抑え、クロスボウを安定させる。
一人の衛兵の頭に狙いをつけ、光のポーションをつけたボルトを発射する。
ボルトは衛兵の兜ごと頭を貫通し、崩れ落ちる。
自動で装填位置に後退した弦にボルトを装填し、素早くトリガーを引く。
太矢はこちらを向いた二人目の左眼に突き刺さり脳まで貫通していた。
「……ふう。終わったよ」
「ご苦労さん」
ソンツェルは衛兵が死んでいるのを確認すると、五人を呼んだ。
「彼ら、何故今も、町を守っているのかしら……」
ふとクラヌスがそんな事を呟く。
「こんなふうになる前から、彼等は衛兵だったんだ。だからアンデッドになっても自分の職務を全うしてるんだろう」
プロスヴァーは「あまり深く考えるな」と言いながら頭をポンポンと叩く。
「ん……分かってる」
「ならいいんだ」
その後も、何度か衛兵を倒しながら、一行はついに城の前に到達する。
「でけえな!」
思わずソンツェルが大声を出す。
城には幾つもの尖塔が針山の如く建ち並んでいた。
だが、それ以上に異様だったのは城全体が石で包み込まれ、全ての窓も門も塞がれていた事だ。
「まるで何かを封印しているようですね」
ヴェシマは石に閉じ込められた城をスケッチしながら、感想を漏らす。
「あれは何かしら?」
城の正面に近づいた時、クラヌスがあるものを見つけて指を指す。
それはクラヌス以外の六人にも、ある意味、城以上に異様な印象を与えていた。
城の城門は石によって固く閉ざされていたが、その前にこちらに背中を向けて、城に祈りを捧げるように両膝をつく石像が立っている。
七人が石像に近づこうとしたその時、その影から一人の人物が、金属の足音を響かせながら現れた。
現れたのは全身を隙間なく黒い鎧で纏い、両手には、紋様が彫られた長柄の斧を持っている。
七人はすぐさま武器を構え臨戦態勢をとった。
黒い騎士が、あと一歩近づけば間合いに入るところでその足が止まる。
「…………」
黒い騎士と七人は無言で睨み合う。
『お待ちなさいゲルター。そして皆様も剣をお納め下さい』
「何? 頭の中に声が……」
クラヌスが言ったように七人の頭の中に女性の声が聞こえてくる。
「おい見ろ!」
ソンツェルが指差した方を見ると、ゲルターと呼ばれた騎士がプロスヴァー達を睨んだまま、後ろに下がり、石像の前で直立不動の姿勢をとった。
『皆様。私の騎士が失礼な事をしました』
「何処にいるんだ?」
『私の事をお話しするために、皆様、門のところへ近づいてきてください』
「どうするのプロスヴァー?」
「……今は、この声に従おう。それに従わなければ、あいつを相手にしなければならないだろう」
プロスヴァーは黒い騎士を睨みながら、ヴォルヴィエを鞘に納める。
それに倣って六人も武器を納めた。
七人は警戒しながら黒い騎士と石像に近づいていく。
『皆様。わたくしの話を聞いて、武器を納めて下さりありがとうございます』
「罠じゃねえだろうな」
『罠ではありません。信じて下さい金色の髪のお方』
「ソンツェル。口を噤め」
プロスヴァーに嗜めるように睨まれてソンツェルはむっつりと押し黙る。
『信じて下さりありがとうございます。貴方が代表の方ですか?』
「そうです。私の名前はプロスヴァーと言います。ドワーフの王国、カロヴァー王国の王子です」
『プロスヴァー王子ですね。わたくしはシュピラニエ。ここダストル王国の王妃を務めております。この者はわたくしの守護騎士ゲルターです』
シュピラニエに紹介されたゲルターは軽く会釈する。
「シュピラニエ王妃。話の前に貴女は何処におられるのですか? 我々の前に現れず、話を進めるのは失礼だと思うのですが?」
その一言にゲルターが一歩前に出る。
『ゲルター。いいのです、下がりなさい』
「…………」
ゲルターは暫く逡巡した後、大人しく元の位置に戻った。
『すいません。失礼いたしました』
「いえ。こちらも失礼な態度をとりました」
プロスヴァーはヴォルヴィエの柄から手を離す。
『実は、わたくしは皆様の前に最初からいるのです』
「もう我々の前にいる?」
プロスヴァーの目に映っているのはこちらに背中を見せる石像とその側に寄り添う騎士ゲルターだけであった。
「……まさか!」
『そのまさかです。プロスヴァー様』
ゲルターの傍らの石像はプロスヴァーから見ると背中だけだったが、よく見ると女性の体型だった。
『そうです。私は、石の姿でこの門を、長い間守っているのです』
「何故その姿に?」
