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第2話 頼もしき仲間達 その1

起き上がると鈍い頭痛と、十年前の事を夢に見た事でプロスヴァーの気分は最悪だった。

原因は昨日酒を飲み過ぎたからか、それとも王国に帰ってきたからか。

恐らく両方だろうと彼は思った。

「さてと、今はそんな事を考えている場合ではないな」

プロスヴァーはベッドから飛び起きると、素早く服を着替える。

王宮に行くだけなので荷物は部屋の長持に入れておく事にした。

ふと気付くと、いつもの癖で腰のベルトに、鞘に収めた剣を差していた。

一瞬いらないかとも思ったが、万が一の事を考えて、金貨と一緒に持って行くことにした。

プロスヴァーにとってこの剣は、鍛冶屋で働いていた時に自分で作った者であり愛着があったのだ。

準備を終え一階の酒場に降りると、ダブローノスの姿は見えない。

店内には、今まで飲んでいたのか、大いびきをかいてそこかしこで寝ている数人の老人と、中央のカウンターにいる店主のオヤジ。そしてあの褐色の肌に赤い目を持つあの女給仕だった。

プロスヴァーは昨日の夜の出来事を思い出し、彼女を避けるようにカウンターに近づいた。

店主のオヤジは足を引きずるように近づいて来る。

「オヤジ。俺を探している者は来なかったか?」

「いや旦那。誰も来てないな」

オヤジの威勢のいい声は二日酔いのプロスヴァーにとっては少し苦痛だった。

「……そうか。俺を探している者が訪ねてきたら、あそこのテーブルにいるから教えてくれ」

「あいよ」

「……ああ、そうだ。すまんが水を貰えるかな?」

プロスヴァーは店主のオヤジから水を受け取り入り口から一番見えやすいテーブルに着く。

本当はカウンターで立って待つのも考えたが、それよりも今は座って待つほうが楽なので、テーブル席に陣取る事にした。

一口水を飲むと、柑橘系の爽やかな味が広がり少し気分が楽になる。

ふと女給仕の赤い両目と目があったが、向こうが先に目を逸らしてしまう。

プロスヴァーはそこで一瞬彼女を何処かで見たことがあるような気がしたのだが、それを探るろうとしたら頭痛に邪魔されてしまった。

コップの水を飲み干し、少し頭痛も治まったところで、タイミングよくダブローノスがこちらにやって来た。

「おはようございます。プロスヴァー様」

「おはようダブローノス」

「あまり気分が優れないように見えますが、二日酔いですかな」

「そんな所だ。だがもう大丈夫だ」

プロスヴァーは勢いよく立ち上がる。まだ頭痛はしていたが、起きた時よりも大分落ち着いていた。

「そうですか。では早速参りましょう」

ダブローノスが先頭を歩き、プロスヴァーはその後をついて酒場を出て王宮に向かう。

街を歩いている間、二人の間に会話はなかった。プロスヴァーは左右に首を動かして、街を見ていた。

プロスヴァーの目には街の姿は十年前のゴブリン襲撃前と変わらないように見えた。

しかしどこか活気がないように感じられる。以前はもっと活気に満ちて、通りはもっと賑やかだったはずだ。

なのに今は早朝だからだろうか、歩いているのはプロスヴァーとダブローノスだけだった。

「ダブローノス。ちょっといいか?」

気になったのでプロスヴァーは聞いてみることにした。

「何でしょう?」

「俺が出て行く以前に比べて活気がないというか何というか、こんなに街は静かだったか?」

「今の時間は男達は皆、国王の命令で兵として訓練を受けている所です」

「何! 男全員を兵として招集したのか?」

「はい。今街にいるのは、女性達と老人子供のみです。動ける男達は皆兵として招集されています」

「それもダンジョンを攻略するためか?」

「恐らくそうでしょう。国王はダンジョンを攻略する為なら、この町の民、全て犠牲にしても構わないと思っているようです」

「民はその事を知っているのか?」

ダブローノスは首を左右に振った。

「いいえ。ただ今回のダンジョン攻略に兵を投入するので、その間の警備の為の招集だと聞かされているはずです」

更にダブローノスは王の盾もダンジョン攻略に投入する事をプロスヴァーに話した。

「陛下はどうしたのだ? 誰が今、王位についているのだ?」

プロスヴァーは自分で馬鹿な事を言っている事は分かっていた。

だが、彼の知る父、ガラヴァーがそんな事をするとはとても考えられなかった。

「今もあの玉座に座っているのはガラヴァー様です。しかし……」

ダブローノスは歩きながら話していたが、そこで言葉を詰まらせてしまう。

「しかし、何だ?」

「十年前、正しくは貴方が出て行った直後から国王は……変わられてしまった」

「何があったんだ。父上に何があった!」

プロスヴァーが強い口調で問い詰めてもダブローノスは答えなかった。

「申し訳ありません。私の口からは言えません。どうか貴方自身が会って確かめてください」

