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0話 魂の回廊

 「こんにちは、可哀想な英雄さん」


 その女神は俺を見てそう言った。

 白が、純白の白が俺の視界を染める。

 その空間で、最も眩い光を背に受けて、その女神は立っていた。

 驚いた事に俺を見て涙を流していたのだ。

 そう感じる事が出来る。


 多分だが。


 逆光で女神の容姿は分からない。

 ただ感じるのは只人ではたどり着けない境地にいること。

 それが彼女を女神たらしめるのだと、俺は勝手にそう思った。


 「魂の回廊にようこそ、英雄アレイン・ギャッシュバルガ。私は天上で魂の送還を行っている女官サリア。短い間だけどよろしくね?」

 女神じゃないだと!

 俺の感動を返せ!

 「女官アリサ。貴女に聞きたい事がある――」

 「何ですか? 英雄アレイン・ギャッシュバルガ」

 「アレンで良い。それより聞きたい事は、俺は死んだ……いや、俺は殺されたのか?」

 「……ええ、はい。アレン、貴方は――英雄アレイン・ギャッシュバルガは、貴族の不正、そして宰相アガレスの反逆罪を告発しようとして失敗。その気を逃し、逆に貴方は大罪人としてその生涯を終えました」


 そう、俺は不正と汚職にまみれたあの国を変えたかった。

 

 何より宰相アガレスの暗躍を。


 俺が尊敬し、敬愛していた我が主君アイザック・オルス・モーガンの為に。


 あの主君の為に俺は戦った。


 戦って、戦って、戦って、戦った。

 痛かった。

 苦しかった。

 どうにもならなかった。

 どうして思いどうりにならないのか。

 なんでわかってくれないのか、どうして俺は死ななければならなかった?


 死ぬ寸前に主君アイザックに合った。

 磔に左右の手を釘で縫い付けられている時に合えた……が、アイザックのその眼にあったのは憎悪だった。


 『お前だけは我を裏切りはしないと思っていたなのに……なぜ我を裏切ったアレン。そんなにも我が邪魔であったか?』


 この時、俺は拷問を受けて声が出なくなっていた。

 一番に喉を潰され声を封じられたからだ。


 『……』

 『そうか、ではもう話すことはない。この大罪人を処刑しろ』


 俺を一睨みして踵をかえす。その後は振り返る事はしなかった。

 その後ろに宰相のアガレスがいそいそとその後を追う。

 いやらしい笑い方だった。

 この時ほど視線で人が殺せたらいいと思った事はない。


 はらわたが煮えくり返る。

 くつくつと湯だつように。

 途方もない怒りが俺を染め上げた。



 「さて、アレン。ここでは色々な時への魂の送還を行っていますが、次にどこに行きたいですか」


 ちょっと厠に行ってくるみたいなのりでいいのか?


 「次? 次があるのか?」


 このまま天上に迎えられるんじゃないんだな。


 「ええ。ここ魂の回廊では魂の浄化を行いランダムに時間軸に送還しています。今は過ぎ去った過去と呼ばれる時間、今からすれば数年後の未来であろうと、異なる世界であったとしても送還は可能です」

 「異なる世界?」

 「そうです。時間軸と次元軸と言うものは無数に存在しておりまして、一の世界には合って二の世界には無い。三の世界には一と二の世界の物と別の生物がいる――分かりやすく言うならおとぎ話に出てくるような魔物やドラゴン、魔法や魔術といったものでしょうか」


 天上界の人がおとぎ話って……

 まあ、そのおとぎ話に憧れていた俺が言えた義理ではないけど。


 「じゃあ、俺が居た世界で、時間は百五十年後、その三の世界みたいな時間軸に送って欲しい」

 「分かりました。では次にその世界に適した状態に魂の調整を行っていきますね?」

 「よろしくたのむ」

 「では精神力を魔力に変換して、技能・特技をスキルに変換してってっと……」


 それから暫くブツブツ一人で呟きながら手元を動かしていく。

 


 「ではアレン、これが貴方の次の世界でのステータスと呼ばれる物です」

 

 


 ――アレイン・ギャッシュバルガ――

 性別 男 

 種族 人族

 職業 

 称号 英雄 

 スキル

 健脚 無病息災 眼光炯炯がんこうけいけい 人馬一体 ※一騎当千

 ■■■■


 健脚

 どんなに歩いても疲れない。

 

 無病息災

 どんな病も掛からない。

 

 眼光炯々

 観察力、洞察力、眼識の向上。嘘を見抜く。

 

 人馬一体

 騎乗したものと心を通わせることが出来る。


 ※一騎当千

 何かに騎乗したことで解放されるスキル。

 騎乗したもののステータスと自身のステータスを相手の数人の倍にする。


 ■■■■

 解放条件を満たしていません。




 「これが俺の次の世界で必要な情報なのか?」

 「前回の世界での得意であった事をスキル化しています。塗りつぶされているものは現状では付加されていません」

 「なるほどな。で、開放するにはどうすれば?」

 「善行を積むかレベルを上げるかすれば解放されると思いますが、特殊条件と言う事もあり得ます」

 「え?」

 「例えばドラゴンを殺す事によって解放されるものや王様になってようやく解放されるものとかも過去にはありましたよ」

 「最後のとか無理だろ。王族じゃないと」

 「ええ、でもその人は下剋上して王座を奪い王様になりましたけどね」

 「マジか。それはすごい事だな」


 ジリジリジリ――――


 「ひう――!!」

 何かの音が突然この空間に鳴り響いた。

 アリサはその音を慌てて止める。

 小さく咳払いして。


 「では、そろそろですね。最後にお聞きします。アレス、貴方はなにか望む物はありますか? 私の可能な限り貴方の願いを叶えて上げれます」

 突然そう言われても困ってしまう。

 俺の願い。

 俺の願いは俺の周りの人間が笑顔でいてくれる事が俺の願いだった。

 俺は人のために自分を犠牲にしてきたとは思っていない。

 俺はやりたい事を――自分のしたい事を一生懸命にやり、そして死んだ。

 なら次は自分自身の為に生きよう。

 誰にも文句を言わさない強さ。

 誰もを従えることのできる器。

 誰よりを幸福な人生を歩んでやりたい。


 「じゃあ、俺は誰にも負けない強さと人を従える器――そして前世の記憶を残したまま次の世界へ行きたい」

 「前の二つは叶えることはたやすいですが、本当にいいのですか? 記憶を消さないで? 記憶があるまま転生しても辛いだけではないですか」

 「いや、俺は失敗を忘れたくない。俺は失敗して失敗して失敗した。俺のせいで死んでいった奴らが大勢いる。そいつらを忘れる事は俺自身がしたくない」

 「そうですか。分かりました。ではそのままで手続しますね」

 「ああ、頼む」

 「ではいってらっしゃいませ。英雄アレイン・ギャッシュバルガ」


 白い世界に黒が侵食していく。アリサの姿も見えなくなっていく。

 黒が視界を染め上げていく。

 黒く黒く黒く黒く黒く黒く。


 「貴方に天上の加護と祝福と栄光あれ」

 この暗黒の中にアリサの澄んだ声が響き渡っていた。

1週間後に又投稿いたします。

興味をそそられた方は是非読んでください。

感想要望受け付けます。よろしくお願いします

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