第2話 頼もしき仲間たち その4
仲間になったヴェシマを、ダブローノスとチャリーノスに紹介していた頃。
一人の男性ドワーフが王国の門をくぐり城下町に入っていく。
「おっ、何だこれ?」
彼の目にとまったのは、町の入り口に急遽作られた掲示板だった。
「……この依頼主。あいつじゃないか! 後で寄ってみるか」
依頼主がいる場所を確認してから、彼はまず当初の目的地に向かうのだった。
ヴェシマが仲間になった翌日。プロスヴァーは新しい仲間が来ないか、テーブルに座って待っていた。
相変わらず山羊の憩い亭は、常連達が酒を飲んで騒いでいる。
すると一人の男性が酒場に入ってきて、喧騒が静まるほどの大きい声でこう叫んだ。
「プロスヴァー! プロスヴァーはいるか?」
酒場にいる全員がその声の主に目をこらす。
勿論プロスヴァーも彼の方を見た。
その時、二人の目があった。
「おお、いたいた」
「お前……ソンツェルか?」
プロスヴァーに近づいてきたのは、身長百六十二センチ。暗い色の金髪に同じ色の髭を短く揃えた茶色の瞳を持つ男性だった。
「久し振りだなプロスヴァー!」
「懐かしいな。最後に会ったのは三年前か?」
二人はガッチリと抱き合う。
「お前一人か? 弟はどうしたんだ?」
「ルナールは今、別の仕事だよ。俺はある用があって、ここに来たんだが……そうだ! お前が出した依頼を見たぞ。何があったんだ?」
「それはだな……」
プロスヴァーは何があったのかソンツェルに話すのだった。
「なんか色々大変だったんだな。それに知らなかったよ。お前王族だったんだな」
ソンツェルとプロスヴァーは傭兵仲間で何度も共に仕事をした事もあったが、お互いの過去は知らなかった。
「お前はここの出身なのに、俺の事知らなかったんだな」
「まあな。俺達兄弟は三十年前に王国から出て行ったし、王族とか俺には関係なかったからな」
ソンツェルに昔何があったかは知らないが、向こうから話すまで、プロスヴァーは聞こうとは思わなかった。
「で、俺がここに来たのは、お前の依頼を見たからだ。この王国に出来たダンジョン攻略するんだろ?」
「正しくは、採掘場に封印されているダンジョンだ」
「そうそこだ。で、仲間を探しているんだろう。俺も一緒にダンジョンに行くぜ」
「いいのか?」
プロスヴァーもソンツェルの実力の高さは知っている。仲間になってくれればこれ以上に心強いことはなかった。
「ああ、俺も何度もダンジョンを攻略してきたし、昔みたいに頼ってくれよ。後、勿論報酬は出るんだろう?」
「ああ、ダンジョンの戦利品は各自自由にしてくれて構わないし、王宮からも報酬が出る」
「なら話は決まった! 今から俺もダンジョン攻略の仲間だ。よろしく頼むぜ!」
「ああ、よろしく頼む。ソンツェル」
二人は固く握手を交わした。
「それで今は何人集まったんだ?」
「えーと、俺を含めて四人。お前を入れて五人だな」
「五人か、少し心許ないな。他の仲間の特徴を教えてくれ」
「ああ、いいぞ。まず……」
ソンツェルはダブローノス達のことを真剣な表情で聞いていた。
「なるほど、戦士二人に、魔道具使いか。で俺とお前も、前衛を勤めるから……うーむ」
「やはりもう少し戦力は多いほうがいいか?」
「もう少し、後衛がいるといいのだがな。後、医師だな。俺たちは簡単な応急処置ぐらいは出来るが、やはり専門の人間はいた方がいい」
それは勿論プロスヴァーにとっても喉から手が出るほど欲しいところだった。
「しかし期限は後、数日しかないんだ。医師の技術を持ってる者が、何処にでもいるわけではないしな」
「……俺に心当たりがあるんだが、一緒に付いてくるか?」
