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第3話 七人集結 そしてダンジョンへ その5

五人を先に帰し、クラヌスはプロスヴァーの案内で、王宮にある王族の墓所に向かっていた。

「ねぇ、ガラヴァー陛下はどこか具合でも悪いの?」

「何故そう思う?」

「うん。普通、他の王族が訪ねてきたら、国王に謁見するじゃない。でも今回、私は会えなかったから。ちょっと気になってね」

プロスヴァーは父の今の状況をクラヌスに話すべきか。少し考える。

恐らく彼女は変に言いふらしたりはしない。

ならば言うべきかとも思ったのだが。

「陛下はゴブリンの襲撃に遭ってから、少し体調が優れないんだ。さっき君の事は伝えておいた。体調が戻ったら是非会いたいそうだ」

結局プロスヴァーはクラヌスに真実を教えなかった。

「そう。それならいいの」

「……着いたぞ」

話しているうちに墓所に到着し二人は中に入る。

「このお墓が、貴方の弟さん?」

「そうだ弟のネカヴァーの墓だ」

「隣のお墓は?」

「母の墓だ」

「そうお母様の……」

クラヌスは一歩前に出ると何も言わず目を閉じて、二つの墓にそれぞれ右手を添える。

「終わったわ行きましょう」

しばらくしてから、目を開け手を離すとそう言って一歩下がる。

「もういいのか?」

「ええ、もう大丈夫」

「分かった。では母上、ネカヴァー。私は六人の仲間と共にこれからダンジョンへ行きます。

王国の事を見守っていてください。終わったらまたここに来ます」

二人は静かに頭を下げて墓所を後にするのだった。



その日の夜。山羊の憩い亭に集まった七人はテーブルを囲んでいた。

「さて、みんな明日の朝一番にはダンジョンへ向かう。今日は腹一杯食い溜めしておけよ。当分、質素な食事が続くからな」

「「「「おおーー!」」」」

プロスヴァーのその言葉を皮切りに六人が一気にテーブルの料理に手を伸ばす。

「食べながらでいいから聞いてくれ。明日はダンジョンへ潜るわけだが、どれだけの規模なのかは想像もつかない。そうだなダブローノス?」

「はい。陛下は何度か傭兵などを送って探らせようとしましたが、結局上手くは行っておりません」

「……つまりは俺らが初めて潜るドワーフってことだな」

ビールを飲みながらソンツェルが聞いてくる。

「お前。また酔っ払ったら、置いていくからな」

ヴラークはやれやれといった感じで首を横に振る。

「そうだ。中はどうなってるか分からんし、何が待ち受けているかもわからん」

「でもゴブリンはいるのは確実でしょ?」

次に聞いてきたのはジョッキに入ったビールを片手に持ったクラヌスだ。

口の周りには泡で髭が出来ているが本人は気づいていないようだ。

「ああ、ゴブリンは確実にいるだろう。十年前に殺したのが全部だとは思えん」

「左様。ひとつ気になるのは、奴らの首領はまだ生きておるのでしょうか?」

「ダブローノス。俺は左足を斬り飛ばし、奴は大量の血を流していた。恐らく生きてはいまい」

「だといいのですが……」

「あの、プロスヴァーさん」

「何だヴェシマ?」

「ゴブリンの首領って一体どんな姿をしていたんですか? トロルとは違うのですか?」

「ああ、そうだな。奴は赤い肌を持ち、頭から日本の角を生やしていた。ゴブリン共に指示を出していたから知能もトロルより高いはずだ」

ヴェシマはなるほど、と相づちを打ちながら日記に記録していく。

「で、僕達の最終目的は不死の王冠でしたっけ。それを持って帰ることができれば褒美が出るんですよね?」

ヴラークは眼鏡のズレを直しながらそう聞いてくる。

「もちろん出すぞ、ただし詳しい場所は分からん。ダンジョンの最奥にあるという事だけだ」

