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久坂玄瑞伝  作者: sigeha-ru
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維新の礎(9)






品川御殿山・・・・




夜も更け町並みもがらんと静まり返る頃。

久坂達は行動を開始する。

頭には黒頭巾を被り黒い装束で統一され忍びの風体で人目を忍んで歩く。



「良いか・・・落ち合う場所はあの妓楼でじゃぞ?」



「解っとる。任せとけ!」



「よ〜し、もう着くぞ!見とれよ夷敵共!!」



久坂、井上、高杉、伊藤等長州の同志達は揃いの装束を纏い、小声で指示と

気持ちを確かめあった。


ごくりと唾を飲み込むと、皆いっせいに手にする火種を屋敷の中へと勢い良く投げ

込んだ。



「それ!」



声を殺して退却を促すと、一斉に彼等は蜘蛛の子を散らすように一目散に山から

転げ降りる。


暫くすると、赤々と燃え盛る屋敷から英国人達がわらわら叫びながら逃げ出てくる。

後から来た幕吏の目を掻い潜りながら久坂達はそれでも目的の合流地目指して其々

が必死に駆けていった。



やっとの思いで妓楼へとたどり着いた久坂は辺りをキョロキョロと見渡す。



「おお、玄瑞。なかなか早かったのお。」



「久坂さん、やりましたね!」



背後から同じく逃げ延びた同志達が安堵の声を上げる・・・が、その中に一人足らぬ

を気付いた彼は蒼くなって傍に来ていた高杉に詰め寄る。



「晋作!・・・・井上は!?」



「は?・・・あれ?え・・・まさか!」



「井上さん・・・・!」



皆井上聞多がその場にいない事に大いに焦り、辺りを見回すがそこに彼の姿は

見当たらず虚しく風が吹き抜けていくのみであった。



「まさかアイツ捕まったんか?」



普段飄々としている高杉も流石に色を失いしきりに周囲へ不安の表情を向けている。

伊藤に至っては蒼くなって呆然と立ち尽くすのみ。


久坂はしまったと悔いた。

彼はきっと逃げ遅れたのであろう、今頃どんな報復を幕吏や夷敵に受けているかもしれん。

これはまずい・・・同志の危機を思うと居ても多っても居られなくなり再び今来た道を引き

返そうと踵を返すのだった。



「あら、皆さんどうなすったの?」



ふと、こんな夜遅くに彼等に声をかける者が居る。

振り返ってみると、井上が贔屓にしている芸妓が一人戸口に立ってこちらを不思議そうに

みているではないか。



「あ、ああ・・・実は呑みに繰り出して居ったが井上の奴がどうも逸れたようでな。」



「そうそう、それで探しとるんですよ。」



高杉と伊藤は詮索を入れられる前に咄嗟の判断でそう偽り文句を並べた。

そういうと、芸妓は何を思ってかカラカラと声を立てて笑い出した。



「うふふ、井上様でしたらいらっしゃいましたけど?」



「な、なんだって!?」



「ええ、それはもう汗だくで駆け込んで来られるから驚きましたけど・・・でも嬉しいわぁ

そんなに急いでいらっしゃるなんて。」



芸妓が嬉しそうに彼の元へ案内すると、其処には何事も無く出かける前と寸分変わらぬ

井上の姿があった。



「聞多!!お前なんでここに・・・!約束と違うじゃないか〜」



「井上さん驚かさないでくださいよ・・・」



「ああ、すまなかった。こっちの方が逃げ込むには楽だったしな、幕吏に見付りそう

になって已む無くコイツの所に逃げ込んだって訳じゃ。」



すっかり脱力する二人を前に井上は淡々と何でもないように言ってのけた。



ソレを見て、久坂はヤレヤレと胸を撫で下ろすのだった。





一夜明けてこの騒動は一種波紋を呼んだが、直ぐに幕府の対応策によって鎮静化

成された。



「なぁ、余りそれほどの反応はなかったのぉ。次は何か考えあるのかえ?」



ある日、知らせを聞いた高杉は不満気に呟いた。



「・・・こんなもんじゃろう。真向対決をしたわけではないしのお。」



久坂も流石に思う程の成果が上げられなかった事に満足出来ぬ様子。



「ふむ、となると・・・だ・・・やはり攘夷は戦の規模でやらねばならんか・・・」



久坂の呟きに肩肘ついてブツブツ文句を言っていた高杉はガバリと起き上がった。



「玄瑞・・・お主、もう次手を考えとるのか!?」



「うん、ここは一つ馬関に戻ろうと思う。



「馬関?もしかして外国船が通る海峡でドンパチやんのか?」



「勿論だ。長州藩として尊攘を提案するならまず自国が攘夷戦なるものを実践せねば


ならん。口先だけの思想に人は結局付いてはこんからのお。」



「へぇ、じゃあ日ノ本初の攘夷戦って訳か。面白い!」



高杉はここで漸く意図を解し面白そうに目を輝かせた。


実際久坂が次々と過激な法を用いる事に驚きを持たなかった訳ではないが、

兎も角彼の考えには一つでも共鳴する所があったから跳ね除ける理由もないのであった。










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