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第四話・2 神楽坂敵対関係 後編

======================


 意識を取り戻した時、私は駅前通りにいた。

 どうやら流矢の自宅を突き止めたはいいものの、まだ人格が交代してしまったようだ。


「どちらにしろ、人格だけを抹殺する方法はまだわかっていない。流矢は後回しにした方がいいかもね」


 今、私が駅前通りにいるということは、大護さんが電車でどこかに移動しようとしていたようだ。

 私としては大護さんの向かうところに足を運ぶべきかもしれないが、大護さんと会話出来ない今では、それも叶わない。

 そうなると、私が今すべきことは。


「夜ヶ峰 昌子。あの女は危険か……」


 私は大護さんと夜ヶ峰の会話を聞いていた。そして、あの女は私と同じ『能力』を持っていることや、流矢の友人であることを知った。

 私が大護さんを元の身体にうまく戻せたとしても、夜ヶ峰が『能力』で大護さんに何か危害を加えるかもしれない。

 つまり、私が今すべきなのは流矢ではなく夜ヶ峰の排除だ。


 結論を出した私は、学校へ向かうことにした。


=======================


 目の前に新入生、神楽坂 藍里が立ちはだかっている。

 今は昼休み。購買に行こうとした私は目の前にいる新入生を見て思わず立ち止まったのだ。


「こんにちは、夜ヶ峰先輩」


 新入生は満面の笑みを浮かべているが、その表情はどちらかというと威嚇のような意味合いがあるように取れる。笑うという行為には攻撃的な意味もあると聞いたことがあるが、今の新入生がまさにそうなのだろう。


「こんにちは、新入生。私と昼食を共にしたい……というわけではないみたいだね」


 とりあえずは友好的な態度を取ろうとしたが、私が彼女に思わず抱いてしまった感情がそれをさせなかった。


 ――恐怖。


 私は今、間違いなく彼女に対して恐怖を感じている。


「夜ヶ峰先輩。一度だけ申し上げます」


そして新入生の笑顔は、


「金輪際、大護さんに関わるな」


 あからさまな敵意を含んだ表情に変わった。


「……お断りだね。確かに君は彼氏サンと付き合っていたのだろうけど、今は彼氏サンは君と身体を共有している。不貞を働く心配もない。だから私が彼氏サンと会話するのは何も問題はないだろう?」


 だが、私は引き下がるわけにはいかなかった。ここで引き下がれば、この二人を救えない。


「問題はある。お前が大護さんに余計なことを吹き込むという問題だ」

「余計なこと? それは本当に彼氏サンにとって『余計なこと』なのかな?」

「そうに決まっている。お前の存在は私と大護さんの未来にとって障害だ。だからもう、関わるな」


 私の存在が、障害?

 待て。なぜ新入生はこれほどまでに私を敵視している?

 私が彼氏サンと関わったから? それもあるだろう。だがそれだけで私の存在が障害とまではならないはずだ。

 そうなると、私の『能力』か? 

 新入生は私の『能力』に気づいていて、それが障害だと考えているのか? なぜ?


「新入生。君は彼氏サンが君の身体から出たいと考えているのは知っているのかな? それを知っているのであれば、前も言ったけど彼氏サンの意志を尊重してあげてもいいんじゃないかな?」

「知っている。だから私は大護さんを元の身体に戻す。そのためにお前が邪魔だ」


 ……元の身体に、戻す?

 そして私は一昨日の出来事を思い出す。香澄にうりふたつだった彼氏サンの顔を思い出す。


 まさか、新入生の目的は香澄か!? 香澄の人格を抹殺する気なのか!?


 そして気づいた。私の『能力』が新入生にとって邪魔だということに。

 新入生の『能力』に対抗できるのは私だけだ。香澄の身体を奪うときに私の妨害が入ったら意味がない。

 だから新入生は、私を排除しに来たんだ。


 そして新入生が関わるなと言ったのは……香澄の身体を得た彼氏サンのことだ。


 まずい! このままでは私だけではなく香澄も危ない!

