祝福
そして次の日、タマ子は約束通りに、陽が沈むちょっと前に湖にやってきました。
大きな太陽が空を真っ赤に染めて、それと一緒に湖も、草原も何もかもが、燃えるような色をしています。
こんなに素晴らしい夕焼けを見たのは、タマ子は初めてでした。
しばらく空を飛びながら、その美しい景色を眺め、それから水牛のいる草原に、タマ子は降りたちました。
辺りは夕食を食べ終えた水牛の、新しいフンの香りが立ち込めていましたが、タマ子はコロ助との約束を守って、糞玉は作らないで地面に座って待っていました。
すると後ろから、ゴロンゴロンゴロンと大きな音がして、巨大な糞玉が転がって来るのが見えました。
それは今まで見た事も無いくらい大きく、まん丸い、どこから見ても文句のつけようのない完璧な糞玉でした。
そしてそれは、タマ子の前でピタリと止まったのです。
「まあすごい!」
タマ子が思わず歓喜の声を上げると、その巨大な糞玉の後ろから、コロ助が姿を現しました。
いつもより念入りに触角を手入れし、お腹に生えた微毛も櫛けずり、後ろ足のトゲも、背中も何もかも、ピカピカに磨かれています。
そして少し緊張した声で言いました。
「タマ子ちゃん。どうかこの糞玉に乗って下さい。そして僕の新しい巣穴を見に来てくれませんか?僕が一生懸命作った、大きな大きな巣穴です。そしてその中で、僕と一緒に暮らしてほしいんです。……昼間しか会えないのはもうイヤなんだ。夜もずっと一緒にいたいし、二人で朝を迎えたい」
それは、コロ助からのプロポーズでした。
タマ子はそれを聞いて、嬉しくて泣き出しました。
そしてやっぱり言葉がうまく出てこなかったので、かわりにコロ助に抱きついて、大きく大きくうなずきました。
それから急いで糞玉の上によじ登り、一度滑り落ちそうになりましたが、コロ助はそれを下からしっかり支えて、タマ子は無事に、巨大な糞玉のてっぺんに登ることができました。
大きな糞玉が転がり始めると、いつの間にか周りにいた、フンコロガシの仲間達が逆立ちをして、後ろ足で大きな拍手を送ってくれました。
草むらの中から、夜の虫達の合奏が響き始めます。
それに合わせてタマ子が歌を歌います。
コロコロコロリン フンコロリン
あなたと一緒に ネンコロリン
すっと一緒に コロコロリン……