『お話しするのは構いませんが、少し長くなってしまいますが、よろしいですか?』
「構いません。ここで何が起きたかも知りたいのです」
シュピラニエは『分かりました』と言ってから、自分の身の上を語り始める。
『私の夫である国王は、とても優しく民に慕われた素晴らしい王でした。しかし王は幼少の頃から体が弱く、わたくしがここに嫁いだ時も、王はいつも病床についていました。私達は何とか病を治そうと色々な方法を試したのですが、全て上手くいきませんでした。万策尽きたその時、ある人物がわたくし達の前に現れ、魔導器を持ってきたんです』
「魔導器?」
『はい。それは王冠でした。全体は闇のように黒く、四つのドクロが組み込まれたそれは一目見てとても凶々しい物でした」
「その王冠の名前は?」
父ガラヴァーが言っていた特徴と王妃が言う特徴は一致していた。
「それは不死の王冠という名前でした」
「やはり……王はそれをつけたのですか?」
『いいえ。王はそれがとても不吉な物と気付いたのでしょう。保管庫の奥深くにしまっていたんです』
「しかし、何処かでその王冠の力を使ったんですね?」
『はい。その通りです。王は最初で最後の一度だけその力を借りたんです』
「……それは、この王国が魔物の侵攻を受けた時ですか?」
『ご存知だったんですね。王は侵攻してくる魔物と戦うために王冠をつけ、その力を解放したんです。しかしそれは呪われた力でした。城から溢れ出る魔力は王国中を包みました」
「それで町の人々はアンデッドと化した……」
『はい。わたくしには王を封じ込めるので精一杯でした』
「封じ込めるとはどういう事ですか?」
「王は不死の王冠に呪われてしまい、今や人の姿はしていません。私は王を閉じ込めるために、持てる魔力の全てを使って、城の全ての出口を塞いだのです。その代償でわたくしの身体も石と変わってしまいました」
「つまり、この城は、今も貴女が封印していると?」
シュピラニエは『はい』と答えた。
「質問ですが、城に入る事は可能なのですか? 我々の探している物は、恐らくこの中にあるのです」
『プロスヴァー様は不死の王冠を求めているのですね?』
「はい。そうです」
『宜しければ不死の王冠を求める理由をお教えくださいませんか?』
「構いません。全て話しましょう」
プロスヴァーは自分の父であるガラヴァー王が不死の王冠を求めている事を話した。
『そうですか。不死の王冠は、差し上げても構いません』
「宜しいのですか?」
『はい。しかしひとつお願いがあります』
「何でしょう」
『王は今も城の中で、呪いにより生かされ苦しんでいるはずです。もしできる事なら貴方の持つその剣で解放してあげて欲しいのです』
「私の剣で、ですか?」
『はい。その剣からは、とても懐かしい魔力を感じます。私の友人が持っていた剣に似ているのです。その剣ならば、夫を呪いから解放できるはずです』
プロスヴァーは砦で見つけた遺体の事を思い出したが、彼女にはその事は伝えなかった。
「分かりました。善処しましょう」
『ありがとうございます。ドワーフの王子』
「それで城の封印を解く方法は?」
『それは簡単です……わたくしの命を断てばいいのです』
「それは……」
「できませんか? 簡単な事です。私は石の身体とはいえ、貴方の剣なら容易く貫けるでしょう」
プロスヴァーは苦い顔をしながら一歩シュピラニエに近づく。
「…………」
その歩みを邪魔したのはシュピラニエの守護騎士だった。
『ゲルター!』
「……お許しください。シュピラニエ様。私は貴方の騎士。貴女に刃を向ける者はどんな理由であれ、私の敵です」
「そこをどけ。と言っても退いてはくれないか」
ゲルターは頷くだけだった。
「待った」
プロスヴァーがヴォルヴィエの鯉口を切った直後、クラヌスに呼び止められる。
「クラヌス、邪魔するな」
彼女はプロスヴァーの前に出ると、彼の方を振り向いた。
「貴方はまだやる事があるでしょ? こんなとこで無駄な体力を使うべきではないわ」
振り返り、持っている斧をゲルターに向ける。
「あいつの相手は私がするわ」
「しかし……」
「何よ。私が勝てないと思ってるの?」
「思ってはいない。だが奴は強いぞ」
「じゃあ、信じて。私が勝つ事」
クラヌスはプロスヴァーの頬に口づけをする。
「…………」
不意打ちをくらったプロスヴァーは何も言えず頷くだけだった。
「待たせたわね。黒騎士さん」
クラヌスはゲルターに近づき、斧の柄頭を地面に打ち付ける。
「お前が私の相手か?」
