たばこ
いやはや、喫煙者にとっては酷な世の中になったもんだ。
街の喫煙所はどんどん減って行くし、値段は上がる一方だし、近頃じゃ歩きたばこで罰金まで取られるんだってな。
そしてその余波は我が家にまで及んでいる……カミさんがうるさいんだよ。
最初は「臭いが気になる」から始まって、やれヤニが部屋を汚すだの、やれたばこ代が勿体ないだのってさ。
そしてついに我が家では「屋内喫煙禁止条例」まで出され、なんとカミさんが、俺に内緒でベランダに喫煙スペースまで作りやがる始末だ。
近所のホームセンターで買ったんだろうなぁ。
でかいベニヤ板を並べてその上からさらにバカでかいブルーシートを被した、自家製の喫煙スペース。
中はベニヤの余りで作ったんだろう腰かけに、灰皿代わりの植木鉢が一個。
極め付けにゃご丁寧に煙が漏れないよう、隙間をガムテープでみっちり塞いでやがる。
人が汗水垂らして働いてる時に、人の稼ぎでこんなもん作りやがって……
こんなもん、ただの犬小屋じゃねえか。
自分がたばこ吸わないからって、ここまで嫌うかねぇ。
まぁ、俺がたばこをやめるのが一番いいんだろうが……そう簡単にやめれたら苦労はしないわな。
だから俺は今日も、この狭っ苦しい犬小屋で一人寂しく煙を燻らしているわけなんだが……
……だが、俺ももうたばこはやめようと思う。
そりゃ今すぐにってわけにはいかないけど、健康に悪いのは本当だし、無駄な金もかかるのも事実だ。
それに、俺がもしガンにでもかかったら、カミさんにもっともっと迷惑かける形になるしさ。
最近じゃ電子タバコとか言う煙の出ないたばこがあるんだってな。
普通のタバコよりちょっと高いけど……禁煙のイイキッカケになるかもしれない。
実は、もうすでに買ってあるんだ。今流行のネット通販って奴でさ。
こういう便利な物があるなら、今の世の中も捨てたもんじゃないかもな。
とりあえず、今ある分が無くなったらそっちを吸い始めようと思う。
そんな事を一人で考えつつ、俺はこの近々最後を迎えるであろう煙を肺に目一杯吸い込み……そして吐いた。
すまん、我が愛する妻よ……
俺が間違ってた……お前が正しかった……
だから俺は……約束するよ……
俺は……お前の為に……きっと禁煙を……
成し……遂げて……見せ……る……
――――
……
「――――ワン!」
「まぁ奥様、かわいらしいわんちゃんを飼ってらっしゃいますわね」
「ええ、こないだから飼い始めましたの。室内犬を飼うのが昔からの夢でしてね」
「羨ましいですわぁ。次々と夢をお叶えになって」
「そうねえ……あの人が、あっちで応援してくれてるのかしら……」
「夫には私、ずっと口うるさく言い続けてましたから……」
「私がもっと支えてあげれば、あの人はあんなバカなマネはしなかったのかも……」
「あ……申し訳ありません奥様、つい……」
「いえいえ、お気になさらないで……こちらこそごめんなさいね、湿っぽい話しちゃって」
「――――それより! 頼んでおいた品はお持ちいただけたのかしら?」
「あ、はい奥様。今回は都合よく本場ミシガン州で取れました上質のヘマタイトが手に入りまして――――」
【おわり】
例によってわかんなかったら感想欄にGO
親切な人が解説してくれる(といいね)