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第6話 不死者の住まう城下町 その1

「急げ! こっちだ!」

薄暗い不気味な程静かな街の路地を二人のドワーフが走っていた。

「あいつらまだ追ってくるわよ。プロスヴァー」

「分かってるクラヌス。今は逃げるんだ!」

逃げる二人を追うのはこの町を守る衛兵だ。

二人は息を切らせて、走り続ける

「……プロスヴァー前!」

自分のすぐ後ろを走るクラヌスの事を気にしながら走っていたプロスヴァーは、クラヌスが指さした方を見る。

「くそ! 回り込まれたか」

彼らの進路を塞ぐように二人の衛兵が、立ち塞がる。

「どけ! 邪魔だ!」

プロスヴァーが持っている刀を鞘から抜きざまに左の敵を斬り、右の敵を斬ろうとした寸前、斧刃がもう一人の衛兵の脳天を叩き割る。

二人は倒れた衛兵を飛び越えて走る。

「馬鹿。君の武器じゃ奴らは死なないのは分かってるだろう」

走りながら後ろを振り返ると、クラヌスが殺したはずの衛兵だけが起き上がり、頭が割れたまま、追いかけてくる衛兵と合流する。

「でも一人で相手するより、二人の方が早いでしょ?」

「それはそうだが……今は言い争ってる場合じゃないな」

「分かってるわよ! でも何処に逃げるの……」

クラヌスは走りながら周りの家を見回す。

道の左右にある家は窓も扉も固く閉ざされていた。

このまま捕まるのではないか。そう思うとクラヌスの心を絶望が侵食してくる。

「……ヌス。おいクラヌス!」

プロスヴァーの呼びかけにクラヌスはいつの間にか俯いていた顔を上げる。

「大丈夫だ。みんなが戻るまで俺が守る。そんな暗い顔をするんじゃない!」

それを聞いてクラヌスは不敵に笑う。

「……バカ。私があんな奴らを怖がるわけないじゃない。それよりも貴方こそ怖気づいたりしないでよね」

「それを聞いて安心したよ。じゃあまだ走れるな? 奴らを何とかして撒くんだ」

二人は走る。

走りながらプロスヴァーは自分が油断していた事を悔いるのだった。


数時間前。

七人は、一週間の休暇を終えて山羊の憩い亭に集まる事になっていた。

「みんな。揃ったわね!」

「お姫様。それはお前のセリフじゃねえだろ」

皆が集まるいつものテーブルで、クラヌスが腰に手を当てて大声を出す。

「うるさいわねソンツェル。ほら、点呼をとるわよ」

クラヌスの仕切りを、プロスヴァーが何も言わないので彼女を止める者は誰もいなかった。

「まず、ヴェシマ!」

「はい。ここに居ます」

みんなの陰で見えなかったヴェシマが手を挙げて応える。

「次。ヴラーク」

「ここですよ」

「よし。じゃあ次はダブローノス」

「ここにクラヌス姫」

「はい。チャリーノスはいるかしら?」

「…………」

チャリーノスはいつも通り、何も言わず右手を上げて応える。

「退院おめでとう。元気になってよかったわ」

チャリーノスはコクリと頷いた。

「プロスヴァー。私を含めて全員揃ったわ」

「おい、お姫様。俺を忘れてるぞ!」

「ごめん忘れてたわ」

クラヌスが棒読みで謝罪する。

「ソンツェルも含めて六人。みんな揃ったわ」

「……俺の扱いが酷い気がするんだが、どう思うプロスヴァー?」

「俺に振るな。よしみんな一週間ぶりだが、再び集まってくれて嬉しいぞ。今日はこのまま転送石でダンジョンに向かう」

「みんなで俺をいじめるのかよ」

「拗ねるなよ。ソンツェル」

ソンツェルを宥める役目をヴラークに任せ、プロスヴァーは今回の探索の目的を話していく。

「今日は城下町の調査をする予定だ」

「城下町……砦の屋上から見えた町の事ね?」

「その通りだクラヌス。城下町を調査し危険がないと判断した後、不死の王冠を捜索する」

「城下町には今も誰か住んでいるのでしょうか?」

ダブローノスが思っていた事を口に出す。

「分からないな。唯、あの砦を魔物のゴブリンが占拠していたんだ。生きている人間はいない筈だ」

「じゃあ、魔物がいる可能性は高そうね」

「そうだな。いつでも戦えるように身構えていた方がいいだろう」

プロスヴァーが立ち上がり皆の視線を集める。

「皆。他に質問がなければ、そろそろ出発しよう。それとひとつ言っておく。俺は誰一人死なせない。絶位に七人で生きて帰ってくるぞ!」

六人はその言葉に頷いてから店の外に出るのだった。


準備を整えた七人は転送石を使いダンジョンに戻っていた。

彼らが転送した先は門の前の鬼を倒した場所であった。

七人は万が一ゴブリンの襲撃に備えて、身構えていたが、転送してしばらく経っても、何も現れなかった。

「どうやらゴブリンの奴ら襲ってこないみたいだな」

ソンツェルは武器をしまいながら 一番最初に口を開く。

「だが、警戒するに越したことはない。皆油断するなよ」

プロスヴァーは言いながら腰の刀の鞘に手を添える。

その刀こそが、このダンジョンで鬼を倒し、鍛冶屋で新しい拵えを作った刀だった。

灰色の鞘、そして同じ色の鍔と柄。全体は角張ったドワーフらしい実質剛健な作りであった。

彼は刀に新しい銘を付けていた。

ヴォルヴィエ。ドワーフ語で鬼殺し。それが新しい刀の名前だった。

プロスヴァーはヴォルヴィエの刃を下にして腰に履いている。

「確かに油断して死にたくはないからね」

ヴラークがクロスボウを構え、ゴブリンがいつ来てもいいように部屋の外を狙う。

「……これで良し。終わりました」

「プロスヴァー。印、消し終わったわよ」

彼らがゴブリンの襲撃を恐れていた理由はもうひとつあった。ヴェシマが転送石の印を消すのを待っていたのだ。

新しい転送先を作る場合、古い転送先を消しておかないと、二箇所に飛ばされて、最悪の場合身体が分かれて転送してしまう事故が過去にあった。

なので新しい転送先を作る場合は古い転送先を念入りに消すことが決まっていた。

「ご苦労ヴェシマ。よし門を開けるぞ。手伝ってくれ」

プロスヴァーは率先して門の前に立つと、ソンツェル、チャリーノス、クラヌス。力がある三人を呼ぶ。

「よし。押せ! 押すんだ!」

プロスヴァーの掛け声とともに、三人が一気に門を押す。

最初はビクともしなかったが、ドワーフ四人の怪力によって、積もった埃を落とし軋む音を立てながら徐々に門が開いていく。

砦の門が完全に開いたとき七人の目に飛び込んできたのは、城下町とその奥にそびえる城の姿だった。

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