「そうよ。女だからって手加減するとか言う気?」
「いや、安心しろ。例え子供とてシュピラニエ様の命を狙う者は全て敵だ。ただ全力で殺すのみ」
直立不動の姿勢だったゲルターはゆっくりと動き出し、クラヌスと相対する。
「名前を聞いておこうか」
「私はクラヌス。ペシチェ王国の姫よ」
「ペシチェのクラヌス。覚えた。私の名前はゲルター。貴様を殺す者だ」
ゲルターはそう言い終えて、斧を大上段に構えた。
対するクラヌスは斧を右側に向けて構える。
両者はじりじりと近づくが、どちらも斧を振ろうとはしない。
二人の持つ斧は斧頭に重量が集まっている。
その分、一撃が高い殺傷力を持つが、逆に言えばそれを外した時の隙もとても大きい。
なので二人は、確実に相手を殺せる瞬間が来るその時を見極めていた。
クラヌスの顔に一筋の汗が垂れて、地面に落ちる。
相手の動きを見極めようと集中している為に、予想以上に体力を消耗していた。
再び、汗が伝い落ちた時、先に動いたのはクラヌスだった。
右から左に相手の首めがけて全力で振るう。
ゲルターはそれを読んでいて、柄で受けて弾いた。
そして隙だらけになったクラヌスの頭に必殺の刃を振り下ろす。
「!」
クラヌスは防御が間に合わないと悟り、自分が出せる最大の速さで首を反らした。
しかしゲルターの斧を避ける事はできなかった。
彼女の足元が自分の血で染まり、切られた黒髪が宙を舞う。
「?」
予想よりも手応えが軽く感じたゲルターは動きを一瞬止めてしまう。
「隙あり!」
決まったと思って動きが止まったゲルターの喉に、クラヌスの斧の柄頭が打ち込まれる。
「グオッ」
クラヌスは間髪入れずに、喉を突かれて後退するゲルターの左膝に斧を打ち込んで引き抜く。
膝を断たれたゲルターは立てずに背中から地面に倒れる。
だがもちろんゲルターも諦めてはいない。
倒れた無理な体勢から斧を振るおうとしたが、それより先にクラヌスが動いていた。
「たぁあああああっ!」
頭上に振り上げた斧を全力で振り下ろす。
振り下ろされた斧頭はゲルターの胸部の鎧を打ち切り、胸を深く切り裂いた。
「ごはっ」
クラヌスの斧はあまりの衝撃で、ゲルターに斧頭が食い込んだまま柄から折れてしまう。
「きゃっ」
彼女は斧が壊れた衝撃で尻餅をついて動けなくなってしまう。
「クラヌス! クラヌス大丈夫か?」
プロスヴァーは素早く駆け寄って彼女を抱き起こす。
見ると頭から血を流していて、顔半分が赤く染まっていた。
「ん? んぅ……プロスヴァー?」
「今、止血するぞ。待ってろ」
持っていた手拭いを、彼女の傷口に強く推し当てる。
「痛、痛いってば」
「我慢しろ。血を止めないと……」
クラヌスの制止を無視して、手拭いを傷口に強く推し当てるプロスヴァー。
「う〜〜〜〜、痛いって言ってるでしょうが!」
「ぶぼっ」
まさかのアッパーカットを喰らってプロスヴァーはダウンしてしまう。
「えっと、どっちが怪我人かな?」
治療の為に駆けつけたヴラークは頭をかいて困惑していた。
「いてて、大丈夫なのか? クラヌス」
「私は大丈夫。かすっただけよ」
ヴラークは「失礼」と言って、彼女の傷を診る。
「うん。傷は深くないね。今から治療を……」
「ちょっと待って、まだ彼と話すことがあるの」
クラヌスは自分で手拭いを巻いて止血する。
その姿は眼帯をした女戦士だった。
彼女は倒れているゲルターに堂々とした足取りで近づく。
「……見事だ。ペシチェの姫よ」
「クラヌスよ。見て、あなたのせいで私の自慢の髪が台無しよ」
クラヌスのツインテールはゲルターの斧によって左手側のテールが見事に無くなっていた。
「でも、あなたも強かったわ。私の次にね」
「……それは光栄だ……ゴホッゴホッ、この斧を受け取れ」
「あなたの斧を?」
「そうだ。これには魔力が込められている。きっとお前の、いやクラヌス姫の役に立つだろう」
「……ありがとう」
クラヌスはためらいながらもゲルターの斧を持ってみる。
(しっくりくる)
斧は、クラヌスを持ち主と認めるかのように彼女の手の中に収まっるのだった。
『ゲルター』
自分が仕える王妃の悲しそうな声を聞いて、ゲルターは首を出来る限り彼女の方に向ける。
「シュピラニエ様。命令を守らず、挙げ句の果てに守るべき貴女より先に逝く愚かな騎士をお許し下さい」
『……許します。今までよく仕えてくれました。安らかに眠りなさい。わたくしの守護騎士』
「……シュピラニエ様。私は貴女のことが……」
ゲルターは最後まで言い終えずにそこで息絶えた。
