地上
ポコン。
突然穴があき、タマ子の目の前は真っ白になりました。
どうやら地上に出たようです。
「うわぁ、まぶしい!!」
タマ子は小さな黒い目を触覚で覆い隠しながら、前あしを踏んばって穴の外に出ました。
そこは、驚きの世界でした。
キラキラと全てのものが光り輝き、熱い風が吹き、いろんな匂いがあふれていました。
タマ子が恐る恐る地面を歩き始めると、
「邪魔だ邪魔だ!!」
と、大きな怒鳴り声がして、緑色の長い翅を持ったバッタが、タマ子の上を飛び越していきました。すると今度は、
「わっせ、わっせ、わっせ、わっせ」
と、小さなたくさんの声が聞こえてきて、アリの大群が、のたうちまわる毛虫を引きずりながら運んでいます。
「わー助けてくれー!誰かー!!」
毛虫はアリに連れ去られながら悲鳴を上げていましたが、生まれたばかりのタマ子には、どうする事も出来ずにそのまま見送ると、今度は上のほうから、
「ズンタッタ〜、ズンタッタ〜、ズンタッタ〜、ズンタッタ〜・・・」
と間の抜けた歌が聞こえてきて、顔を上げると、大きな黄色いハチが鋭い翅音を立てて、真っ青な空を一目散に飛んでいくのが見えました。
そしてその空を吹く風にのって、何だかとっても良い匂いがしてきました。
香ばしいその匂いに、タマ子は小さな触角をフンフンと振りました。
それはとても美味しそうな匂いです。そしてタマ子はようやく、自分はお腹がすいているんだと気が付きました。
この匂いのするところに私も行きたい・・・
そう思ってハチの飛んで行った空を見上げていると、自分の丸い背中の奥が、ググググッと熱くなってきて、タマ子の体に、何か新しい力がみなぎりました。そして、
プンッ!
と弾けるように背中の硬い翅が二つに割れると、その下から透きとおったしなやかな翅が現れて、気が付くともう、タマ子の体は空高く舞い上がっていたのです。