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色付いた世界  作者: 智遊
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侍女たちの団らん

「そのアリアって子は、あたくしの読書タイムより大切な方でして?」


その言葉にウェントラル侯爵令嬢に仕える侍女たちには胸がすく思いがした。なにしろ、今まで相手が公爵令嬢の取り巻きだろうが下位の令嬢たちに主人が軽んじられてきたのだ。ライナはそれまで主人についていた侍女にそれを聞いてハイタッチで喜んだ。

ウェントラル侯爵令嬢は父を宰相に持つ、今をときめくお嬢様だ。地位も血筋も文句無しに王子妃になれる方。5年前にネスター侯爵の3子フィネール様が入り婿として婚約が整ったが王家の誘いがあればいつだって入宮できると専らの噂だった。

そのウェントラル侯爵令嬢、名前をサリーアという。そのサリーアが何故学園で軽んじられてきたかと言うと、その静かな性格のせいだった。何事にも興味がなく、窓辺で静かに一人本を読み、取り巻きを作らない姿は他の令嬢たちに恐るるに足らずと印象付けたのだ。嫌味を受けても、そう。と流すその姿は表情の無さを含めて一部の人たちから『人形姫』と揶揄されるくらいだった。

ただ、ウェントラル侯爵令嬢付きの侍女たちはその『人形姫』と呼ばれる彼女の心の機微をよく知っていた。とても気遣いの上手い不器用なお嬢様。そのお嬢様を軽んじられることに文字どおり怒り狂っていた。

だからこそ、シュレイツ公爵令嬢への言葉で侍女たちを落ち着かせることができたのだ。

さすがに『庶民とあたくしどっちとるの』と言われた公爵令嬢は立ち去ったらしい。当然だ。身分はあちらの方が高いが、権力を持ってるのはウェントラル家だ。敵うわけない。

それもつい先日、庶民と公爵、フィリップ王子を取り巻く確執は片付いたようだった。厳密には、昨日。先日片付いたと思ったら、昨日その余波が主人をなぎ倒していった。


「サリーア様、なにか召し上がらないと身体に障りますわ。昨日の夜も召し上がっていませんでしたもの」

「……いらないわ」

「では、学園をお休みされては」

「……しないわ」


昨日、婚約者であるフィネールにお茶会で婚約を解消されたサリーア。気落ちしてあれからご飯を食べていなかった。

ライナは他の侍女がサリーアを諌めているのを心配で聞きながら、何も異常がないか寮の入口を確認した。

すると、ドアの下にカードが差し込まれている。


「あら、お嬢様。お茶会のお知らせですわ」

「どなた?」

「アリア……ああ、アリア様ですわ」


平民出の女子生徒を思い浮かべて答えると、すかさずそう。返事をしておいてちょうだいと返ってきた。

イエスかノーか、毎度サリーアは言わないけれども長い付き合いの侍女はちゃんとどちらかわかっている。


「あら?でも、アリア様のお茶会なんて初めてではありませんこと?お嬢様」

「そうね」

「ほら、平民の方だもの。でも、お茶会なんて開けるのかしら」

「馬鹿ねぇ、なんのためのフィリップ王子よ。アリア様のことだから失恋したお嬢様を慰めたいっておねだりされたのではなくて?」

「ライナ、黙りなさい」


侍女たちが好き勝手さえずっていたので笑いながらその中に入ると、すかさずサリーアの叱責が入った。


「とりあえず、行ってきます。昨日の手紙はお父様にきちんと届けてちょうだい。アリア様の返事、行かないなんて応えたら首が飛ぶと思いなさいね」


たまにお茶目心出す侍女たちをけん制してドアの前に立つサリーア。ライナはドアを開く。


「行ってらっしゃいませ、お嬢様」


いつの間にか並んで礼をとる侍女たちの見送りを受けてサリーアは出て行った。



※※※※



「それにしてもフィネール様も馬鹿よねー。あのままお嬢様と結婚してたら旦那様の跡を継げるのに。ウェントラルの土地も継げるのよ?なにが嫌だったのかしら」


窓を拭きながらリーシャが言った。サリーア付きの中で一番お茶目心を持っている子だ。


「そうねー、私はフィネール様、サリーア様のことが好きだって思ってたんですけどねー。ところでマニエ様、ご本家にお送りするお手紙は?」

「私がお預かりしています。フィネール様もお譲りになれない一線があったのでしょうね。それよりライナ、ちゃんとアリア様に出席のお返事してきたのでしょうね」

「もちろんです。お茶目心出すなと厳命ですので」


ライナは、サリーア付きの侍女長マニエにそう応えるとマニエは満足そうに頷いた。これに、荷物持ちとしてサリーアについて行ったモナの四人がサリーア付きである。多いようだが、見栄のためと護衛のためでもあるのでしょうがない。


「でもー、お嬢様、結構尽くしてたと思うんですよ。猫舌なフィネール様のために絶妙な温度のお茶出したり、」

「リーシャ、それ墓場まで持って行きなさいよ。口にしたらお嬢様とフィネール様に殺されるわよ」

「フィネール様が一人語る建国史を、話しが分かるように勉強して。ずっと読んでるのは建国史ですものね、話ししてるところ読みながら話し聞いてますし」

「カバーかけてるからわからないのよ、外からじゃ」

「フィネール様が髪を触るからおろしたまま結わずに、つけてる唯一のアクセサリーは左腕の華奢なブレスレット!あれもフィネール様からでしたよね」

「華奢で見え辛くて、殿方は幼い頃のプレゼントなんて忘れてるわよ。長さをなおしてあるし。さらには今そこの小物入れの中よ」

「お嬢様が不憫で不憫でしょうがないですー!」


リーシャが憤慨!というふうに頬をふくらました。それは可愛いけれど年齢を考えると、ライナは口元を引きつらせた。

マニエはクスクス笑っているだけだし、ライナも何も言わないのでリーシャは頬を膨らませたまま、だから、と繋げた。


「だから、フィネール様の侍従とフィリップ王子の侍従に最後通告しておきました」

「なんて?」

「このまま婚約破棄が認められたら二度とウェントラルの侍女たちと合コンできないと思えって」


その言葉に乾いた笑いを思わずこぼしてしまったライナ。そりゃ大変だ。ウェントラル侯爵家の侍女は美人が多いことで有名だ。恐らく侍従たちから悲鳴が聞こえたことであろう。


「それは当然ですね。それならこの書状は最速で侯爵家に届けましょう。他の侍女たちも同意してくれるでしょう。そうでしょう?ライナ」


マニエは主人から預かった封筒をパタパタ振ってニコっと笑った。

ライナは思った。

きっと王家の侍従もネスター家の侍従も、必死でこの破談をもう一度結びにかかるだろう。そうでなければ困るのだ。


私もできたらそろそろ結婚したいんだけどなー。相手がフィネール様のとこの侍従だからと思って安心してたわ、もうホント。リーシャは、お茶目だけどマニエ様はお腹が黒いってのよ!


ライナははぁっと溜息をついてベッドメイクに移っていった。


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