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久坂玄瑞伝  作者: sigeha-ru
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終焉の炎(6)



―文久四年から、僅か二ヶ月で元号が変わる。


―元治元年とこの二月から呼ぶ事になる。




先月再度提出した入京申請は却下された。

朝廷から返答が届いたと思えば入京申請取下げと来ている。

これは、彼等長州藩士等を落胆させ、同時に朝廷を担ぐ意味を退廃させる結果となった。

已む無く久坂は息巻く藩士らを宥めると、井原主計と共に預かってきた『奉勅嘆願書』を

提出し、一旦大坂藩邸に退いた。



(恐らく、この調子では薩会ら佐幕派に牛耳られた朝廷は見もすまいて。破り捨てられるが

関の山じゃな・・・・)



解っていても、内心がっくりと肩を落とさずにいられない。

大坂に止まる間、久坂のこれまでの活躍が改められ、石高を加増されている。

政務役に就いた者が僅か二十五石ではちとおかしかろうという議論が沸いた為である。

これにより、加増され彼は四十石の大組士となったのである。



「気にするでないぞ。そなたならば直ぐ石高なぞ上げられよう。」



井原主計は久坂に慰めの言葉をかけた。

彼は僅かに微笑し頭を下げるだけであった。


久坂の脳裏には憤死した兄の面影だけが映っていた。

武士として戦い死ねる事だけが、今彼の心を僅かながら満たしていたのだった。








そんな時に、盟友高杉晋作が藩邸に入り込んできた。

情勢伺いを命じられてきたのかと久坂が思っていると、彼はとんでもない事を言ってのける。



「いんや?僕は来嶋の爺共に身分惜しんで臆しおったか若造がと言われたからな、それはないと

訴える意味で除籍覚悟の逃避なぞしてみたのじゃ。ま、脱藩という事になるかいの」


ケロっとした表情は、こういう堅苦しい武士の枠を少し外れた彼らしい。

上士の家系にありながら、武士の枠組みと一線ズレタ友を呆れながらも慣れたという顔で見ていた。



「んでな、ついでに京の情勢なぞ聞いとこうか思ったんじゃがな・・・」



相変わらず、どこまでも奔放な男である。

全くとんでもない事を仕出かした癖に飄々と構えている。

本当に彼らしいものだ。

この性分をうらやましいと思う気持ちも多少ある。

今、ここで足止めを食らい、モヤモヤしている自分がバカらしいとさえ思わせられる。

高杉という男は、本当に不思議な存在である。




「で、京の情勢より藩は一体どうなっとる?」


「ん?来嶋の爺が進発だと騒がしいからな、僕が已む無く政務役として宥めにいった・・・」


「そしたら、小僧扱いで軽くあしらわれ、今に至る・・・と」


ヤレヤレという表情で久坂は聞いている。

またあの爺様が・・・といった所だ。


すかさず、傍で聞いていた井原主計が口を開いた。


「ゴネておるのは来嶋さんだけか?」


「いんや。井原さん違いますよ。真木和泉も一緒になって爺同士盛り上がってら」



真木和泉・・・

その名前を聞いた瞬間、井原は大きく溜息を吐いた。

あの二人は最強の爺様達だ。

そして、指導者としてここ数年真木に至っては長州藩是にすら関与してきた存在。

それに、侍大将の来嶋翁までついている。

これは非常にまずい。

藩是が強硬論になれば―・・・


そこまで、考えを巡らせて井原はサッと血の気が引いた。



「・・・よもや、軍勢を上洛させるつもりではあるまいな・・・」


絶望とも取れる、消え入りそうな声をやっと吐き出す彼は顔面既に蒼白である。

久坂はまさか・・・といった面持ちで固まった。

(来嶋さんならやりかねない)


「でしょうねぇ。彼等は相当来ているからなぁ」


高杉は井原主計の蒼白ぶりを見ても、暢気な声を出している。



「で!晋作、出撃してどうするつもりじゃ、爺様方は!」



胸倉掴まん勢いで、久坂は高杉に詰め寄った。



「君側の奸賊を除く事・・・つまり薩会じゃな。」



「武力で追い出す腹か・・・」



井原はボソリと呟く。

久坂はその傍で、深く溜息を吐いて、来嶋・真木両人が息巻く気持ちも解らずともないと

一人思っていた。

自分とて、何度と無く朝廷に押し入って、嘆願書を叩きつけてきたい衝動に駆られたものだ。

現場に居ず、まだかまだかと焦らされて何も手立て無い、動けない藩内の皆はヤキモキしているだろう、

おそらく、朝廷の傍にある自分達よりも。


爺様達過激派の策は策とも呼べず、無謀極まりないことこの上ないのだが・・・

それでも、どこかしら・・・

それ以外にもはや長州藩が立ち上がる手立ては無いのかも知れんと思う自分が居る事も知っていた。

しかし、今それをするには時期尚早ではないか?という疑念もある。

下手をすれば、長州は『朝敵』となりかねない。

これは避けるべき事態。

慎重論に今一度引き戻し再度検討すべし・・・・

久坂の頭の中で、そう結論付けた。



「晋作、君はいち早く帰藩し彼等を抑える事に尽力してくれ。今はまだその時ではないと・・・」




この後、晋作は京藩邸を経由して長州に戻るも、脱藩の罪で武士身分用の野山獄に入れられてしまう。

彼ら双璧が会って、その声を言葉を交わしたのはこれが最後となったのである。





暫く振りです。

長らく更新停止になり申しわけありませんでした。

完結に向け、HPサイドと折り合いつけながらの更新・・・と思っていたら随分ほったらかしの体たらく。あとわずかで完結予定ですので、どうぞ最後までお付き合いくださいませ。(なかなか最後が決まらずまたもや執筆が滞りがちなこの頃;)

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