表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

Laceration

作者: 満月

……紅い血が白いタイルの床に零れ落ちる。

痛みはもう感じなかった。

薄れゆく意識の中、私はもう一度、刃を握る手に力を込めた。

抉られた傷口からさらに血が噴き出す。

終わる……これで全て、何もかもが。


身体が重い…………。

気がふっと遠くなる。

苦しまずに死ねる方法があればなぁ、と今更ながらに思う。

けど、この方法を選んだことに後悔はしていない。

これはきっと自殺なんかを選んだ私への罰。


最初は怖かった、そして痛かった。

しばらくして、痛いという感覚は消えた。

すぐにでも死んでしまいたかった。

刹那的な快楽が襲ってきて、私はさらに自分の体を傷つけ続けた。

…………それでも、私は死ねなかった。


確かに私の体は弱っていっている。

血が流れ続け、浴槽に溜まった水は赤く、私の肌は血を失って青くなっている。

辛く苦しい時間が続いた。

でも、“死”は私にはやってこない。

「どうして…………どうして死ねないの……?」


何度この言葉を口にしたことだろう。

逃げること……この世から逃げることがこんなにも辛いものなのかと、私は思った。

ぬるぬるとした、血で染まった右手はもう刃を握る力がなくなってきた。

……願いがもうすぐ叶う。

脳の活動が停止し、心臓ももうすぐ止まる。


早く……早く………早く……。


左手の傷口は骨が見えるほどになっていた。

深く抉られたそれは、その先の指に通う血を止め、青紫色に変えていた。

下手に切ったせいか、私の意識が飛ぶことはまだない。

ほとんど血の流れることのなくなった左手。


……まだ、私は死ぬことができなかった。

右手からカッターの刃が落ちる。

剥き出しの刃を握っていたその手からは、左手の代わりに血が流れ出していた。

目から何故か涙がこぼれた。

もうこれ以上自分の体を傷つけることはできない。


やがて、右手から流れる血も止まる。

ゆっくりと、意識が遠のく。

ようやくだ、やっと私は……。


…………私は冷たい床の上に倒れた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