四話 魂の回廊
どうやら俺は、また死んだらしい。
まだ異世界生活三日目だって言うのに……
「お待たせしましたアレス。色々と立て込んでまして、それはもう目が回るほどです」
「そうか、俺はそれほど忙しくはなかったが……なあ、何かいう事があるんじゃねーのか?」
「そ、そんなに睨まないでくださいよ。あの件は本当に手違いなんですら!」
「手違いであんな風になるか! 普通生まれた所から始まるんじゃないのかよ!!」
「だからですね……ああもう、何ていえばいいのかなー」
「もう、アリサ貸して! ――途中から失礼します。英雄アレイン・ギッシュバルガ。私は女官長を務めております。アグリと申します。此度の不手際の謝罪と説明をさせて頂こうと思い貴方をお呼びしました」
またも逆光で顔が見えない。
ただ、とても我の強そうな女性のようだ声でわかる。
これくらいの肝っ玉を持った女性なら女官長も納得だ。
俺がよく行っていた料理屋のおばちゃんを思い出すな。
恰幅がよくて度胸があって、男にも女にも容赦がなくてみんなの母親って感じのおばちゃんだった。
懐かしいな。まだ三日くらいだけど。
「なんだかとっても失礼な事を考えてません?」
「いや? それで、不手際ってのは?」
「まずこちらの不手際ですが、本来であれば貴方は母親のお腹の中にいる男の子の体に転送される予定でした。しかし、その自動転送機能が故障しており、手動操作にて魂を送らざるおえなくなりました」
「それで、あんな手荒い感じになったのか」
「ええ、手動操作は慣れないと難しいので。昔は殆どが手動操作であったので良くそう言った事故が多発していました」
「そう言った場合どうなるんだ? 魂の回廊からやり直しなのか?」
「いえ、もう一度死んでもらうしかないですね」
とんでもない事をさらっと言うなコイツ。
「ただし、自殺などはお勧めしません。自殺すれば魂がその次元軸に縫い付けられもう二度と魂の回廊に帰ってこられなくなります。自殺すれば確かに終われます。ですが、魂は同じ時間、同じ痛みを延々とその魂が壊れ消滅するまで続き最後にはその次元の活力になりおわりとなりますね」
「じゃあ俺は死ぬまでこのままという事か?」
「そういう事になります」
他人事だからってそんなあっさり!
マジであり得ないんだけど!!
「それから今回の事件の事を色々調べた結果――その、一人の女官の悪戯であった可能性があるとが発覚しました」
「おい、その人の人生めちゃくちゃにしたそいつはどこにいるんだ?」
「大変言い難い事ですが、その事が発覚する前に行方が分からなくなっていしまい。今も捜索中です」
「で、お前達――魂の回廊が俺にどんな謝罪の仕方で持ってこの騒動の落としどころにしようって思っているんだ?」
これ大事。とっても大事だからね。
悪戯の犯人から謝罪が聞けない以上、責任を取る事が上司の仕事ってもんだ。
さてどうしてくれよう。
「――こちらとしては、精一杯の謝罪と私に出来る範囲の願いを聞き、それを叶えようと思っております」
「ふーん。もし俺が叶えてもらう願いが無いって言ったらどうすんの?」
「いやいや、色々あるじゃないですか。そう、例えば不老――……今のは無し、色々あるでしょ?」
コイツ今不老不死とか言おうとしたんだろうな。
不老にも不死にも興味はない。
なんで俺だけ死なないようにならなきゃいけないんだよ。
それだけで化け物じゃないか。
「取り敢えずアリサ。俺のステータスを分かるようにしてくれ、それから決める」
「わ、分かりました。直ぐにしますね」
――アレイン・ギャッシュバルガ――(魂)
――カレン・ウィンドミル――
性別 女
種族 人族
職業
称号 英雄 赤炎の女帝の子 魂の統率者 英雄豪傑
スキル
健脚 無病息災 眼光炯炯 人馬一体 ※一騎当千
大胆不敵 ※背水之陣
魂の統率者
魂の隷族を誓った者達の主
回収率1/6
英雄豪傑 ※ミュルスによる戦闘で解放。
知恵・才覚・気力・武力が成長と共に上昇。
大胆不敵
相手の威圧、怪異、悪意、憎悪、異質に動じない。
※背水之陣 ※戦闘により解放
不利になればなるだけ、戦闘力が上昇。
※一歩も退くことのできない絶体絶命の状況や立場に陥った場合にのみ発動。
「色々解放されてるな……この【魂の統率者】って言うのはなんだ? なった覚えもないんだが?」
「ああ、それはアレン。貴方の人柄に惚れ、死んだ後も貴方についていきたいと心の底から願い。そして、その願いが叶えられた者達の事をそう呼びます」
「それは俺がアレイン・ギッシュバルガだった時の人達なのか?」
「いえ、十回ほど前からの方も居られるようですから一概にそうだとは言えません」
「そうか。ならあの竜――いや、正確には馬だった。スレイプニルも魂の眷族なのか?」
「そのようですね。あの馬が死ぬときに願った事は「貴方と同じ世界、同じ時、同じ場所を願う」「もっと強力な生物に生まれ変わって貴方を守りたい」と言っていたと担当した女官が言っていましたよ」
そうか、どうりでアイツにあった時、なぜだかとても懐かしい感じがしたんだ。
でもあの竜の姿は流石にやり過ぎだと思う。
俺が居なかったら間違いなく食肉として潰されてただろう。
「竜のステータスも見れるか?」
「ええ、見れますよ」
――スレイプニル――(魂)
性別 ♂♀
種族 龍族(亜種)
称号 英雄の愛馬 英雄の鼻 英雄の耳 英雄の目 魂の眷族
スキル
七変化
七変化
強く、鮮明に思い描けばその理想の姿に変化出来る。
形状を七つ記録記憶する。
記憶させた七つの変化は何度も変更可能。
「何だこのとんでもスキルは」
「こういったスキルでもいいのではないですか?」
「いや、人間がコロコロ形状が変化してたら怖いわ!」
「そうですか? こう変身!! なんてことも出来ますよ?」
「やる意味が分からん。そうだ。なあ、女官長アグリ」
「なんでしょう?」
「スキルが決まった。話すことが出来ないものの声を聞けるようにしてくれ」
「分かりました。ですが本当にいいのですか?」
「いいよ。それで」
意志疎通
万物の声を聞くことが出来る。
ステータスに反映されたのを確認した俺が顔を上げると魂の回廊は崩壊し始めていた。
「どうやら、時間のようです」
「そうみたいだな。スキルありがとうな女官長アグリ」
「いえこちらの不手際で申し訳なかったとしか言えません。必ず逃げた女官を捕まえて貴方の前に引きずり出して謝罪させて見せましょう」
「その時を楽しみにしている」
「そうそう。もう一つだけ」
「なんだ?」
「今回の世界では貴方の眷属達が全員そろうことになっています。時が来れば巡り合う事になるでしょう」
「そうか。でも俺はスレイプニルしか記憶に残っていないから、他の奴にあっても分からないかもな」
「それでも魂の眷族は出会い貴方を支えてくれることでしょう」
それを最後に視界は黒に染まって行く。
「「貴方に天上の加護と祝福と栄光あれ」」
そんな二人の声が闇の中に響いた。
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