 だが考えている間に、新入生は私に近づいていた。


「くっ!」


 私は反射的に、横にあった空き教室に入ってしまった。

 しまった――ここに入ったのはまずい。ここは三階、窓から逃げるわけにはいかない。


「ふん、自分から袋のネズミになったか」


 新入生も教室に入ってくる。入り口を新入生に塞がれている以上、私はここから出られない。

 しかし……


「来ないのか? 新入生」

「……」


 彼女は私に近づこうとはしなかった。


「そうだろうね。私も『能力』を持っているからアンタの『能力』に対抗できる。下手をすれば、アンタの意識の方がダメージを受けるかもしれない」


 この『能力』は相手がその存在を知らない状態でなければ有利に立てない。

 なぜならこの『能力』はあくまで意識をリンクさせるものであり、使う側もなんらかの影響を受けるリスクがある。

 新入生が私と意識をリンクさせた状態で私が強く意識を保てば、逆に新入生がダメージを受ける可能性があるのだ。だから彼女は迂闊に近づいてこない。

 この膠着状態は、いわば当然のことだ。

 しかし新入生が私を殺すとなれば、『能力』を使わざるを得ない。なぜなら新入生の最終的な目的は香澄だからだ。香澄の体を手に入れていない今、私を直截的な方法で殺せばその目的は達成できなくなる。

 そう、いつまでもこの状態が続くわけがない。


「おい、そこにいるのは夜ヶ峰か?」


 やはり来た。

 新入生の後ろから教師が教室に入ってきた。確か彼女の担任の教師だ。

 助かった。この場は彼に助けを求め……


「……え?」

「……」


 どうしてだ?

 そうだ、そもそもどうして新入生はあっさりと教師をこの教室に入れた? この機を逃せば私を殺すチャンスはかなり少なくなるはずなのに。

 それは彼が、新入生の手駒だったからじゃないか?


 その証拠に今、私の腹には小さなナイフが刺さっている。

 そのナイフを持っていたのは、目の前にいる教師だ。


「がっ……」


 腹の痛みに耐えかねて、私はその場にうずくまる。

 そうだ……そもそも私に直接『能力』を使う必要はない。


 第三者に私への殺意を植え付けて、その人物に私を攻撃させればいいのだ。


 それが今、目の前にいる教師……


======================


「う、ここは……」


 駅前通りにいたはずの僕は、気づいたら学校の空き教室にいた。

 どうやらまた交代したようだ。しかしなぜ……


「あ、せ、先輩!?」


 だがなぜここにいるのかという疑問は一気に僕の心から消えた。

 目の前に、体から血を流して倒れている夜ヶ峰先輩と担任の教師がいる。


「あ、え? わ、私は、なにを!?」


 教師は自分が何をしたのかという自覚が無かったようで、目の前の先輩を見ると急に叫びだした。


「う、うわあああああああああああああ!」


 そして、教室から走り去ってしまった。


「先輩! 今、止血します!」


 僕はポケットからハンカチを取り出し、止血を試みる。しかし、血はどんどん流れ出して止まらない。


「か、彼氏サン、か……」

「先輩!」

「か、彼を責めないでやってくれ。彼は新入生に操られただけ……」

「先輩! 喋っちゃだめです!」


 だが先輩は、尚も僕に何かを伝えようとしていた。そして、僕の中に言葉が浮かんでくる。


『この中に、私が気づいた『能力』の詳細がある』

「え……?」


 そうか、先輩は今、僕に『能力』で言葉を伝えているんだ。

 さらに先輩は自分のスマートフォンを僕に手渡した。


『これをヒントに、新入生を救うんだ。君と、香澄で』


 僕と流矢で? 藍里を救う?


『……これは』


 そして、先輩は何かに気づく。


『そうか……彼氏サン、君は……』


 しかしその言葉に後に、先輩の意識は僕から離れた。


「……」

「先輩? 先輩!」


 まずい! そうだ救急車を呼ばないと!


「はい、場所は三階の空き教室です! すぐに来てください!」


 救急車は呼んだ! 後はなんとかして先輩の血を止めて……


「……なんだこれ?」


 その時、僕の後ろから声がした。そこに立っていたのは……


「おい、なんだこれは?」


 見慣れた顔に見たことも無い表情を張り付けている流矢だった。




第四話 完

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