「褒美が出るなら、徹底的に探しますよ。そして借金を全部返して、僕は自由の身になるんだ」

「まぁ、お前はすぐ新しい借金をして首が回らなくなるよ。俺が保証する」

褒美を手に入れた想像をしているヴラークにソンツェルが水を差す。

チャリーノスは食事中でも兜を脱ぐ事なく食事をしていた。

彼は兜の口の部分だけを開けて、ビールに石を削って作ったストローをさして飲んでいた。

「チャリーノスさん。そのストローは自分で作ったんですか?」

ヴェシマの質問にチャリーノスは首を縦にふる。

「すごい器用なんですね。今度ボクのも作ってくれますか?」

嬉しかったのか、いつも物静かなチャリーノスとは思えない程、首を激しく縦にふるのだった。

「ありがとうございます!」

「おーいチャリーノス。酒はそんなチビチビ飲むんじゃなくて、もっと勢いをつけて一気に飲むのが美味いんだぞ」

酔ったソンツェルがダブローノスに絡んでくる。

ダブローノスは何も言わず、ソンツェルをじっと見つめる。

そしてジョッキの中のビールを飲み干すと新しいビールを注いだ。

「おっ? もしかして俺と勝負する気か?」

チャリーノスは頷く。

「おもしろい。やってやろうじゃないか!」

「おいソンツェル。止めなくていいんですか? ダブローノスさん」

ヴラークがダブローノスにこのまま勝負させるのかと尋ねる。

「大丈夫ですよ。息子は酒にとても強いので」

その間にも、二人はジョッキのビールを飲み干していく。

ソンツェルは一気に飲んで、次々と新しいビールを注ぎ、すぐ飲んでジョッキを空にする。

「いいぞ、兄ちゃん!」

「あっちの鎧のにいちゃんも負けてないぞ!」

対するチャリーノスはストローで静かに飲んでいたが決して遅いわけではなかった。皆が気づかぬうちにどんどんビールを飲み干していく。

周りにはこの二人の戦いを見るために客たちが集まって歓声を上げる。

いつの間にかどっちが勝つか、賭けまでしている者までいた。

そして数分後。

先に倒れたのはソンツェルだった。

「グオーガオー」

テーブルの上に倒れたソンツェルはそのまま大イビキをかいて眠ってしまう。

「おおーすげえぞ。鎧のにいちゃん」

「よくやった。にいちゃん」

客たちが次々に勝利を収めたダブローノスを肩や頭を叩くが、彼は全く反応しない。

「いいの? 彼、あのままで」

「大丈夫ですよクラヌス様。息子はもう寝てますので」

「ああ、そういう事」

結局チャリーノスがすでに寝ているのに気づいていたのはダブローノスだけであった。

プロスヴァーはその様子を見ながらゆっくりとジョッキを傾けていた。

彼は笑って食べて飲む六人の姿を見ながら、彼等とならダンジョンを必ず攻略できると確信していた。

「……なんだ?」

「ふふん。べっつにー」

ふと視線を感じてそちらを見ると、クラヌスがニヤニヤしながらこちらを見ているのだった。

宴もお開きになり、各々は自分の寝床に帰っていく。

「じゃあなープロスヴァー。明日遅れるなよ〜」

「早く行くぞ。すいませんプロスヴァーさん。」

再びヴラークに肩を貸してもらって、ソンツェルは自分の部屋に向かう。

「では、プロスヴァー様。私達もここで失礼します」

「…………」

「失礼します。プロスヴァーさん」

「ああ、三人とも明日は早い。遅れるなよ」

ダブローノスとすでに良いの覚めたチャリーノスはヴェシマと共に山羊の憩い亭を後にした。

「じゃあ私も、もう寝るわ」

「ああ、明日遅れるなよクラヌス」

「私が遅れるわけないでしょ。一番に来て、貴方達全員を待っていてあげるわ!」

腰に手を当てて胸を逸らすいつものポーズをすると力強く宣言して部屋に戻るのだった。

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