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五話 竜の名前

 目を開けると大きな木の下に寝そべっていた。

 空は夕焼け色に染まり始めている。

 

 ――気が付かれましたか主様

 

 声がした。

 その方向に視線を巡らせると、傍らにあの異形の竜がいた。

 竜から伝わってくる声は高く、どちらかと言うと女性の様な声だった。

 竜はとても不安そうな顔をしていた。

 「大丈夫だもうどうもない。世話を掛けたな――スレイプニル」

 

 ――今のは聞き間違か? 主様に呼ばれたような気がしたが……


 「気のせいじゃないぞ。まったくお前は……俺を追って次元まで超えるとかどうかしてるぞ」


 俺は硬直する竜の頬を撫でた。

 竜の鱗は固くゴツゴツとしている。

 馬であったらもう少し温もりがあるんだろうが、それさえも感じない。

 手から伝わってくるのは、どちらかと言えばひんやりとして冷たかった。


 「まったく。嬉しいじゃねーか」


 ――そんな……まさか本当に私の声が届言っているのですか? この様な姿になってしまったのに……私が、お分かりになるのですか?


 「あったり前だろうが、そんなこと言うなら俺だってこんな姿になっちまったよ」


 男ではなく女――少女になってしまった俺。

 不甲斐ないと言うかなんというか。

 どうしようもない感半端ないよな。

 男の俺を知っている奴なんてコイツくらいなんだろうけど。


 ――そんなことありません! よくお似合いです!!


 反射的に額にあったタオルで竜の顔面を叩いた。

 

 「おいとんま。似合うとか似合わないとか、俺は服の話じゃなくて性別の話をしてんだよ!」


 ――いえ、私がお仕えした時の中には三回ほど女性の時がありましたから別段気にしません!


 「だから俺が気にするんだっての」


 「カレン。どこも気持ち悪くないかい?」


 竜舎からオルスが、その後をミュルス、ガドマン出てくる。


 「竜がギャウギャウ鳴き始めたから何事かと思いやしたぜ」

 「思っていたより目が覚めるのが早いわね。これなら明日から魔法と剣術の訓練を始めても良いかもしれないわ」

 「え、まだ早いだろ」

 「いいえ! この子の才能はまだそこがしれないわ。それに幼い頃から鍛えていた方がこの子の為よ」

 「でもさ――」

 「何か文句でもある?」

 「………………ないです」


 オルス弱い! ミュルスに一睨みされただけで押し黙るとか、それは無いじゃない?

 もっと男の意地を見せてくれよ!


 「じゃあ、明日の午前は魔法の練習、午後は剣の練習だ。手は抜かないからね?」


 ――わ、私も稽古をつけてください! お願いします!!


 竜が土下座している。その異様さに大人達はひいていた。

 いきなりギャウギャウ鳴いて地べたに這いつくばったら驚くわな。


 「一緒に稽古をつけて欲しいってさ」

 「「「はぁ?」」」


 大人たちは俺の発言に又も固まる。そしてその硬直から最初に戻って来たのはオルスだった。


 「まさか竜の言葉が聞こえるとか言うんじゃないだろうね?」

 「聞こえるよ」

 「マジですかい!」

 「とんでもない事になったよミュルスどうす――――」


 ミュルスは固まっていた。

 オルスがぺチぺチと頬を叩く。


 「おーい! ミュルス戻ってくるんだ!」

 「は! もうカレンたったら、冗談もそのくらいにしなさいよ」

 「冗談じゃなくて本当」

 「うーん。信じれないわ。娘の言う事だけどこれだけは信じてあげられない。ちょっと井戸で頭を冷やして来るわ……」


 ミュルスはフラフラしながら井戸へと歩いて行く。

 もしかして竜の言葉が分かってしまうと不味いのか?


 「ねえお父さん。私何か悪いことした?」


 オルスは俺の頭に手を置いて、どこか寂しそうに笑う。


 「何もしていないよ。お前は……ね。もう少しお母さんを一人にしておこう。そうだ竜の名前を決めて上げたらどうだい? いつまでも竜くんでは可哀想だ」

 「う~ん。なにがいい?」


 ――別段なんでもいいですよ。


 「じゃあ、ポチ」


 ――それは流石にやめてください。ほら私今回ドラゴンですからドラゴンらしい名前にしてくださいよ! 


 「それは可哀想だろう。もっと他に竜らしい名前にしてあげなさい」

 二人からのブーイングをくらってしまった。

 なんか竜って大食漢な感じがするし……

 そう言えばコイツのスキルが七変化だったな。

 一つのスキルで七個の変化。

 贅沢だ。竜の癖に生意気だ。

 七と言えば、七つの大罪だよな。

 食べ物なんか食い散らかしそうだし、暴食の意味をもじってグラトニール。

 これで良いんじゃないか?

 

 「じゃあ、グラトニールで」

 

 ――うわぁー俄然カッコ良くなりましたね! もう気に入っちゃいましたよ!!


 「今度は竜らしい名前になったな。それで登録しておこう」


 命名の意味を知らなければ幸せだ。


 「そうかそうか。ならこれからもよろしくなグラトニール」


 ――はい! 主様!!


 


 その後グラトニールを竜舎に戻して、家路についた。

 その日はシチューに鶏肉の照り焼きにパンだった。

 食事中、よく会話をするのだがこの日、母ミュルスは静かだった。

 その理由を聞いても「大丈夫」としか答えてくれなかった。

読んでくださりありがとうございます!!

感想・評価などありましたらお願いします。

次回は11日くらいにお会いしましょう。

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