第2話 頼もしき仲間たち その5
五人集まった事で、プロスヴァーは自分を含めた六人でダンジョン攻略する事を決意した。
そして六日目。期限を後一日残したところで、皆にその事を伝え了承を得てから、六人はダンジョンで必要になる物の買い出しをする所だった。
掲示板の依頼は山羊の憩い亭以外の所は撤去し、もしかしたらまだ誰かくるかも知れないので、酒場の中の掲示板は取っておく事にした。
「なあ、軽く自己紹介でもしておかないか?」
プロスヴァー達が買い出しに行く直前に、女給仕が置いた飲み物を飲みながらソンツェルがそう提案してくる。
「俺たちはこれから互いの命をかけて、危険なダンジョンに潜るんだ。背中を守ってくれる相手の事ぐらい知っておきたいだろ」
「そうだな。みんなもいいかな?」
酒場のいつの間にか定位置になっていたそのテーブルに集まった六人それぞれに確認を取ると誰も反対する者はいなかった。
もっともチャリーノスはいつもどおり頷くだけだし、ヴェシマは顔を真っ赤にして何か言いたそうにしていたが、結局首を縦にふるだけだった。
「よし、じゃあ全員の意見が一致した所で、言い出しっぺの俺から。俺の名前はソンツェル。現役の傭兵で、プロスヴァーの仕事仲間だ。よろしく。それで俺の得物はこれね」
ソンツェルは腰のベルトから得物を抜いて皆に見せびらかす。それは剣と斧だった。
「ほう。剣と斧の二刀流とは? これは珍しい」
「そうだぜ爺さん。すごいだろ?」
剣は手を守る籠鍔がついたブロードソードを、斧は片手で扱える長さだが、斧刃の反対側に鈎がついていてあまり見かけないものだった。
「その鈎は相手を引っ掛けるものですかな?」
ダブローノスは興味津々に質問する。
「ああ、これで相手を引き倒して止めを指す。俺が考えた最強の必勝パターンよ」
「なるほどなるほど。それはよく考えてありますな……ただ私のポールアクスには勝てないでしょう」
「なんだと爺さん?」
ダブローノスはソンツェルを無視して自己紹介する。
「私はダブローノスと申します。この中では一番の老体ですが、皆様お見知りおきを。私の得物は見ての通りこれです」
そう言うとダブローノスは持っていたポールアクスを愛おしそうに優しくポンポンと叩く。
「こいつは斬る、突く、引っ掛ける。何でも出来る万能武器。微力ながら皆様の力になれるでしょう」
「へっ爺さん。体力はあるのか? それ振り回して動けなくなっちまっても、俺は助けないぜ」
「心配ご無用。貴方よりは鍛えているし、何度も戦場で戦ってきたからの」
「へっ、口の減らない爺さんだぜ」
「二人とも、それくらいにしろ。他の者が自己紹介できないだろ」
まさか温厚なダブローノスがソンツェルを挑発するとは全く予想してなかったのでプロスヴァーは驚く。
「これは申し訳ない。では次に私の息子をご紹介しましょう」
ダブローノスがそう言うと、彼の背後にいた全身鎧が一歩前に出てゆっくりと頭を下げる。
「彼はチャリーノス。見ての通り元王の盾です。無口ですが実力は折り紙つきですよ」
「凄い! 王の盾の人が一緒に来てくれるなんてとても心強いです」
「なんだボウズ。王の盾の事知ってるのか?」
興奮気味に話すヴェシマの事をソンツェルはボウズと呼んでいた。
「王の盾というのは、代々の国王を守護するために結成された警護隊の事です。彼等はいつも王と共に行動し、戦場で王が最前線に出れば共に戦って王を守り勝利に導いてきたんです」
だけど言われた本人は気付かず右手の人差し指を立てて熱弁する。
「その背中に背負っている大盾はどんな攻撃も防ぐ事が出来るんです。そのぶんとても重いのですが、それを扱える事こそ、王の盾の証でもあるんです……はっ!」
そこまで一気に喋ってからヴェシマは周りの五人の視線を集めている事に気付いた。
「す、すいません。ボク一人で喋りすぎました。今はチャリーノスさんの自己紹介なのに、すいません!」
「いやいや、息子は口下手での。君に代わりに紹介してもらってありがたいと思っておる。なあチャリーノス?」
「…………」
チャリーノスは何も喋らないがしっかりと頷く。その仕草から、ヴェシマの事を不快に思っていないのは誰の目でも明らかだった。
「ボウズ。次はお前が自己紹介しろよ」
ソンツェルが促す。
