梅太郎と人魚
梅太郎は独り者の漁師である。
村の多くの若者は、梅太郎と同じように独り者だった。貧しい村なので嫁が来てくれないのだ。
そんな満月の夜。
漁師仲間の竹次が人魚を捕まえてきた。
沖合で漁をしていて網にかかったという。
その人魚は尾ヒレがピンクで、オッパイの大きな人魚だった。今では竹次の嫁となっている。
さらに、先日の満月の夜。
幼なじみの松吉も人魚を捕まえた。
やはり沖合の網にかかっていたそうである。
松吉の人魚は巨乳でこそなかったが、やはり尾ヒレがピンクであいらしい顔をしていた。
村では松吉の盛大な祝言があげられた。
ならばと……。
梅太郎は満月の夜を待って、竹次と松吉が人魚を捕まえたという沖合に出た。
舟から網を流して待つ。
そして待つこと一刻。
――かかってろよ。
梅太郎の網を引き上げる手にも力が入る。
月明かりのもと。
波間で金色に光る尾ヒレが見えた。
人魚が網の中ではねている。
――やったぞ! オレにも、ついに嫁っこが。
梅太郎の心はおどった。
人魚の尾ヒレが金色に輝いている。
竹次と松吉の人魚はピンクだった。金色なら、その上をいく上物にちがいない。
――こいつは絶世のべっぴんだぞ。
期待に胸をはずませながら、梅太郎は舟に網を引き寄せた。
人魚が舟に上がった。
人魚がはらはらと涙をこぼす。
――すまん。
梅太郎はせつなくなって、人魚をそっと海に帰してやった。
「元気でな!」
手を振って見送る。
なんの後悔もなかった。
人魚が振り返る。
波間に見える顔はオッサンだった。