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第6話 不死者の住まう町 その5

「で、これからどこに向かうの?」

夫妻の家を出てしばらくして、クラヌスがプロスヴァーに尋ねる。

プロスヴァーが指差したのは城下町の奥に鎮座する城だった。

「まあ、そこしかないわよね。じゃあ行きましょう」

二人が歩き出した直後、周りから複数の足音が聞こえてきた。

「どうやら、もう見つかったようだな」

「これは不味いわね」

「急ごう」

プロスヴァーの言葉にクラヌスは頷くと、二人は城に向けて走り出す。

「貴様ら止まれ!」

しかしすぐに進路を衛兵達が塞がれてしまう。

「退け!」

二人はそれぞれの得物を構えると全速力で衛兵の壁にぶつかっていく。

「クラヌス分かってるな?」

「分かってるわ。私が動きを止める!」

クラヌスはプロスヴァーの前に出ると、体制を低くして衛兵に肉迫すると、持っている斧を振るう。

斧が振るわれる度に、衛兵達の手足が切り飛ばされていく。

そして動きが止まった敵は、プロスヴァーがとどめを刺していく。

「くっ……」

走り、ヴォルヴィエを振る度に、傷口に痛みが走るが気にせず衛兵達を斬り伏せていく。

「大丈夫? プロスヴァー」

「問題ない。また来るぞ!」

プロスヴァーを気にかけるクラヌスにそう言いながら、衛兵達の攻撃を退ける。

「ええい。やつら二人に何している! さっさと殺せ!」

衛兵達の壁の一番奥、そこに彼らに命令する者がいた。

「指揮官がいるようね」

「ああ、だな」

敵の指揮官の存在を確認した二人は揃って同じ言葉を口に出す。

「奴を狙うぞ!」

「あいつを狙いましょう!」

二人は笑みを浮かべながらお互いを見ると、ひとつ頷く。

ダッと駆け出した二人は一気に衛兵に詰め寄る。

「こっちに来るぞ! 奴らを止めろ!」

指揮官の怒号に盾と槍を構えた衛兵達が道を塞ぐ。

「そんな薄い壁で止められると思うなぁあああっ!」

クラヌスが気合いと共に、頭上に掲げた斧を振り下ろす。

木で作られた盾は斧の一撃を防げずに、真っ二つに割れ、その奥にいた衛兵の胸に突き立てる。

「言ってプロスヴァー!」

「おう!」

倒れた衛兵によって空いた穴をプロスヴァーが素早く抜ける。

「ぬうっ」

「もらった!」

ヴォルヴィエが指揮官の首をはねる。

筈だったが、

「なにっ!」

「甘いわ!」

指揮官は腰に佩いた長剣を抜いてヴォルヴィエの刃を防いでいた。

「ふん!」

指揮官はプロスヴァーを長剣で押し退ける。

「くっ」

プロスヴァーはたたらを踏んで数歩後退する。

「ふっ。俺を他の奴らと同じだと思うなよ」

指揮官が長剣の切っ先をプロスヴァーに向けて構える。

指揮官は他のアンデッドと同じで皮膚は灰色で骨と皮だけの肉体だったが、装備は一番豪華であった。

全身をプレートメイルで覆い、同じく鉄板を加工した兜を被っていた。

更に手に持つ長剣は良く手入れがされ刃こぼれ一つない。

「行くぞ!」

指揮官は兜の面貌を左手で下ろしながら、プロスヴァーとの間合いを詰める。

プロスヴァーが先手を取って、面貌の隙間を狙って突きを放つ。

指揮官はそれを切っ先で外側に弾くと、がら空きになったプロスヴァーの胴体目掛けて切りつける。

それを後ろにステップして避けるが、指揮官は動きを読んでいて、一気に距離を詰めると彼の顎を柄頭で打った。

「がっ」

口の中が切れて血の味が口いっぱいに広がった。

下から顎を打ち上げられながらも、プロスヴァーは、相手の追撃を辛うじて防ぐ。

「やるな!」

楽しそうな指揮官とは対照的に、痛みに顔をしかめるプロスヴァーは、口に溜まった血を吐き出す。

なんとか反撃したいプロスヴァーだったが、指揮官の攻めは苛烈だった。

距離が近くなった事で、ハーフソードの構えを取った指揮官。