「はい! ボクはヴェシマといいます。見ての通りの魔道具使いです。ボクはポーションなどの魔道具を作るのが得意です。勿論戦いにも役立ちますし、ダンジョンの探索にも役立つ道具も作れますので宜しくお願いします。あ、後……」
可愛らしく頭を下げたヴェシマは、鞄から革表紙の本を取り出した。
中を開くと羊皮紙は全て真っ白だった。ソンツェルが覗き込む。
「なんだ? 全部真っ白だな」
「はい。皆さんとの思い出やダンジョン攻略の出来事を記録しようと思って、それでいつか本を出したいんです……いいですか? プロスヴァーさん」
「ああ、勿論だ。それを読んで、後の誰かが俺たちの活躍を知って貰えるならば是非とも書いてくれ」
「はい! 有難うございます」
「よかったな。ボウズ」
「ソンツェル。彼はヴェシマだ。ボウズじゃない。俺たちは仲間なんだからちゃんと名前で呼ぶんだ」
プロスヴァーが嗜めると、ソンツェルは頭を掻きながら。
「おっとすまんすまん。悪かったヴェシマ。これでいいか?」
「許してやってくれヴェシマ。彼はガサツだがいい奴なんだ」
「大丈夫ですプロスヴァーさん。ボクは気にしてません。ソンツェルさんを許します」
「だそうだ。よかったなソンツェル?」
「へいへい。俺は悪者ですよ」
ヴェシマよりも年上なのに口を尖らせて拗ねるソンツェルはみんなの笑いを誘う。
「笑うなよ。ほら次はヴラーク。お前の番だ」
照れ隠しするようにソンツェルはヴラークを肘でつつく。
「突っつくな。えーと、僕はヴラーク。今は医者をやっているが、昔は傭兵もやっていたんだ。怪我や病気は僕に任してくれ。それに戦力にもなるから期待してくれ」
「お前の自慢の得物を見せてやれよ」
ソンツェルに促されてヴラークは、後ろに置いていた自分の得物を取り出す。
「コレが僕の得物です」
ヴラークが取り出したのは、クロスボウだった。しかもただのクロスボウではなく、要所を鉄で補強され、かなり手が施されているものだということが分かる。
「僕が長年愛用して改良してきた一品なんだ」
「かなり改良してあるみたいだの」
一番食いついたのはダブローノスだった。
「おっ、分かってくれます? 」
「うむ。強力な弦を張るために鉄で補強してあるようだし、先端に金属のスパイクをつけて接近戦にも対応出来るようにしてあるみたいだの」
「よく分かりましたね。でも僕はコイツの一番の短所を補う事に成功したんです」
「それはどこじゃ?」
「ふふふっ、それは実戦になれば分かりますよ。その時をお楽しみに。ふふふっ」
ヴラークは不敵に笑いながら、眼鏡のズレを直す。
「まあ、こいつも大概変な奴だけど悪い奴じゃないから仲良くしてやってくれ」
「おい! それじゃあ僕が変な奴みたいじゃないか。まったく……」
「それじゃあ最後はプロスヴァー。あんたが締めてくれ」
「では改めて。私はプロスヴァー。この国、カロヴァー王国の第一王子ではあるが、今は王族という事は忘れてほしい。唯の依頼主として、共にダンジョンを攻略する仲間として対等に扱ってくれ」
そこでプロスヴァーは一度言葉を区切って立ち上がる。
皆の目線が彼を見上げる。
「俺たちの目的はこの王国の採掘場に出来たダンジョンの最奥を目指し、そこにある不死の王冠を手に入れる事だ。簡単にはいかないだろう。もし嫌なら今すぐ立ち去ってくれても構わん。だが無事攻略に成功した暁には、褒美は約束する」
プロスヴァーは頭を下げる。
「皆の力を貸してくれ。頼む」
「私は離脱する理由はありません。貴方について行きますよ」
「…………」
ダブローノスは笑顔でそう言い、チャリーノスは無言で頷く。
「ボ、ボクも、頑張ります」
「俺もだ。ここでオサラバするわけないだろ」
「僕も、ダンジョンの宝は非常に気になりますしね」
ヴェシマもソンツェルもヴラークもみんな反対する者はいなかった。
「ありがとう。俺は頼もしき仲間たちを持ててとても嬉しいぞ」
プロスヴァーは少し涙ぐんでいた。
「おいおい、プロスヴァー泣くなよ。年取ったなお前も」
それを目ざとく見つけたソンツェルがからかってくる。
「おい。それを言ったらお前も同い年だろうが」
それを聞いて皆声を揃えて笑う。
笑いながらプロスヴァーはいい仲間たちに出会えてよかったと思っていた。
「貴方たち。ちょっといいかしら?」
その時、プロスヴァー達に声をかけてきた人物の方に皆一斉に振り向くのだった。




