維新の礎(15)
久坂は暗い京の町を大股で地を踏みしめながら歩いていた。
肥後の宮部鼎蔵が指定してきたのは小ぢんまりとした料亭で、祇園にあるという。
彼は河原町の藩邸から一路北へと向かっている。
(どんな志士らが集っとるんじゃろう・・・・。)
胸をときめかせながら、彼は一方で藩の代表として会見に及ぶのだからと気を引き締め
て力強く祇園を目指した。
-----------------------------------------・・・祇園一力亭・・・
「おお!久坂君よう着たとたい!」
先ほど一時別れた宮部鼎蔵が彼の姿を見つけ、嬉しそうに手を振った。
久坂がそれに会釈をし室内に一歩踏み入れると、中では既に肥後人と思しき面々が
座しており思い思い同志との対話にかかっている。
「宮部先生、お待たせして申し訳ありませぬ。どうお話しようかとあれこれ考えあぐねて
おりましたらこんなにも遅くなりまして」
照れた苦笑いを浮かべ久坂は相応の若者らしく振舞うと、宮部ははははと大いに笑い
満足気に頷いてよかよか!と彼の背を軽く叩いた。
「よしよし、今宵は我が肥後勤皇党の面々に久坂君より攘夷戦の事も含めてようお話を
してやって欲しい。酒を飲みながら有意に語らおうじゃないか」
「有難うございます。」
宮部は集ってきた十数名の志士らを寄せ長州攘夷戦の話をさせようとパンパンと手を打って
彼らの意識をそちらへ向けると、久坂に話を促した。
「皆、今宵は長州の久坂殿をお招きし此度の馬関攘夷戦の事伺おうと思う。」
「おお・・・そりは是非に」
「如何に長藩が戦うたとか?!」
肥後人たちは非常に関心を示し、久坂の言葉を待ち構えた。
久坂は、一つ一つ言葉を選びながら語っていった。
攘夷戦となるまでの軍備、戦略・・・
光明寺党他長州兵達の戦いにおける意気。
どのような戦いを演じたのか、敵艦(実際は商船であった)の動き。
戦という場で彼らが実感した全てを彼は熱弁し続けた。
宮部以下肥後勤皇の志士達はじっと久坂の響く美声に耳を傾けていた。
その中に一人、じっと睨む様に彼を見据えるものがいた・・・・・・。