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第3話 七人集結 そしてダンジョンへ その2

「駄目だ!」

「何でよ!」

山羊の憩い亭ではふたりの男女の声が常連達の喧騒よりも大きく響いていた。

「君は女性だ。ゴブリン共が女と見れば何をするか知らないわけ無いだろう? 死ぬよりも辛い目にあうかもしれないんだぞ」

「私は何度もゴブリン達と戦ったこともあるし、自分の身は自分で守れるわ!」

クラヌスは椅子から立ち上がり、胸に手を当てて訴える。

「……何故そこまでダンジョンに行こうとするんだ?」

「ここのダンジョンにいるゴブリン共は私の妹の笑顔を奪ったわ。だから奴らがのうのうと生きているのが許せない。だからお願い私も連れてって」

「……駄目だ」

プロスヴァーは自分も弟を失っていたので、彼女の気持ちは痛いほどわかっていた。

奴らの襲撃がなければ今頃二人は結婚して、幸せな毎日を送っていただろう。

でも彼女を連れて行くことは彼の選択肢には無かった。

ゴブリンが女性を嬲りものにするのは有名な話だ。現に十年前の襲撃の時も何人かの女性が行方不明になっていた。

だからクラヌスの願いを叶えることは彼にはできなかった。

「そう、このままじゃ無理みたいね?」

クラヌスがチラリと入り口の方を見たのをプロスヴァーは気づかなかった。

「……ああ、悪いが君は連れて行けない」

直後、買い出しに行った五人が帰ってくる。

「おーい戻ったぞ。あれお嬢さんまだいたのか……おいおい女性を泣かせちゃ駄目だぞ。プロスヴァー」

二人のただならぬ雰囲気を感じてそんな事を言ってくるソンツェル。

「茶化すな……?」

プロスヴァーはクラヌスがニヤリと笑った事に気づく。

「そうよ!貴方に行っても駄目なら、私の実力を見せてあげる」

まるでイタズラを思いついた子供のような顔をしてクラヌスは六人を見回すと左手を腰に当て、右手の人差し指をビシッと伸ばす。

「貴方達。私と腕相撲勝負なさい!」

「「「「えっ?」」」」

無口なチャリーノス以外が声を揃えてそう言い、プロスヴァーは頭を抱えるのだった。


「そういう事ですか。納得しましたよ」

「すまんなダブローノス。それにみんなも」

事態を飲み込めない五人にプロスヴァーが事情を話す。

「彼女を連れてってもいいんじゃないか?あの お姫様だって、どんだけ危険か分かっている上で仲間になりたいって言ってるんだろ?」

「……うむ。そうなんだが」

煮え切らない返事をするプロスヴァーを見てソンツェルは頭を掻く。

「まあ、彼女から腕相撲しかけてきたんだ。負かしてやりゃいいんだろ? 王子」

「ああ、言っておくが手加減するなよ」

プロスヴァーはソンツェルにクギを刺す。

「分かってる。俺の本気を見せてやるよ」

ゴキゴキと指を鳴らすソンツェル。

「あら、やっと順番が決まったの。 貴方が最初の犠牲者かしら?」

「おお、お待たせお姫様。一番手はこいつだ!」

ソンツェルはヴラークの襟首を掴んで、クラヌスの前に出す。

「はっ?」

「眼鏡のお兄さんが相手ね」

「ま、待てソンツェル。何故僕なんだ。僕はやるとは一言も……」

「行ってこいヴラーク。骨は拾ってやるから」

先鋒 クラヌス対ヴラーク。

「くそ。僕の負け確定してるじゃないか」

「お手柔らかに、眼鏡のお兄さん」

クラヌスはウィンクしながら、テーブルに膝をついて右手を広げて待ち構える。

ヴラークは嫌々ながらも彼女の手を握る。

そして気づく。

これは勝てないと。

「よし、はじめー!」

ソンツェルの試合開始の合図と共にヴラークの身体が一回転していた。

「大丈夫か?ヴラーク」

「か、勝てるか! 馬鹿」

「悪い悪い」

ソンツェルは謝るが全く気持ちがこもっていなかった。

「私に勝てる人はいるのかしら?」

「調子に乗るなよ。お姫様。次はこいつだ!」

次にクラヌスの前に連れてこられたのはヴェシマだった。

「えっ、ボ、ボク?」

「あら次は貴方ね。そんな細腕にどんな力が隠されているのかしら?」

次鋒 クラヌス対ヴェシマ。

ヴェシマはアワアワしながら、クラヌスの手を握る。

その時、クラヌスは違和感を感じた。

「あら? あなたもしかして……」

「はじめー!」

ソンツェルはその隙を見逃さず試合開始の合図を出した。

「ふん!」

気合いと共に精一杯力を込めるヴェシマだったが、力の差は歴然だった。

