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第6話 不死者の住まう町 その6

ボルトは一発で終わりではなかった。

次々と飛来するボルトは、クラヌスを捕らえていた衛兵達の急所を貫いていく。

倒れた衛兵達は起き上がらない。

「な、何故! 唯の武器で殺せるのだ!」

指揮官は驚いていた。自分達が唯の武器では死なない事を知っていたからだ。

「クラヌス、避けて!」

自由になったクラヌスの耳に、知っている声が警告を伝えてきた。

クラヌスは声を信じて、咄嗟にその場から離れる。

その直後、破裂音が轟きクラヌスがついさっきまでいた所を氷の魔力が包み込んだ。

その場にいた衛兵達の身体が一瞬にして凍り付き、直後粉々に砕け散る。

それは氷の擲弾ヴァダルだった。

「ヴェシマ!」

クラヌスは思わず魔道具を扱える彼女の名を呼んでいた。

「僕もいる事を、お忘れなく!」

そう言いながらヴラークが、愛用のクロスボウで、次々とボルトを放ち、隣ではヴェシマが魔力を詰めた擲弾をスリングで放つ。

「何をしている。さっさとあの二人を殺せ!」

衛兵達が、ヴェシマとヴラークに気を取られている隙に横の路地から大盾が突進してきた。

現れたのはもちろんいつも無口なあの男だ。

「チャリーノス!」

「…………」

彼はクラヌスの呼びかけに頷くと、持っている王の盾を振り回し、敵を叩いて、潰して、吹き飛ばす。

「姫様、プロスヴァー様。お二人共ご無事ですか?」

チャリーノスの後ろから、ダブローノスが躍り出て、両手に持つハルバートを振るう。

スパイクで一人の胸を突き刺した後、周りを囲んできた衛兵達に対して、ハルバードをまるで竜巻のように振り回すと、次々と首が宙を舞う。

「す、すごい……」

関心するクラヌスの背後に衛兵が近づいていた。

「ぐがっ」

声がしてクラヌスが後ろを振り向くと衛兵がうつ伏せに倒れる。

その背中には刃が光るブロードソードが突き刺さっていた。

「油断しちゃ駄目だぜ。お姫様」

倒れた衛兵の陰から現れたのは、ソンツェルだった。

「ほらっ。落し物だ」

ソンツェルは右手に持っていたクラヌスの斧を彼女に投げ渡す。

「あ、ありがとっ」

「後これを……」

「死ねぇえええ!」

次に小瓶を投げ渡そうとした時、新たな衛兵が槍を構えてクラヌスに迫る。

「それを投げて!」

「行くぞ!」

ソンツェルはクラヌスに向けて小瓶を下手投げで投げる。

投げられた瓶は、衛兵よりも早くクラヌスに迫る。

彼女は小瓶を斧刃で受けた。

斧に当たった小瓶は砕け、中身が斧にかかり刃が白く輝く。

クラヌスはそのまま光る斧を、迫る衛兵に振り下ろした。

衛兵は右肩に斧を受けて、膝をついて動きを止める。

「てやぁあああっ!」

クラヌスは斧を引き抜くと、首を狙って横薙ぎに振るいその首を切り飛ばした。

「相変わらず豪快だな」

「私のことはいいから! 早くプロスヴァーを助けてあげて!」

「分かってる。まあ心配なさそうだがな」

プロスヴァーと指揮官はまだ向かい合ったまま動かなかった。

指揮官は何度も離れようとしたが、プロスヴァーの強い握力に剣を固定され、押すことも引くことも出来ない。

「くそっ! この、この!」

「どうやら形勢逆転のようだ……な!」

プロスヴァーは切っ先を防いでいた右腕を自由にすると、思いっきり力を込めて握りこぶしを作る。

そして渾身の力を込めて、指揮官の顔をぶん殴った。

「ごはっ」

拳は兜の面頬をへこませ、指揮官を吹き飛ばす。

プロスヴァーは後を追いかけながら、地面に刺さっていたヴォルヴィエを引き抜いて構える。

起き上がろうとした指揮官の胸部を踏みつけて固定すると、面頬が外れてむき出しになった顔に逆手に持った太刀を深く突き刺す。

「がっ、ががっ……」

「終わりだ」

切っ先は頭を貫通し、地面まで達していた。

プロスヴァーが、ヴォルヴィエを引き抜き、周りを見渡すと衛兵たちはあらかた倒されていた。

「遅かったじゃないか、ソンツェル」

「すまんすまん。こっちも色々準備があってな」

ソンツェルは武器を腰に収めながら、プロスヴァーに近づいてくる。

その彼をプロスヴァーは強い目つきで睨んでいた。

