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第4話 突入 門の砦 その1

翌朝。六人はダンジョン攻略のための装備を身に付け、山羊の憩い亭の一階のテーブルに集まっていた。

彼等は一人の女性を待っていた。

「おい、お姫様。来ないじゃないか」

二度の二日酔いから復活したソンツェルは腰にブロードソードと斧を下げ、厚い革のコートを着込んで腕を組んでいた。

「まあまあソンツェル。まだ時間前だよ。少しは落ち着けよ」

ヴラークは太矢(ボルト)を収納できるポーチがついた白いコートに、様々な医療器具を詰め込んだ背嚢を脇に置いて、愛用のクロスボウの弦を発射位置に固定していた。

「左様。きっと、準備に手間取っているのでしょう」

「…………」

ポールアクスを肩に置いたダブローノスが纏うチェインメイルは腕や足などの関節部を革にして動きやすさと防御を両立させたものだった。

無言で頷くチャリーノスは変わらず全身をプレートメイルで包み、頭には口まで覆った兜を被っていた。

背中に背負うのは亀の甲羅のような形をした王の盾だ。

「で、でもやっぱり昨日飲み過ぎて、体調が悪いのかもしれません。ボクが様子を見てきましょうか?」

そうプロスヴァーに確認するヴェシマの格好は、上半身にはレザーアーマーを着けているが、その上にローブを着て、腰には沢山のポーチが付いた革のベルトを巻いて、肩からいつもの鞄を下げてクラヌスを心配する。

「もう少し待ってみよう。男の俺たちが女性の部屋に訪れたら彼女のことだ。何もなければきっと怒り出すだろう」

「……そうですね。分かりました。もう少し待ってみます」

心配するヴェシマにそう言ったプロスヴァーは、チェインメイルを纏って、自分の剣の手入れをしながら椅子に座っていた。

一応冷静に振舞うがプロスヴァーも内心クラヌスの事が心配であった。

昨日あれだけ堂々と一番乗りするとまで言っていたのに、全く現れない。

何かあったかと様子を見に行きたいが、流石に女性の部屋に入るのは躊躇われる。

そんな事を考えていると。階段からドタドタと騒がしい足音が聞こえてきた。

もしかしてと、六人がそちらを見ると。

「待たせたわね! ……どうしたの皆んなそんな顔して?」

現れたのは戦支度を済ませたクラヌスだった。

プロスヴァーは何か言おうとしたが、彼女の格好を見て何も言えなくなってしまう。

それは他の五人も同じだった。

「ねぇどうして黙ってるのよ。ああそうか、ごめんね。一年ぶりに鎧を着たら思いの外手間取っちゃって」

もう一年以上着てなくてと、両手を合わせて謝るクラヌス。

「君の着ているのは鎧なのか?」

「そうよ。見えない? 動きやすさ重視なの」

クラヌスが纏うのは金属の板で作られたプレートメイルだった。

だが誰もが思うプレートメイルと違うのは、彼女の頭、胸部、下腹部を守るだけであった。

つまり褐色の肩や健康的なお腹がむき出しなのだ。

前腕は籠手に包まれ、足を包むのは茶色の革のニーハイブーツだ。

右腕には長柄の斧を、左肩には荷物の入った背嚢を下げていた。

「お前……変態だな」

ソンツェルが小さい声でポツリと呟く。

「ちょっと聞こえてるわよ!」

「お前の格好がエロすぎるんだよ」

「エ、エ、エロって何よ!」

「プロスヴァー。お前も黙ってないで、なんか言ってやれ」

「あ、ああ。クラヌス……その、スカートの下どうなってるんだ?」

彼女の格好に見とれていたプロスヴァーはついそんな事を聞いてしまう。

「おいおい、そんな事聞くのか。お前」

「す、すまん! 変な事を聞いた」

「見たいの? いいわよ。この下はね……えいっ!」

そう言ってクラヌスは勢いよくプレートメイルのスカートをたくし上げる。

「お、おい! 馬鹿……」

プロスヴァーの制止も聞かず、クラヌスは完全にたくし上げた。その下には黒の丈の短いズボンを履いていた。

「ズボン履いてるから大丈夫よ……ちょっとジッと見過ぎ! このヘンタイ!」

「ぐはっ!」

クラヌスは顔を赤くして、プロスヴァーに思いっきりビンタするのだった。

「男が熱い視線を送る……あのズボンの名前はホットパンツにしよう」

「何言ってんだ。お前は」

騒ぐ二人を見てそう命名するソンツェルにツッコミを入れるヴラークだった。


大いに笑った七人はしばらくしてから、山羊の憩い亭を出て、採掘場のダンジョンの前に到着していた。

今彼らの目の前にはダンジョンに繋がるゲートの広場を封じる大きな鉄扉の前にいた。

「さてこれどうやって開けるんだ?」

「簡単ですソンツェル殿。鍵を開けるんです」

「それは分かってるダブローノスのオヤジさんよ。誰が鍵を持ってるんだ?」

ダブローノスは懐から一つの鍵を取り出し、そしてプロスヴァーに手渡す。

「ここの扉の鍵は見つけた時壊れていてな。十年前に新しく我らで新しい鍵を付けたんだ」

プロスヴァーの説明を聞いてから、よく見ると扉の一部が新しく付けられている事にソンツェルは気づく。

「つまりその鍵で、扉が開けられるんだな」

「そうだ。皆開けるぞ! 開けた途端にゴブリン共が出てくるかもしれん。準備してくれ」

六人が愛用の得物を構えるのを確認してから、プロスヴァーは鍵穴に鍵を差し込み回す。

すると、ガチャンと音がして錠が外れる音が辺りに響いた。

プロスヴァーはゆっくりと両手で扉を押し開ける。

何年も手入れしていないにも関わらず、扉は音もなく開く。

七人の目に映ったのは壁一面が鉱石で埋め尽くされた広場であった。

最初は輝く鉱石に目を奪われていたが、広場に足を踏み入れると凄惨な光景が目に飛び込んでくる。

「こ、これは……兵達の遺体ですか?」

「そうだヴェシマ。十年前に共に戦った勇敢な同胞達だ」

プロスヴァーは兵達に冥福を祈って瞑目する。

それを見て六人も同じように瞑目するのだった。

「彼らの為にも、このダンジョン攻略しましょう。プロスヴァー様」

「ああ、無事に帰ったら、彼らもちゃんと弔ってやろう」

「はい。必ず成し遂げましょうぞ」

七人は広場の奥にあるゲートの前に行き着く。

「これがゲートなの?」

「そうかお姫様は見た事ないか。これがゲートだ」

そこだけ壁にまるで口を開くかのようにポッカリと真っ黒な穴が開いていた。

「……ここに入るのね」

「そうだ。クラヌス怖気づいたか?」

プロスヴァーが震えている彼女に気付き、試すように言う。

「まさか。こんなの武者震いよ! 早く入りましょう」

プロスヴァーはその言葉に頷いて、改めて六人の顔を見渡す。

「俺から言う事はたった一つだ。死ぬなよ。皆生きて帰るぞ!」

六人は何も言わず頷く。

それを確認してからプロスヴァーは自ら率先してゲートを潜るのであった。

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