第2話 頼もしき仲間たち その2
プロスヴァーは笑い続けるガラヴァーの姿を見てある事を決意した。
「陛下! 私から提案がございます」
「ハハハハハ……何だ聞くだけ聞いてやろう」
ガラヴァーはひとしきり笑うと、満足したのかプロスヴァーの提案を聞く体制をとる。
「ただしつまらん提案など聞かせてみろ。お前をこの場で処刑してやるわ」
およそ実の息子に言うには躊躇うようなことも、平然と言ってのける。
プロスヴァーはその言葉の暴力の痛みに耐えながら、自分の提案を口に出す。
「私がダンジョンを探索しましょう。私は傭兵として何度かダンジョンを攻略したことがあります。何も知らない兵をいたずらに投入するより遥かに成功の可能性は高いと思います」
「お前一人で、攻略できるというのか?」
「いえ。仲間を集めます。少数精鋭で突入し、陛下がお望みの魔導器……不死の王冠を取ってきましょう。いかがでしょうか?」
プロスヴァーはじっとガラヴァーの濁った両目を見続ける。
最初に目を逸らしたのは、父の方であった。
「うーむ、分かった分かった。だからそんな睨むな。不愉快だ」
「申し訳ありません。それで返答は如何に?」
その時ガラヴァーは首を傾ける仕草をした。まるで横に誰かがいて彼に耳打ちするかのように。
「……いいだろう。お前に任せてみよう」
「有り難うございます」
「ただし期限を設ける。儂は一刻も早くアレが欲しいのだからな」
「分かりました。それで期限はどのくらいでしょう?」
「一週間だ、一週間でお主が仲間を集められない場合、全兵力を、いや動ける者全てを招集してダンジョンを攻略する……良いな?」
ガラヴァーの言葉には、まるで王国の民全てを人質に取っていると言っているのと同じだった。
プロスヴァーはそう言われて引き下がるわけにはいかなかった。
「それで結構です。私が必ずや陛下に吉報を届けましょう」
「ああ……期待しておるぞ……後、万が一にも死ぬなよ。お前の死体を回収する為に、ダンジョンに兵を送り込まないといけなくなるぞ」
それは完全な脅しであった。ガラヴァーは完全に民の事を捨て駒にしか見ていなかった。
「ご心配なく。私は勿論、仲間達も誰一人死ぬ事なく、ダンジョンを攻略してみせましょう」
「言っておくが、一番重要なのは不死の王冠を手に入れる事だぞ。それを忘れるなよ」
「ひとつお聞きしたいのですが、不死の王冠とはどういう形なのです?」
「アレは絶大な魔力を秘めておる。魔法に乏しいお前でも一瞬で分かるほどにな」
「それは何処で見たのですか?」
「夢の中だ。夢の中でお告げがあったのだよ」
「……貴重な情報有り難うございます。では準備がありますのでこれで失礼します」
「ああ、頼んだぞ。アレを手に入れるまで儂の王宮には戻ってくるなよ」
プロスヴァーは一礼するとガラヴァーの顔を見る事なく、そのまま王宮を出ていくのだった。
プロスヴァーはダブローノスと共に酒場、山羊の憩い亭に戻ってきていた。
「ダブローノス。アレは俺の父であったのだろうか?」
「はい。間違いなく貴方の父である国王ガラヴァー様です」
二人はとりあえず今後の事を話すはずだったのだが、 プロスヴァーの口から最初に出た言葉はすっかり変わった父の姿の事だった。
「俺がいない間に何があったのだ?」
「私を含めて、国王が何故あのような姿になってしまったのか誰も分からないのです」
「何かの病なのか?」
「それも分かりませぬ。医師に診せようとしても、王自身が拒むので我々は引き下がるしかなかったのです」
「つまり、原因不明なのだな?」
ダブローノスは何も言わずただ頷くだけだった。
それを見てプロスヴァーは今の父の事を考える事を止める。
恐らく自分ではどう考えても、解決しないだろうと彼は思っていた。
「分かった。今は父の事よりも、ダンジョン攻略の為の仲間を集める方が先決だ」
「どうやって集めるつもりです?」
「この町にも傭兵ギルドがあるだろう。それを利用するんだ」
数時間後。酒場のカウンターの側に掲示板が置かれそこにある依頼が書かれた羊皮紙が貼り付けてあった。
そこにはこう書かれていた。
『採掘場のダンジョンを攻略する為、共に探索する仲間を求める。我こそはという者は是非とも参加して欲しい。報酬はダンジョンで手に入れた戦利品と、王宮からも褒美が出る。
山羊の憩い亭にて今日から一週間待つ。
詳しくはカロヴァー王国第一王子プロスヴァー迄』
羊皮紙には王子の名前と共に王族の蜜蝋が押されていた。
傭兵ギルドは既に閉鎖されており、代わりに山羊の憩い亭を使わせてもらう事にしたのだ。
店主のオヤジは面白そうだと言って、掲示板を置く事を了承してくれた。
更にこれと同じものが、酒場の外と街の入り口に貼られていた。
「最低何人欲しいですかな」
山羊の憩い亭の掲示板には、酒を飲みに来たであろう客達が集まって依頼の内容を確認しているようだった。
その光景を見ながらダブローノスがプロスヴァーに聞いてくる。
「そうだな。俺ともう一人前衛に配置して、中衛一人と後衛が一人。後その二人を守れる者も一人欲しいな」
「四人ですか? 少なくはありませんか?」
「分かってる。だが贅沢は言ってられん。一週間で仲間が集まらなかったら、最悪俺一人で攻略するしかないのだ」
「上手く集まればいいのですが……」
そう呟くとダブローノスは立ち上がった。
「プロスヴァー様。少し席を外します。また明日こちらに参りますので」
「ああ、俺は当分ここに座っている。依頼を見た者が来るかもしれないからな」
しかし彼の予測は当たらずダブローノスの言った通りになってしまった。
翌日。プロスヴァーは結局一日中テーブルに座って待っていたが、誰も来なかったのだ。
理由は簡単だった。この依頼を見て集まろうとした者達は、皆様々な理由があったからだ。ある者は準備が長引き、ある者は彼が本物の王子がどうか見極めようとしていた。
「プロスヴァー様」
「ああ、ダブローノスか」
「この様子ですと、どうやら一人も集まっていないようですな」
「ああ、誰一人来なかったよ」
プロスヴァーはダブローノスの方を見ずに気だるそうに答える。
「では私達が貴方の元に集まった最初のドワーフになりますな」
「……何っ!」
プロスヴァーは慌ててダブローノスの方を振り向く。
そこにいたのは鎧を着込み、得物のポールアクスを肩に担いだダブローノスと、その後ろに全身鎧を纏い、酒場の中なのに兜を被ったままの王の盾の一人が立っていた。