そして近づいてくるソンツェルにこう言い放つ。

「だがお陰で助かったぞ!」

プロスヴァーとソンツェルは手をガッチリと組んで再会を喜ぶ。

「ハハハッ、本当に二人が生きててよかったよ」

「ソンツェル達も無事でよかった。それにしても、アンデッドを殺す方法、どうやって見つけたんだ?」

「それは後で話そう。今はお前の傷の手当てが先だ」

ソンツェルに言われてプロスヴァーは自分の身体が至る所で痛みを訴えていることに気づいた。

左手の剣を握った時にできた傷。

そして肩と太腿の矢傷も開いてしまったらしく、そこから血が滲み、ガンガンと痛みを発していた。

「プロスヴァーさん。無事でよかった。傷を診ましょう」

「ヴラーク。俺よりも先にクラヌスを診てやってくれないか?」

「もう診ました。彼女の傷は大丈夫です。それよりも貴方の方がどう見たって重症ですよ」

プロスヴァーはちらりとクラヌスの方を見ると、彼女は家の壁に寄りかかってヴェシマと話していた。

「そうか、じゃあ俺の傷を診てくれ」

「分かりました。失礼します」

大丈夫そうな様子のクラヌスを見て、プロスヴァーは自分の傷の事も忘れて安堵するのだった。


クラヌスはヴラークに傷の手当てをしてもらって、近くの家の壁に寄りかかっていた。

「クラヌス、クラヌス!」

「ヴェシ……わっ!」

ヴェシマが走って思いっきりクラヌスに抱きつく。

「もう心配したんですから!」

「ごめん。心配させちゃったね」

「本当ですよ。二人の事を教えてくれた女性に感謝ですよ」

「私たちの事を教えてくれた女性?」

ヴェシマが「あの女性(ひと)ですよ」と言って、見た方をクラヌスも見る。

そこには見覚えのある女性がいた。

「エデルさん!」

「間に合ってよかったです」

エデルはクラヌスに、にっこりと微笑みかける。

「どうしてここに?」

「二人が出て行ってから、暫くして大きな音がしたので、どうしても心配だったので、外を見たんです。そしたら皆さんと出会って、ここまで案内したんです」

「そうだったの。ありがとうエデルさん」

「いえいえ、私は大した事はしていません」

「姫様。今は取り敢えず安全な場所に避難しましょう。話しはそこで」

「安全な場所?」

「私の家です」

エデルの案内で一行は彼女の家に招かれていた。

旦那のヴェルトは最初、プロスヴァーとクラヌスの顔を見て渋い顔をしていたが、更に五人ののドワーフが現れて驚き、部屋の中に閉じこもってしまう。

「あの人には悪いですけど、今は我慢してもらいます。どうぞ皆さん狭いですけどくつろいで下さい」

エデルの好意に甘え、一同は一時の安らぎを得ていた。

「クラヌス」

下で集まって話をすることになっていたクラヌスは、部屋を出たところでプロスヴァーに呼び止められる。

彼は左腕を首から布で吊るしていた。

「怪我、大丈夫?」

「ああ、これか? ヴラークに「当分動かすな」と釘を刺されてね。だが心配ない」

「そう……良かった」

「それよりもクラヌス。君の方こそ大丈夫なのか?」

プロスヴァーはクラヌスの頬を右手の指で触れる。

「えっ、わっ!」

「すまん。痛むか?」

「だ、大丈夫よ。ヴラークから、と〜っても苦い飲み薬もらったから」

「そうか、もう痛くはないんだな。すまない。お前の事を守れなかったな」

プロスヴァーはそう言いながら彼女のかすかに腫れて赤い頬を撫で続ける。

「き、気にしてないわ」

顔を赤くしながらもクラヌスは、プロスヴァーに頬を触れられるのは嫌ではなかった。

二人はしばらく無言のままだった。

「クラヌスさん。話があるので下に集まってください……」

ヴラークの声が聞こえてプロスヴァーは慌てて手を引っ込める。

しかし、少し遅かったようで、

「すいません。お邪魔しました!」

ヴラークは二人の様子を見て慌てて退散する。

「下降りましょうか?」

「……ああ」

「顔、真っ赤よ」

「…………」

クラヌスに指摘されて、今頃になって自分の行動が恥ずかしくなってきたプロスヴァーは何も言えなかった。


一階に降りて、プロスヴァーとクラヌスは居間に入る。

居間にはすでに五人のドワーフ達が集まっていて、家の住人であるエデルは肩身が狭そうだった。

