表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/14

二話 孵化室

30日ではなく31投稿すべきもの一日早く投稿してしまいましたので、これまで上げます。


 ミュルスの声が聞こえたのか、竜舎から一人の男が出てきた。

 短く刈り込まれた金髪のに緑色の瞳。

 眉は細く目じりが下がっている事が特徴だろうか。

 また着ている青のオーバーオールがよく似合っていた。

 まあ、父だが。


 「ありがとう、ミュルスもうひと段落したら貰うよ」


 彼は首から下げていたタオルで汗を拭きながらそう答えた。

 「分かったわ。何か手伝えることはある?」

 「手伝ってもらう事は特にないんだけど。もうすぐ孵りそうなんだ」

 卵から産まれる鳥と同じように、竜の場合も刷り込みが可能である。

 飛竜を育てる上で最も重要視されている事がこの刷り込み作業だ。

 「あら、カレンよかったわね。飛竜の赤ちゃんが孵る所が見られるって」

 え、いいの。見ていいの? マジで!

 「わーみたい!!」

 「じゃあ、竜舎の中に行こうか」

 俺達家族は竜舎の中にある卵置き場に向かった。

 


 卵置き場――通称孵化室。

 その場所は一年通して温度があまり変わらない地下にある事が多い。

 それは十三大陸には四季があるからだ。今は春。孵化が最もさせやすい季節である。

 「ちょっとむしむしするね」

 地下への階段を下りていて思った事だ。

 蒸し暑い。少し動いたくらいでうっすら汗をかくほどに。

 「ああ、我慢してくれカレン。こうしないと飛竜さんたちは生まれないんだ」

 「うん、我慢する」


 鳥でも人の温度で孵ったからな。

 アイツの言う通りにしたら。

 生前の話になるが、俺は行き倒れを拾った事がある。

 そいつは黒い艶のある髪に茶黒い瞳をしていて、自分をニホンジンだと言っていた。

 俺はそいつを家に持って帰って、面倒を見る事にした。

 そいつは色々な事を知っている。

 俺の知らない事、世間一般が知らない事、未だ世界が知らない事をそいつはペラペラしゃべった。

 俺は家に置く代わりに、俺に勉学を教えてほしいと頼むと快く教えてくれた。

 算術、法律、道徳、経済、政治、歴史、化学、地学、力学――それからマンガにアニメといった一風変わったものまで。

 そいつは瞬間記憶といった特技を持っていた。

 何でも一度見たものは二度と忘れないのだとか、疑う俺にそいつは言葉を数時間で話せるようになった。

 俺はそいつに習った政策を主君に教え、国は今まで以上に栄える事になる。

 それが己の身の破滅に繋がるなんて思ってもみなかったけど。


 「さあ、ここだ。あまり大声で騒がない。いいね?」

 俺は首を何度も縦に振る。

 軋む音を立てながら木製のドアは開いた。

 部屋の中には大量の敷き藁、十個ほどの卵と坊主頭で骨肉隆々の巨漢が椅子に腰かけていた。

 コイツも父と同じ青いオーバーオールを着ている。

 俺達に気付くと男は立ち上がり、貴族の家にいる執事みたいに丁寧なお辞儀をする。

 

 「これは奥様にお嬢様、ご機嫌麗しゅう」

 「ガドマン。まずその変な喋り方を止めろ。気色が悪い」

 母の口調が変わった。ビックリしてミュルスの方を見上げる。

 そこには朗らかな笑顔のミュルスがいた。

 どうかした? そんな笑顔で俺を見る。正直怖かった。

 もしかしてこっちが素か!

 「ミュルス。口調が昔に戻ってる。娘にその男みたいな口調が移ったらどうするんだい」

 「何の事かしら? ねえカレン。お父さんは何を言っているのかしらね?」

 正直にその笑顔が怖かった。生物みな母親には勝てない物だとこの時思った。

 生前俺には両親がいなかった。正確に言うなら両親の記憶がない。

 俺は乳飲み子の時に教会に拾われ、孤児院で育った。年老いたシスターが俺達の面倒を見てくれていたが、怒るととても怖かったことを覚えている。

 「なにを言ってるんだろうねー」

 ここはミュルスに賛同しておこう。

 

 部屋の大きさは横に五メート、縦に三メートル、天井は二メートルくらい。

 壁は石造りの頑丈な造り、床は土のままだ。

 敷き藁の下には熱伝導のいい火石(火を魔法で封じ込めた石の事らしい)が敷き詰められ、卵を一定の温度に保っていた。

 「あれから二匹生まれたので地上に持って行きやした。今回も良い飛竜に育ちそうです」

 「ああ、今回は孵化する割合が多いからね。想定以上に出荷できそうだ」

 「へい。……それより気になるのは、あのデカい飛竜の卵でさぁ、あれは本当に飛竜なんでやしょうか?」

 ガドマンが気になっている飛竜の卵。その大きさは周りの卵に比べると確かに大きかった。

 飛竜の卵は直径二十センチにたいし、その卵は直径五十センチはあるからだ。

 卵の柄なんかは同じなのだが……

 「うーん。飛竜しか扱ってないし……もしかしたら先祖返りかもしれない」

 「そんな事があるんですかい?」

 「僕が子供の頃に見た事がある。完全にあれは土竜だった」

 「それはまた難儀なことで……。あれを殺るのは大変だったでしょう」

 「生まれたばかりの幼体といえ竜は竜。それも土竜だ。その鱗は固く強固で強靭だ。五種族の中でも防御力だけはずば抜けて高いからさ、どんな剣も刃が欠ける。まあ、丁度良く竜殺し(ドラゴンスレイヤー)の呪が掛かった魔剣を持った人が居たからその時は良かったけど……先祖返りじゃない事を願うよ」

