維新の礎(12)
いよいよ馬関決戦の火蓋が切られた。
航海を続ける一隻の船を長州大砲射程距離ギリギリまで引き込んで沿岸に備え付けられた
大砲数台が一斉に火を放つ。
今でこそ小さな大砲だが、当時はそれが天地に轟く爆音を唸らせる恐るべき兵器であり人々も
勝機を予見するところであった。
久坂達も当然これならばあの敵船、静めることも可であろうと図り期待をかけていたので数発
打ち込んで最初の弾が命中した際には飛び上がるほどに喜んだ。
「やった!敵艦に命中したぞ!!」
「ああ!おい!どんどん当てろ、沈めてしまえ」
久坂と高杉は祭りではしゃぐ子供の様に顔を見合わせて喜んだ。
彼らだけではない、一党はともかくこの一挙に加担した来島又兵衛ら長州武士達もこの一幕
には震え上がり、彼らの気炎は直ぐには納まらなかったのである。
「久坂、見ろ。あの船逃げ去っていきよるぞ?」
「むぅ・・・急げ!もう一撃できっと沈められる。逃がしちゃいけん!」
せっかく攻撃を加えあと一押しの敵船をここで逃してなるものか。
彼は大砲を管理する砲兵に向かって再び命をくだすのであった。
「久坂、高杉。もっと兵を上げて関門へ数台の大砲を移動させい。」
「え?」
「奴等は関門を潜って門司へ逃げようとするだろう。それをさせぬ為にも。」
「追いやって追いやって最後の関で叩くのですか?」
「然り」
二人の背後から意見を出してきたのは侍大将来島又兵衛。
彼は軍勢を率い縦横無尽に操る軍才の持ち主でありこういう機知に富んだ人物である。
久坂や高杉もそれをよく承知しているからこそ、敢えて反論なぞせずに彼の意見に素直に耳を
傾けられた。
こうして新たな指令を受けた一隊はすぐさま関門橋まで急行するのだった。