「遅くなったわ」

「おっ、来たな。お姫様、プロスヴァー。まだ俺たちは待っていてもよかったんだぜ」

ソンツェルがニヤニヤしながらそんなことを言う。

「……うるさい」

「コホン。ふざけてないで始めるぞソンツェル」

軽く咳払いして、誤魔化すプロスヴァー。

「へいへい。じゃあどこから話しますかね?」

ソンツェルもそれ以上は追求しなかった。

四人掛けのテーブルにプロスヴァーとソンツェル、クラヌスと最年長のダブローノスが向かい合うように座り、その周りを仲間達が立って囲む。

「あの〜私は席を外しましょうか?」

エデルがおずおずと手をあげる。

「いや、貴女もいて下さい。色々と質問するかもしれません」

「分かりました。私に答えられることでしたら、協力します」

「ありがとうございます」

「じゃあ、まず彼女の事を聞かせてくれないか? プロスヴァー。色々と事情がありそうだ」

ソンツェルの質問にプロスヴァーは時々彼女に確認をとりながら、エデルから聞いた事を話す。

「……なるほど、城から突然現れた闇に飲まれてしまい、その姿になってしまった。と」

「はい。そうです」

「それでプロスヴァー。お前は城に……不死の王冠があると睨んでいるんだな」

「ああ、衛兵達の反応を見ても、この国の国王が不死の王冠を持っている可能性は高い」

「さあ、私達の事を話したんだから、次はそっちの番よ。戻ってから何があったの?」

「おっそうだな。じゃあ掻い摘んで話そう」

そう言って身を乗り出すソンツェル。

釣られて二人も身を乗り出していた。

「俺たちが転送石でカロヴァー王国に戻った後、すぐにここに戻ろうとしたんだが、問題が二つあった」

ソンツェルは右手の指を二本立てた。

「アンデッド対策か?」

人差し指だけを立てたまま、中指を下す。

「その通り、ひとつはアンデッドに対して俺たちは何の対抗策も持っていなかった」

「だけど光のポーション持ってたじゃない。ヴェシマが作ったの?」

「い、いえ。僕は作れなかったんです」

振られたヴェシマが首を何度も横に振る。

「帰ってすぐ、作ろうと試みたのですが、どうにも製造方法が分からなかったんです……」

「じゃあどうやって……」

「落ち着けお姫様。最後まで聞いてくれ」

「ごめんなさい」

ヴェシマが続きを話す。

「えと、それで、作ることはできなかったんですけど、ある方から貰うことが出来たんです」

「誰だ?」

「俺の弟だ」

「ルナールか?」

「ルナールって、ソンツェルの弟さん? 確か、あの時、門で待ち合わせしていた?」

「そうだお姫様。俺たちが戻ってすぐの事だった。あいつが馬に乗って王国に現れたんだ」

「何故、光のポーションを持っていたんだ?」

「俺も詳しくは分からん。ただルナールが言うには、カロヴァー王国に戻る途中、ある人物に俺たちに届けて欲しいと預かったそうだ」

「それは誰だ?」

「何でも言葉遣いが老人口調の物凄い美人で、自分の事をマホウツカイと名乗っていたそうだ」

「また、マホウツカイか……」

その名にプロスヴァーは心当たりがあった。自分をカロヴァー王国に戻るように言ったのもマホウツカイと名乗る女性だった。

「何か知ってるのか?」

「実はな……」

プロスヴァーはマホウツカイとの出会いをソンツェルに説明する。

「ほう。お前がカロヴァー王国に来たのも、その女性が関わっていたのか」

「何か知っているのかしら?その女性(ひと)

「……分からん。だが今はその事は後回しだ。まずはこの王国の城に行ってみよう。何が起きたか確かめるべきだ」

「それは俺たちも賛成だ。唯……」

「じゃあ早く行きましょう。ぐずぐずしてられないわ」

「そうだな」

「ちょっと待ってくれ二人とも。後一つ問題があるんだ」

立ち上がろうとした二人をソンツェルが引き止める。

「これが一番深刻な問題なんだ」

「何があった?」

「……俺たちはカロヴァー王国に帰る手立て、つまり転送石を持っていないんだ」

その一言を初めて聞いたプロスヴァーとクラヌスは固まってしまうのだった。












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