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第4話 突入 門の砦 その2

先に入ったプロスヴァーを追いかけて六人も次々にゲートをくぐる

ゲートを通るとプロスヴァーがある一点を見つめてこちらに背中を向けていた。

彼の側にクラヌスが近づく。

プロスヴァーはクラヌスが近づいているのに気づいてないようだった。

「ねぇ、どうしたの? 何か見つけたの?」

「……ああ、クラヌスか、見てみろこの景色を!」

プロスヴァーの口調は明らかに興奮していた。クラヌスは首を傾げながら、彼の隣に立つ。

「す、凄い!」

クラヌスが見たもの。それはとてつもなく大きな王国であった。

眼下には厚い城壁に囲まれた城下町があり、その一番奥に幾つもの尖塔を立てた城が鎮座していた。

だがそれ以上の衝撃を与えたのは、その王国の四方を岩の壁が取り囲んでいる事だ。

更に上に目をやると石の天井のせいで、空も太陽も見えない。

それでもここが暗闇に包まれていないのは、壁が明るく光っているお陰だった。

それでも光量は充分とは言えないらしく、城下町では松明が燃えていても薄暗い。

「これはまた珍しいダンジョンだな。プロスヴァー」

ソンツェル達も近づいて同じ景色に目を奪われる。

「ああ、今までこんなダンジョンは見た事がない」

「そうだよな。俺たちが潜ったダンジョンは洞窟みたいな所だったしな」

「あ、あの! ボクが読んだ記録では、大きな地下墓地に繋がっていた事もあるみたいですよ。けど、もしかしたらボク達は誰も来た事がない凄い所にいるのかも知れません!」

「ならヴェシマ。この王国の事、詳細に記録しておいてくれよ。生きて帰れたら本を書くんだろ?」

「はい!」

初めて見る景色に舞い上がってるヴェシマは震える手で日記に王国の絵をスケッチしていく。

「それで私達が今いるこの場所は何なの?」

七人が今いるのは何かの建物の屋上だった。

白い石で隙間なく作られていて、とても頑丈そうに見える。

「う〜む。どうやらここは砦か何かのようですね」

「なぜそう思うんだ? ダブローノス」

真下を見たままのダブローノスは自分の考えを話す。

「どうやらこの下に城下町に続く門があるようです。そこから考えて、恐らくその門を守る砦の役割を果たしているのでしょう」

「この王国は誰が作ったんだ? 人間か? エルフか?」

少なくともプロスヴァーの知っているドワーフの歴史にこんな王国はなかったはずだ。

「そうですな。恐らくですが、我らドワーフやエルフではないでしょう」

「つまり人間の王国という事か?」

「はい。それもかなり古い王国だと思われます。遥か昔、闇の勢力が現れる前は、今よりも栄えていたはずですから」

「つまり、古の戦いで忘れられた王国という事か」

改めて砦を見ると、今の人間にはとても作れないほど精密に作られていた。

「昔は魔法使いも数多くいたと言われています。もしかしたらその力を用いて作られたのかも知れません」

「魔法使いか……」

「どうしたの?」

以前会った人間がマホウツカイと名乗っていたのを思い出すプロスヴァー。

「何でもない。大丈夫だ」

「? ならいいけど」

「それでどうする。ここにいてもしょうがないぜ」

「分かってるよソンツェル。中に入ってみよう」

プロスヴァーはソンツェルの足元を指差す。

そこには胸壁に囲まれた屋上の床の扉を開けると、下に向かうための階段が現れた。

階段の幅は人二人分の広さがあった。

「誰が一番最初に下りるんだ?」

「それは我が息子にお任せを」

ダブローノスがそう言うとチャリーノスが背中の大盾を両腕でしっかりと構え、ためらう事なく階段を下りていく。

「頼もしいね。じゃあ次は俺がいくぜ」

盾を構えたチャリーノスを先頭に、ソンツェル、ダブローノス、プロスヴァー、クラヌスと前衛が揃い、その後ろにヴェシマとヴラークが続く。

物音は全くせず、七人の階段を降りる音だけがこだまする。

階段に手摺はなく、ヴェシマはふと下を覗くと吸い込まれそうなほどの暗闇だった。

「ヴェシマ。ちゃんと前見て歩け」

「ご、ごめんなさい!」

ヴラークに注意されて慌てて下から前に視線を戻す。

しばらく下りると階段が無くなり、降りれなくなっていた。

「行き止まり?」

「いや、別の場所に階段があるはずだ」

「どういう事?」

クラヌスの疑問に答えたのはソンツェルでは無くダブローノスだった。

「つまりこういう事ですよ。万が一敵が攻めて来た時、階段を分ける事で敵の足止めになるのです」

「なるほど、じゃあこの階のどこかに階段があるのね」

「そう言う事お姫様。じゃあ探すとしましょうか」

七人は部屋をひとつひとつ確認しながら、階段を探す。

部屋の中は何百年も使われていないようで、散らかり荒れ放題だった。

「見つけたぞ!」

ソンツェルが新しい階段を見つけ再び下りていく。

下に降りるほど闇が濃くなっていき、各々松明に火を点けて持つ。

「これ……何の臭い?」

クラヌスが鼻を抑える。

据えた悪臭が辺りに漂い出す。

「何かが腐った臭いのようだ」

「何かって何よ?」

「この暗さでは分からない」

松明の明かりでも全ての暗闇は払えないが、壁に近づくと赤黒いシミがこびりついていた。

「血なの?」

クラヌスが思わず呟く。

それに答えたのはプロスヴァーだ。

「そうみたいだが、かなり古いものだな」

「ここで一体何があったのかしら?」

「そこまでは分からないな」

「これが臭いの元?」

「いや、かなり昔のものだこれが臭いを出しているとは思えないな」

「じゃあさっきから漂うこの臭いは何なの?」

「何の臭いかは分からん。だが奴らがここにいるんだ」

「奴ら?」

プロスヴァーは暗闇をジッと見つめる。

「ゴブリン共だ」

ゆっくりと警戒しながら歩く七人は一階下で微かな物音がしたのを聞き逃さなかった。

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