ダブローノスは周りを気にするように首を左右に振りながらそう答えるだけだった。

「分かった。もう何も聞かん。その代わり絶対に陛下に合わせてもらうぞ」

その後二人は何も喋る事なく、王宮に向かうのだった。


無言で王宮の門まで辿り着いた二人。

その門の前には二人の衛兵がいた。

「これはダブローノス様……おやそちらの方はプロスヴァー様……」

衛兵の歯切れの悪さと声で、プロスヴァーは二人の衛兵がこの前門前払いを食らった時の二人だと気づく。

「ダブローノス様。申し訳ありませんが、プロスヴァー様を王宮に入れる事は……」

「分かっておる。だが彼にはこの門をくぐってもらう」

「しかし……」

止めようとする兵達をダブローノスは片手を上げて制する。

「すまんな。王国の未来の為にもこの方が必要なのだ。だから通してくれ……お前達もこのままではいけない事は薄々気がついておろう」

二人の兵は何も言わず道を開ける。

「……では行きましょうプロスヴァー様」

「うむ。通らせてもらう」

ダブローノスとプロスヴァーは門をくぐって王宮の中に足を踏み入れた。

プロスヴァーにとって十年ぶりの王国は、当時と変わらぬ威厳に満ちていた。

玉座の間に真っ直ぐ向かう二人を見て驚いた衛兵や家臣達は、何も言わずただ彼らを目で追うだけだった。

二人は玉座の間に到着し大扉の前にいた。

「覚悟はよろしいですかな?」

「ああ、開けてくれ」

陛下に会うのに覚悟がいるのかと聞きたかったが、それを飲み込む。

ダブローノスによって大扉が開くにつれ、その隙間から冷たい空気がプロスヴァーの身体に纏わりつく。

今まで玉座の間で感じた事のない不快感に、プロスヴァーは風邪をひいたような悪寒を感じていた。

玉座の間に足を踏み入れると、まるでそこだけ氷で覆われているかのような冷気が部屋全体を支配していた。

だが玉座の間は十年前と変わらない。

変わったのは王の盾が一人もいないのと、部屋の奥の玉座にいる人物であった。

「…………」

国王は目だけを動かして玉座の間に入ってきた二人を見る。

「ダブ、ローノスか、何の用だ? その男は誰だ?

十年前と違いガラヴァーの声には全く覇気がない。

そればかりか長男の顔も分からないようだった。

「……プロスヴァーです陛下。お久しぶりでござます」

そう言ってプロスヴァーは跪く。十年ぶりに見た国王は、面影もない程変わり果てていた。

灰色の髭も髪も、白くなりボサボサで全く手入れされていない。

髭につけていたアクセサリもなくなり、身体は頭に嵌めた王冠で潰れてしまいそうなほど痩せ細り、顔はシワだらけだった。

更に着ている服も何年も洗っていないのか、とても不潔でボロボロであった。

プロスヴァーはガラヴァーを見ていられなかった。あまりにもあわれな姿だったからだ。

なので少し目を伏せて、ガラヴァーと目を合わせないように喋る。

幸い、その無礼な態度は咎められることはなかった。

「プ、プロスヴァー? 誰だそれは?」

「貴方の息子プロスヴァーです。陛下」

「息子? ああ思い出した。思い出したぞ!」

「我が最愛の息子ネカヴァーを見殺しにしたあのプロスヴァーか」

「陛下! それは違いますぞ」

「いいんだダブローノス……そうです。私は弟を見殺しにしたあのプロスヴァーです」

プロスヴァーは否定したい気持ちを抑えて、国王と話をする為に今だけ話を合わしておくことにした。

「それで何の用だ? 弟殺しよ」

「はい。旅をしている時、陛下がダンジョン攻略を決心なされたと聞き、真実かどうか確かめに来た次第です」

プロスヴァーは父に罵倒される苦しみに耐えて必死に言葉を紡ぐ。

「そうだ。儂は近日中にあのダンジョンの封印を解き、全兵力を持って攻略する予定だ」

「思いとどまってはくれませんか?」

「何故だ?」

「兵士達を無駄死にさせるだけです。それにその場所の封印は解かないと陛下自身が決めたのではないのですか!」

「そんな事は覚えて、おらんな」

「……今何と?」

実際に国王の指示を聞いていたダブローノスにとってもその一言は衝撃だった。

「そんな事を言った覚えはないと言ったのだ。二人共よく聞け。儂はな、あのダンジョンの奥に眠る、ある魔導器が欲しいのだ」

「魔導器?」

ガラヴァーは両目を血走らせて熱弁する。

「そうあのダンジョンの最奥には、ある魔導器が眠っておる。それは身につけた者に不死の力を与え、どんな病もどんな深い傷もたちどころに治癒させる魔導器。その名は……」

ガラヴァーはそこで一度言葉を区切る。

「不死の王冠じゃ! 儂はそれが欲しいのだ! アーハハハハハハハハッ!」 ガラヴァーはそう言って、長く長く狂ったように笑い続けるのだった。

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