 「土竜は竜騎士にも人気が無いですからね。アイツ等ときたら、土竜は地を這うだけの蜥蜴と笑うだけでみむきもしゃせん」

 「うん。頭が痛い所だよ。人間の都合で勝手に孵らせて、人間の都合で殺す――命って言うのは人が軽はずみに扱っていいものではないと思うよ」


 今話し合っている卵が小刻みに動き始め、卵の中からゴツゴツという音が聞こえ始めた。

 竜が、ついに生まれる。

 


 卵から竜が出てくるまでにそう時間は掛からなかった。

 その竜は焼けただれた様な赤茶色の鱗に、太い四本の腕にこれまた大きい後ろ足が四本。計八本の足。

 対照的に翼は通常の飛竜の半分ほどくらいしかなかった。

 これは飛竜と呼ぶよりも、怪獣である。

 飛竜と同じと言える所は尻尾が一本と首が一本、それから角が二本だった事くらいだ。

 

 この場にいる大人たちの反応は様々だった。

 「何だこりゃ! 大将こりゃ売りもんになるんですかい?」

 ガドマンがこの竜の異質さに驚き……

 「流石にこれは無理だろう。奇形で生まれてくる事はたまにありはするが、ここまでの物は僕も初めてだ」

 オルスが冷静に分析する。

 「この子は先祖返りみたいね……私が討伐した土竜の亜種みたいな特徴がある。原種より亜種の方が肉が美味しかったわねー」

 母ミュルスにいたっては、これを食う気でいるようだ。

 大人三人がさまざまに話し合っていはいるが、結局この竜を殺すという事を落としどころにしているようで何だか納得がいかない。

 俺はこの竜の出で立ち、異質さ、異様さ、雰囲気が一頭の愛馬を思い出させた。

 だからこそ、コイツは殺してはいけない。

 俺の思い違いであったとしても。

 せっかく生まれきたのだ。

 生きたいに違いないし、生まれてきたならば宿命を背負って生まれてくるのだから、人も動物も竜だってその筈だ。

 命っていう物は尊い物だとアイツが教えてくれたから。

 「この子……殺しちゃうの?」

 俺は聞かずには居られなかった。

 オルス、ミュルス、ガドマンはしばし沈黙し、そしてオルスが口を開いた。

 「正直、どうしようか迷っている。土竜は飛竜以上によく食べる、伊達や酔狂で飼いたくはない――と言うのが牧場主としての答えかな」

 確かにメリットは無い。こんな怪獣を飼っていても利益は求められないだろう。

 ただ飯ぐらいの大食らいは置いてはおけないのなら。

 それなら……

 「じゃあ、私が買う」

 「「「え?」」」

 当然だろう。五歳になったばかりの娘がそんな我儘を言い出したのだから。


 「カレン。それがどういう意味か分かっているの?」


 底冷えのする声と怒気を孕んだ威圧感が孵化室に響く。

 オルスとガドマンはその声に一瞬ビクッと肩が震えた。

 俺はミュルスの目を見ながら言い放つ。


 「うん。私が衣食住を整える。この子に不住はさせない。私がこの子を立派な竜にする」

 「餌の取り方から戦闘訓練まで出来るっていうの?」

 「出来る」

 俺の言葉を聞き終わると同時に沈黙が数分間場を支配した。

 「……表に出なさいカレン」

 沈黙を破ったのはミュルスだった。

 ミュルスの威圧感が更に増す。何かが膨れ上がる。

 「その性根を叩き直してあげる」

 そう言い残すとミュルスは背を向けて孵化室から出て行った。

 あれは女傑だ。

 女でありながら戦闘に身を投じ、己を磨き上げその上に技術と力、地位を手に入れたつわものだ。

 普通・・であれば五歳の小娘があの女傑に敵うはずもなく倒される事だろう。

 普通・・であればの話だが。

 「良いんですかい? オルスの旦那。姐さん、マジですぜ」

 「うーん。良い訳ないんだけどああなったら聞かないしね……どうするんだいカレン。お母さん怒っちゃったぞ?」

 「大丈夫だよお父さん。お母さんには負けないから」

 俺はそう言い残し、孵化室を後にした。

次回は7日前までに出来ればアップします。

出来なければ7日ですが。

読んでもらえることに感謝しながら、アクセス数を見てモチベーション上げて書いて行こうと思います。

応援よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