「まだまだ行くぞ!」

取り回しを良くした事で、間合いを詰めてプロスヴァーの反撃を防ぎ、どんどん攻めてくる。

プロスヴァーの太刀は長すぎて、間合いを詰められると弱い。

更にその刃は鋭すぎて刀身を掴むハーフソードのようにはできなかった。

なので、なんとか避けに徹するが、敵の刃が何度かプロスヴァーの鎧を傷つける。

「どうした。もうへばったか」

激しい動きをしたために、プロスヴァーの傷口が開き血がにじむ。

「プロスヴァー!」

クラヌスは周りの衛兵を足止めしているために、彼を助けに行けない。

プロスヴァーは顔に脂汗を浮かべながらも必死に反撃の糸口を探していた。

「終わりだ!」

指揮官の急所の心臓を狙った突きをプロスヴァーは右腕の籠手で防ぐ。

甲高い金属音が辺りに響き渡り、籠手に切っ先が食い込んでいた。

だがそれが功を奏した。

指揮官の剣は籠手に引っ掛かって一瞬動きが止まったのだ。

それを逃すプロスヴァーではなかった。

彼は右手で刀の峰を掴み、ハーフソードのように持って、顔めがけて突き刺した。

指揮官はその一撃を避けるが、その突きは囮だった。

プロスヴァーは注意を怠った指揮官の左足に自分の右足を絡めて押し倒す。

倒れて無防備な指揮官の首を狙って、ヴォルヴィエでトドメを刺そうとしたその時、

「動くな!」

その一言で刀の切っ先は、指揮官の首の皮一枚の所で止まる。

切っ先を指揮官に向けたまま、声のした方を見ると、クラヌスが衛兵達に捕らわれていた。

「……ごめん」

彼女は後ろ手に固定され、周りから槍の穂先を突きつけられていた。

「剣を捨てろ」

「駄目よ!捨てちゃ駄目!」

「黙れ!」

衛兵の一人が、クラヌスを殴りつける。

彼女は、口から血を流しながらも、プロスヴァーに、言う事を聞くなと目で訴え続ける。

もちろん、プロスヴァーはその要求をのむ事などできなかった。

それをのめば自分達に待っているのは死だけである。

だから衛兵の言葉を無視して、指揮官に刃を突きたてようとしたその時、ある一言が彼の耳に飛び込んできた。

「女が死ぬぞ」

それは倒れている指揮官から発せられた言葉だった。

その言葉を聞いて、プロスヴァーは刀を引き、立ち上がる。

「駄目よ。そいつの言うことを聞いちゃ駄目!」

「…………」

プロスヴァーは無言で、立ち上がる指揮官を睨みつけていた。

「ふう、危ない危ない。さてと、その物騒な剣を捨てて貰おうか」

指揮官はヴォルヴィエを指差す。

「その剣の力は、かなり厄介だからな」

プロスヴァーは何も言わず、ヴォルヴィエを持った左手を震わせながらずっと睨んでいた。

「いいだろう。逆らうなら、まずはあの女に死んでもらう」

それでもプロスヴァーは動かない。

イラついた指揮官は語気を荒げて衛兵達に指示を出す。

「その女を殺……」

「待て!」

そこで初めてプロスヴァーは口を開く。

「……これは捨てる」

その一言を口に出しただけで、彼の顔に苦悶の表情が浮かぶ。

「だから彼女に手を出すな」

そう言ってプロスヴァーはヴォルヴィエを石で舗装された地面に突き刺した。

「結構結構、剣から離れろ」

プロスヴァーが指揮官を睨んだまま、ヴォルヴィエから数歩離れる。

指揮官はヴォルヴィエに近づくと、左手で無造作に地面から引き抜いた。

そしてまじまじとその黒い刀身を見つめていた。

「……これはこれは、おいっ!」

指揮官は衛兵の一人を呼び寄せる。

「何でしょ……がはっ!」

近づいてきた部下に持っていたヴォルヴィエでいきなり胸を貫いた。

胸部を貫かれた衛兵は刀身を引き抜かれ、その場に崩れ落ちる。

「恐ろしい剣だな。これは、アンデッドを殺せる剣とは」

「……貴様!」

プロスヴァーは気づく。

この指揮官は自分がアンデッドである事を知っていたのだ。

部下を殺した指揮官に対して衛兵達は何も言わなかった。

ただ黙って下を向いていた。