「王妃……」
『……親しい者がいなくなるのは寂しいですね。プロスヴァー様』
「はい」
プロスヴァーはシュピラニエの正面に立つ。
その時、初めて彼女の顔が見えたがそれは石の姿でも息をのむほど美しかった。
『王子』
「はい」
『貴方の大切な人。しっかり守ってあげてくださいね』
プロスヴァーはクラヌスの方をチラリと見てすぐ視線をシュピラニエに戻す。
「はい」
ヴォルヴィエを鞘から抜くと、ピタリとシュピラニエの首の部分に狙いをつけて、振り上げる。
『我が王の事よろしく頼みます』
「はい」
プロスヴァーがヴォルヴィエを振り下ろそうとしたその時であった。
「待つのじゃ!」
その声で慌てて刀を止める。
刃はシュピラニエの首に触れるか触れないかのところで止まった。
七人は声がした方を見つめる。
「誰だ?」
「ワシじゃ。ワシじゃよ。カロヴァー王国の王子よ」
建物の陰から現れたのは、灰色のローブを着て同じ色のとんがり帽を被った女性だった。
彼女は右手に持つ杖をつきながら歩いてくる。
「あなたは……マホウツカイ殿?」
「その通り、マホウツカイじゃ。覚えてくれていてよかったわい」
「何故ここに? いやどうやって入れたんだ?」
「まあ待ちなさい。まずは剣を納めるのじゃ。そしたらお主が聞きたい事を全て話そう」
「…………」
プロスヴァーは迷ったが、渋々ヴォルヴィエを鞘に納めた。
「ふむ。それでよいぞ」
そう言いながら、マホウツカイはプロスヴァーの元に近づいてくる。
「久しぶりじゃの。プロスヴァー殿。ここまで来ることが出来てよかったの。目的の物はもう少しじゃ」
「貴女は、一体何を知っているんですか?」
「ちょっと待て。お久しぶりでございますシュピラニエ王妃」
プロスヴァーの言葉を遮って、マホウツカイはとんがり帽を取ると王妃に深くお辞儀をする。
『わたくし、貴女にお会いした事がありましたでしょうか?』
王妃もいきなり現れたこの女性に面食らっていた。
「おっと失礼。この姿は初めてお目に掛かります。実はワシは……」
マホウツカイは他の者に聞こえないように耳打ちする。
『あ、貴女が……!』
「おっとこの事は内緒にしておいてくれ」
「あの、何の話をされているのですか?」
「おお、すまん。もう済んだ。それでお前さんは何が聞きたかったのかな?」
「はあ、ですから一体どうやって入ったのですか?」
「ふむ。お前たちの後をつけたら、転送石で何処かに行こうとしていたからな。面白そうだと思ってこっそり入ったんじゃが……何処かわからない場所に出てしまってな。今までお主たちを探していたという事じゃ」
マホウツカイはそう言ってウィンクをする。
嘘なのか本当なのか分からないマホウツカイの言葉に反論する気も失せてしまったプロスヴァー。
「で、貴女は何しにここへ来られたのですか?」
「簡単な事じゃ。ワシもお主らを手伝う為に来たのじゃ」
「貴女が、手伝う? 」
「そうじゃ。ワシなら王妃の封印を解く事も簡単じゃ。じゃがお主の剣では確実とは言えん」
「貴女なら確実に封印を解けると?」
「その通り、何じゃその信用できないと言った顔は」
「当たり前でしょ。貴女は色々俺たちの手助けをしてくれているようですが、封印を解く力があるとはとても思えないのですが」
「まあ論より証拠。見た方が早いだろう」
マホウツカイは持っている杖を王妃の肩に当てる。
「王妃。よろしいですな」
『はい。お願いします』
「では行きますぞ」
マホウツカイは集中するように両目を閉じる。
「テッモヲ、ラカチガワ、ケトヲ、ンイウフノ、ノモノコ」
プロスヴァー達には何を言っているのかさっぱり分からなかったが、両手から杖に光が集まり、それは段々と杖を伝って王妃の体に到達する。
シュピラニエの身体に光が触れた途端、強い光が彼女を包み込んで爆発するかのように光が溢れ出す。
七人が思わず目を閉じ、開いた次の瞬間には王妃とゲルターの姿は消えていた。
「二人は?」
「封印は解いた。それと同時に肉体の闇も払われたのだ。二人の魂はあるべき場所に戻ったよ」
「そうか……」
相変わらず、マホウツカイの言う事はよく分からなかったが、何となく理解できたので、それ以上は何も聞かなかった。
「それよりも、城を見なされ」
「おお!」
プロスヴァーは感嘆の声を漏らす。
見ると城を包んでいた石は消え去り、正面の城門が音を立ててゆっくりと開いていくのだった。
「さあ、城内に入ろうかの。国王に謁見しなければな」




