維新の礎(14)
久坂は馬関での攘夷戦を終えると再び休む時間を惜しんで京へと向かった。
彼のここ数年の活動は慌しく、時代の変化という急激な激流の真っ只中にあって
日は飛ぶように過ぎ去っていった。
「久坂君、久しぶりじゃ・・・」
後ろからかかった声に久坂がはっとして振り返ると、貫禄ある風貌の宮部鼎蔵が
笑みを浮かべて近寄って来た。
「宮部先生・・・、こちらこそご無沙汰しております。お変わりなく・・・」
久坂がまだ学問に励んでいる頃、九州旅行をした折に宮部を訪ねていった事が
あったが、あの頃から随分と年月が経過していた。
宮部はすっかり10代の幼さ抜けて一人前の志士として成長した久坂玄瑞の姿
を眩しげに見つめた。
「久坂君の噂はわしにもよう届いとっとよ?他藩とも対等に渡り合い、政治工作も
実に見事なもんじゃ。・・・馬関の攘夷戦・・・あれは空念仏の攘夷論者達のみ
ならず、正に敵味方を刮目させたよか方策たい!」
宮部は先の馬関攘夷戦を大いに評し、彼の成長振りを先輩として誉めちぎった。
「宮部先生・・・・そういえば今宵は先生方とまた会合していただけるとか・・・」
「うん、こちらも久坂君達長州勤皇派とじっくり話がしたい思うとっとけんな・・・
肥後勤皇党の若い志士とも是非議論して貰いたいとけん宜しゅう頼む・・・」
宮部はそういってまた軽く言葉を交わすと河原町へと歩き去っていった。
久坂は新たな志士たちとの会合に胸を弾ませ藩邸への岐路に着いた。
「久坂さん、そんなにはしゃいでどうしたんじゃ?」
のんびりと煙管を吹かしながら伊藤俊輔が珍しげに久坂を見ている。
「はしゃいじゃ居らん。ただ、これから肥後さんとの会合じゃし緊張してな。」
「ふーん。久坂さんでも緊張するんすね・・・」
のんびりしたその格好のまま伊藤は煙を出しながらだらりと話を進めた。