「貴様は屑だな」

「何とでも言え。さて少し遊びに付き合ってもらおうか、なんせ長い間、暇だったものでね」

指揮官はヴォルヴィエを地面に突き刺すと、落ちていた自分の剣を拾い上げ構える。

「何をする気だ?」

「な〜に簡単な事だよ。俺が攻撃する。お前は避ける。ただそれだけの事だ」

「こちらは丸腰で、その遊びに付き合えと?」

「そうだ。あの剣をとってもいいが、その時は女がどうなるか分かるだろう?」

そう言いながら、ヴォルヴィエの柄を持っている剣身の腹で叩く。

「いいだろう。付き合ってやる」

「駄目よ! そんなの無茶苦茶じゃない!」

「黙らせろ!」

クラヌスの非難の声は、再び殴られる事で、黙らされる。

「彼女に手を出すなと言った筈だ!」

「自分の立場が分かっていないから、ああいう目にあうんだ」

「分かった。お前の言う事に従う。だが、これ以上彼女を痛めつける事は許さん」

「まだ反抗的だが、従順すぎてもつまらないか。まあいい。さあ、俺の攻撃凌いでみろ!」

その時、何かが爆発する音が門の砦の方から聞こえてきた。

「何の音だ?」

「……分かりません。恐らく砦の方かと……」

「だったらさっさと確認してこい!」

「はっ! 今すぐに」

指揮官に叱責された衛兵達が爆発音の正体を確かめるためにそちらに走り去る。

「さて、待たせたな」

「プ、プロスヴァー……」

二度殴られたクラヌスは痛みに顔をしかめながら、彼の名を呼んだ。

名前を呼ばれたプロスヴァーはクラヌスに笑みを浮かべる。

「大丈夫だ」

「えっ?」

プロスヴァーはそれ以上何も言わず指揮官の方を見る。

「お別れはは済ませたな!」

言うと同時に指揮官がいきなり剣を振り下ろした。

プロスヴァーは軽々とそれを避ける。

「やるな。だがいつまで避けれるかな」

その後も指揮官は二度、三度と長剣を振るうもプロスヴァーに掠りもしない。

「そんなものか?」

指揮官は挑発に乗って、力任せに剣を振り続ける。

プロスヴァーは回避のみに神経を集中していた。

その為、相手の攻撃を避けれていたが、指揮官は疲れを知らないアンデッド。

(奴の剣が俺を捉えるのが先か、それとも反撃のチャンスが舞い降りるのが先か)

プロスヴァーは反撃のタイミングを伺いながら、必死に避け続ける。

長剣の袈裟切りを避け、切り上げをバックステップで後退し、突きを体を捻って避ける。

余裕がないのは指揮官も同じだった。

「あああっ!避けるな! 次避けたら女を殺す!」

そう言って剣の切っ先をクラヌスに向ける。

「いいだろう。俺は絶対避けない」

プロスヴァーはその場で両手を広げる。

「そうだ。そのまま動くな!」

指揮官がプロスヴァーの急所目掛けて剣を突き出した。

「いやあぁぁああああっ!」

クラヌスが悲鳴をあげる。

彼女の目には指揮官の長剣が深々と突き刺さって見えていた。

「そんな駄目、駄目よ」

クラヌスの目から涙がポロポロとこぼれ落ち、視界がにじむ。

だから彼女は気づくのが少し遅れる。

指揮官が何故か動こうとしない。

「ぐっ、この離せ……」

よく見ると、左手が長剣をガッシリと掴んでいた。

「悪いな避けないとは言ったが、動かないとは言ってないからな」

プロスヴァーは突きを右手の籠手で受け止め、左手で剣を掴み固定していた。

「屁理屈を、お前のせいで女は死ぬんだ……そいつを殺せ!」

指揮官の命令を受けて、衛兵がクラヌスを槍の穂先で貫こうとする。

「悪いがそれも無理だな」

直後、クラヌスを突こうとした衛兵が崩れ落ちるように倒れた。

「何が起きた!」

その背中には見覚えのある太矢(ボルト)が刺さっていた。

プロスヴァーはそれを見て驚く指揮官に向けてこう言い放つ。

「今度はこっちの番だ!」


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