ソンツェルはそう提案するのだった。
「ここは何だ?」
ソンツェルについて到着した場所は、町にある小さな診療所だった。
建物は薄汚れていて、ここに目当ての医師がいるとはプロスヴァーにはとても思えなかった。
「ここで俺の知り合いの奴が医者をやっているんだ」
「お前が王国に戻ってきたのは、その医師に会いに来たということか」
「そういう事。昨日は居留守を使われたが、今日はいるだろ。じゃあ入るとしますか」
ソンツェルはためらう事なく、診療所の扉を蹴破って中に入る。
「おいおい、いいのか?」
「大丈夫大丈夫。さあ入るぞ」
「全くお前は……」
そう言いながらプロスヴァーもそれに続く。
「……すまんが今は休憩時間だ! 後一時間したらまた来てくれ」
姿は見えないが、人が入ってきた物音に気付いたのだろう。
診療所の主が、二人に大きな声で言い放つ。
「いるいる。行くぞ。付いて来い」
「手荒な事はするなよ」
その言葉にソンツェルはウィンクをして声の主の元に向かう。
「おっ、いた。久し振りヴラーク」
まるで友人に会ったような挨拶するソンツェル。
対して名前を呼ばれて振り向いた相手は。
「お前! ソンツェルか。遂に見つかったか」
白い髪に髭を綺麗に剃った彼は、とても嫌そうな顔をしてこちらを見ていた。
「紹介するぜ。彼はヴラーク。元傭兵で今は……見ての通りのモグリの医師だ」
「チッ。モグリは余計だ。ソンツェル。僕は本物の医者だぞ」
そう言って彼は掛けているメガネのズレを直す。
「おっとそうだったか。悪い悪い」
「全く。ところで後ろにいるのは……誰だ?」
「俺はプロスヴァー。この国の第一王子だ」
プロスヴァーは自分は案外人に知られてないんだなと軽くショックを受けながら、自己紹介をする。
「ああ、確か何十年も前に国を追放された王子がいたとかいたけど、あんたの事か」
「十年前だ。最近帰ってきたんだ」
「で、王子とソンツェル。滅多に見ない組み合わせの二人が一体何のようだ? どこも怪我も病気もしてなさそうだが?」
「俺たちは患者として来たわけじゃない。俺の用は分かってんだろ?」
「……四年前に借りた金か?」
「まだあるだろう?」
「……五年前の金だな?」
「ヴラーク。それ以外にも後十件ぐらいあるだろう」
「ああ分かってる! だが金はないぞ! 見てわかるだろうが、俺はお前に返せる金は金貨一枚もないぞ!」
「分かってる分かってる。その代わりある事を手伝って欲しいんだ」
ソンツェルはヴラークの肩をポンポンと叩く。
「な、何をすればいいんだ?」
「それは俺からじゃなく、こちらの王子から言ってもらおう」
「王子というな。ヴラークお前は医師としての腕は確からしいな?」
「まあ。戦場で僕は何十人も助けてきましたからね」
「傭兵としても優秀らしいじゃないか?」
「戦場で生きていくには戦う力も必要ですから」
「じゃあ、その二つの技術を活かして俺の仲間になって欲しい」
「仲間? 何をするんです」
「ダンジョン攻略だ」
「報酬もたんまり出るぞ。ヴラーク」
そこでソンツェルが口を挟む。
「俺に借りた借金もそれで返してくれればいい」
ヴラークは顔を伏せて腕を組み考え込む。
「返事は? すまんが俺には時間がない。今ここで答えて欲しい」
それを聞くとヴラークは頭を上げてプロスヴァーを見つめる。
「いいですよ。一緒に行きましょう。患者も金もないし、むしろこいつの借金がなくなるなら是非協力させてください」
「そうかなら交渉成立だな」
「はい。改めて僕はヴラーク。医師としての腕も、戦力としてもソンツェルよりも頼りになるのでよろしくお願いします」
こうしてまた一人、新しい仲間が増えるのだった。




