維新の礎(10)
馬関には外国商船がよく行き来している。
久坂は高杉らと共に江戸から戻ると休む間もなく馬関へと急いだ。
二人は朝方から下関日和山山頂へ上り、丁度座るに適した天然石に腰を下ろしていた。
「むぅ・・・やつらこの国を我が物顔に航行しおるのお・・・。舐めおって、早う一泡吹かせてやりたい
ものじゃ。」
久坂は行きかう外国船を、高い日和山から見下ろしてギリと唇を噛締めた。
「玄瑞、慌てるな慌てるな。武備整えてからあれらに長州志士の気勢を見せ付けてやりゃあいい。
焦らんともあれらは毎日毎日飽きもせず行き交うてくれおるわ。」
かか、と高杉は扇子をかざして同じく見下ろしている。
この関門海峡は小倉との境にあって都市間を航行する商船が多い。
彼等は度々此処へ出てくるが、最近になって特に外国船に出くわす様になり苦い思いを抱え込んで
耐えて来た。久坂が提案した攘夷戦は夷敵めと苛立つ過激な志士にとって待ってましたと言わんばかりの
情報であった。
「よし!やるぞ!晋作善は急げじゃ、早々に支度を整えてやつらに日本武士の誇りを見せ付けてくれようぞ」
「おうよ!あのお調子者の夷敵らを長州の大砲で追い立ててやろう!」
久坂がばっと立ち上がって拳を高らかに掲げ宣誓すると、高杉も楽しそうに彼を見上げた。
二人は顔を見合わせ、軽く頷き合うと連れ立って山を下った。
文久三年四月になって久坂は藩庁へ伺うと、江戸や京での一報を入れすかさず藩主へこう提案した。
「御殿にお願いの儀がございまする。」
「・・・ふむ。何か、言うてみい」
藩主敬親は肩肘を机に付いた姿勢でのんびりした口調で久坂の言葉に返した。
「は、帰藩したばかりではありますが御殿には是非に馬関での攘夷先行を許可頂きたく存じます」
「攘夷先行とな?」
「はい。攘夷攘夷と口先だけで唱えたのでは誰も心から付いては来ません。ここは我が長藩が
尊攘志士達の先駆けとなって攘夷戦に踏み切るべきかと・・・。」
「ふむ・・・。攘夷の先駆けか・・・・そなたの申すももっとも也。よかろう。やってみるがよい」
「はは!有難う存じます」
攘夷先行の許可を貰った久坂は、藩庁を後にすると喜び勇んで馬関で待つ高杉らの下へ急いだ。
「晋作、殿より許可が下った!やろう!」
「おう!目にモノを見せてくれん!」
久坂は自ら結成した光明寺党を率いて外国船との攘夷戦に挑むのであった。