とある広い広い 砂漠を越えて
乾いた草の生えた平原を抜けてどんどん遠くまで行くと、低い細い木々に囲まれた大きな湖がありました。
そこにはたくさんの動物たちが集まって暮らしています。
その湖からちょっと離れた、柔らかくしっとりとした土の下で、今、一人の女の子が目を覚ましました。
「ふあ〜。ずいぶん良く眠ってたみたい」
そう言って、女の子は前あしを高く上げて伸びをしました。
女の子の名前はタマ子。
土の巣穴の奥深く、水牛の糞玉の中に埋もれたサナギを破って、ようやく出てきたフンコロガシの子です。
目覚めたばかりのタマ子は、前あしを上手に使って身づくろいを始めました。
まずは短い小さな触角の先についた古いフンを、丁寧に丁寧にこそぎ落します。
それから顔を拭いて、6本の足でお腹をいっぺんにゴシゴシ擦っているうちに、中あしと後あしがもつれて、ころりと転んでしまいました。
「きゃっ」
タマ子の黒い硬い翅に覆われた丸っこい体は、暗い土の巣穴を転がって、何かにドスンとぶつかりました。
お腹を出して引っくり返ったタマ子は、しばらく手足をバタバタさせていましたが、そのぶつかった何かに掴まり、ようやく起き上ることができました。
掴まった何かを見てみると、それはタマ子と同じ、フンコロガシの誰かでした。
タマ子は他に人がいるなんて思いもしなかったので、びっくりして謝りました。
「ごめんなさい、私……」
けれどその人も眠っているみたいで、タマ子がぶつかっても全然起きません。
タマ子はそっと、その人の丸い背中に手をかけて揺すってみました。
それでもやっぱり起きてくれません。
そして、よくよくその人の背中を見てみると、硬い黒い翅にはツヤが無く、うっすらと白い粉のようなものが浮いていて、少し変な臭いが漂ってきました。
タマ子は何だか怖くなって、その人から手を離すと、二、三歩、後ずさりました。
すると今度は、ドンッ、と巣穴の壁に体が当りました。
タマ子が壁の方を向くと、上の方に狭い穴が開いているのを見つけました。
そして急いでそこに向かうと、その狭い穴を広げるように、いっしょうけんめい土を掻き出し、少しずつ上に登って行きました。
冷たい土の中から、段々とぬくもりが感じられる、上の方を目指して行きました。
上へ、上へ、上へ……