子守唄
巣穴に残されたタマ子は、一人で大事に大事に糞玉を守り続けました。
コロ助がいなくなってから何日か経った後、卵は無事にかえったようで、糞玉の奥からはムシャムシャムシャと、元気に赤ちゃんがフンを食べる音が聞こえてきます。
タマ子は毎日、その糞玉の奥の赤ちゃんに向かって話しかけました。
「早く姿を見せて、私とコロ助さんの可愛い赤ちゃん。あなたは女の子かしら、男の子かしら。元気いっぱいに食べているみたいだから、きっと男の子ね。名前は何が良いかしら。タマ助でいいかしら。ね?そうしましょう」
それからタマ子は、やはり毎日毎日、糞玉の手入れをしながら赤ちゃんに話し続けました。
外の世界はどんなにステキか。
明るい色と、素晴らしい香りに溢れていて、そしてたくさんの出会いがあることを。
それから夜になると、コロ助の好きだった子守唄を、赤ちゃんにも歌ってやりました。
そのうち赤ちゃんは、静かになって動かなくなりました。
どうやらサナギになったようです。
そうなると、赤ちゃんは何も食べないので、糞玉は必要がなくなります。
糞玉が必要ないと言う事は、手入れをしなくていいと言うことになります。
コロ助がいなくなってから、タマ子はこれまでずっと、何も食べずに、夢中で糞玉の手入れをし続けていました。
けれどやることが無くなった今も、不思議とお腹は全然すきませんでした。
そしてその時、ふと自分の役目はもう終わったのだと言うことが分かったのです。
タマ子はグッタリと糞玉にもたれました。
そして触角を当てて中の気配を伺いながら、サナギがかえるのを心待ちにしました。
タマ子はひと目でいいから、コロ助と自分の子に会ってみたいと思いました。
朝も夜も分からないままに何となく時が過ぎて行き、タマ子はやることも無く、そしていつの間にか立ち上がることができなくなっていました。
タマ子は糞玉を優しく撫でながら、そっと呟きました。
「タマ助、お母さんは早くあなたに会いたいわ……」
そして歌を歌い始めました
コロコロコロリン フンコロリン
うまく丸めてクソの玉 コロリ運んで穴の中
食べて美味しい フンコロリン
あのこと一緒に ネンコロリン
歌い終わると、タマ子は静かに横になりました。
なんだか自分の子守唄に、自分が眠くなってしまったようです。
体が重く、冷たく感じられ、土の中に吸い込まれそうなほど眠いのです。
仕方なく目をつむると、タマ子は一つの事に思い当りました。
あぁ……そうだ
あの時いたのは、私のお母さんだったんだ……
そしてそれに気が付くと、冷たくなりかけていたタマ子の心は、ふんわりと、とてもあたたかく穏やかになりました。
重かった体が、だんだんと軽くなり、初めて空を飛んだ時のように感じられました。
そして優しい笑みが、口元にそっと浮かびました。
早くあなたに会いたいわ……