「ふん。ん〜〜〜!」

「えい」

クラヌスが一瞬力を入れるだけで、トンとヴェシマの右手の甲がテーブルにくっついた。

「す、すいません。負けてしまいました」

「な〜に気にするな。よくやった」

ポンポンとヴェシマの頭をたたくソンツェル。

「さてと、遂に真打の登場だぜ。お姫様」

「あらやっと骨のありそうなのが来たわね」

「俺は女だからって、手加減しないぜ」

テーブルで待ち構えるクラヌスの右手をしっかりと握るソンツェル。

そこで彼も気づく。これは只者ではないと。だけど負けるつもりはなかった。

副将 クラヌス対ソンツェル。

「ではふたりとも用意はいいかな?」

ソンツェルの代わりに審判を務めるダブローノスの問いかけに二人は頷く。

「よろしい。では、はじめ!」

ソンツェルはすぐ終わらせるつもりで、一気に力を入れてクラヌスの手の甲をテーブルに押し付けようとする。

「ぐぬぬぬぬ」

しかし、ソンツェルの目論見は失敗に終わる。

あと少しでクラヌスの手の甲がつきそうなのだが、それ以上動かなくなってしまう。

「もう終わり? じゃあ次は私の番ね!」

「うおっ!」

クラヌスは、反動をつけて一気にソンツェルの腕をテーブルに叩きつける。

ソンツェルは耐えようとしたが全く抵抗できずそのままズドンと大きな音を立てて、テーブルに叩きつけられる。

「嘘だろ?」

「私の勝ちね。真打さん。さあ次の相手は誰! 貴方? それとも貴方かしら?」

クラヌスは立ち上がり次の対戦相手を求めて指を指す。

チャリーノスは無言で首を横に振る。

「私も遠慮しておくよ。クラヌス様」

「という事は、私の勝ちね。じゃあ私も仲間に……」

ダブローノスも引き下がり、クラヌスが勝利を確認したその時。

「俺がやろう」

最後に立ち塞がったのはプロスヴァーだった。

「……そんなに私を仲間にしたくないの」

クラヌスの可愛らしい顔が怒りで真っ赤になる。

「君の為だ」

「いいわ。完膚無きまでに叩き潰してあげるわ! そして貴方の仲間に入ってやる」

クラヌスは再び椅子に座り、テーブルに肘をつけ、相手を待ち構える。

「さあ来なさい王子! 私の力を思い知らせてやるわ!」

プロスヴァーは何も言わず彼女の手を握る。

クラヌスは激しく、対するプロスヴァーは静かに相対する。

その迫力は周囲を静かにさせるほどだった。

「……はじめ」

ダブローノスの合図を皮切りに、最初に動いたのはクラヌスだった。

彼女はいくら力があっても、三連戦していて、少なからず疲労を感じていた。

だから早く勝負をつけるために一気に力を込める。

「嘘?」

しかし全くプロスヴァーの右腕は動く気配がない。

それは例えるなら大地にそそり立つ岩だった。

どんな力のあるドワーフでも、素手で岩を動かせる者はいないのだ。

「このっ! なんで動かないのよ?」

クラヌスは何度も何度も力を込めるがプロスヴァーの右手はビクともしない。

「……諦めろ」

「い、や、よ! 」

何十回も押しているうちに、クラヌスの腕の力が抜けていく。

「……もう諦めろ」

「嫌よ! 私を、この私を馬鹿にするなああぁぁぁぁっ!」

クラヌスが雄叫びを上げて、渾身の力を込める。

そして遂に岩が倒れた。

「ハァ、ハァ、ハァ、あれっ?」

疲労で大きく息を吸っていたクラヌスは、少し時間をおいてから気づく。

自分の右腕が、プロスヴァーの手の甲をテーブルに押し付けていた。

「……お前の勝ちだ」

「えっ?」

最初クラヌスはプロスヴァーが何を言ったのか理解できなかった。

「お前が勝ったんだ。認めるよクラヌス。君は今から仲間だ」

「私勝ったのね……どう? 私の力思い知ったかしら……」

そう言ってクラヌスはパタリとテーブルに突っ伏してしまう。

「お姫様。力使いすぎたみたいだな」

「スースー」

見ると彼女は健やかな寝息を立てていた。

「全くお転婆で頑固なお姫様だ」

そう言ってプロスヴァーはクラヌスを優しく抱え上げる。

「俺は部屋まで連れて行く。今日は解散だ。また明日の朝ここで集まろう」

「行ってこい王子様」

ソンツェルはクラヌスを部屋に連れて行くプロスヴァーを見送りながら、彼に聞こえないようにポツリと漏らすのだった

「全く人の事を頑固とか言う割には、お前も負けず劣らず頑固だよ」

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