維新の礎(3)
「長井雅楽か・・・」
大楽は長藩執政の寵児と聞いて一人の名を口にした。
その通りだと言わんばかりに久坂も頷いている。
「その長井なのですが、源太さんはどの様に思われますか?」
「尊攘の志の今一番の障害であろうな・・・。」
ギリっと悔しそうに唇を噛締めて大楽は答えた。
「今はまだ攘夷論と延暦策、共に藩論として占める割合は5分程でしょうが、このまま行けば
尊攘論があの男の弁舌で覆されるも必死。」
「何か早急な手立てを考えねばならんか・・。」
二人で考えあぐねていると、閉めた襖の向うから掠れた声がする。
先程案内をしてくれたあのおタネ婆さんの声だ。
「失礼します。お茶お持ちしましたよ。」
「ああ、入ってくれ。」
スーッと襖を開けておタネ婆さんが盆に二つ湯飲みと茶菓子を持って入ってきた。
「あ、源・・・ご主人様。先程頂いた箱のお菓子出させていただきましたよ。」
にこりと皺だらけの顔を綻ばせて婆さんは言った。
「ああ、有難う。おタネ、菓子はまだ残っているだろう?部屋ででも食べなさい。」
「ほほ!有難う御座います。・・・では、久坂様ごゆるり・・・」
笑顔のままおタネ婆さんは来た時の様にゆっくりと退出していった。
「ふふふ・・・」
「?どうしたんだ久坂君。いきなり笑ったりして?」
「いやいや、おタネさんは源太さんの保護者みたいだなぁと思ってのぉ。」
「・・・久坂君・・・君ネェ・・・」
「いやいや、悪い悪い。冗談ですよ、しかし面白いお婆ちゃんだねぇ。」
「・・・・・・婆さんのひょうきんは今に始まったものではないよ。私も最初は面食らったりもしたがね。」
「源太さんらしいですね。」
そう言って、二人は「ははは」と久しぶりに軽快に声を立てて笑うのだった。
「あぁすっかり笑いこけてしまったなぁ。本題に戻らないと。」
「うむ、そうだな。で?話は脱線してしまったが・・・長井をこのまま放っておく訳には行くまい?」
長井の名を聞いて、それまで大きな声で笑っていた久坂も表情は一変、真剣なモノへと変わる。
「・・・はい。」
「ではどうする?・・・・・・討つのか?」
大楽は声を潜めて言い放つ。
その言葉に久坂は思わずゴクリと唾を飲み込んだ。
「源太さん・・・・僕は・・・・・どうしてもあの男が我等の志の障害となるのであれば・・・・殺ります。」
「・・・致し方ないが・・・あくまで最悪の場合だな。出来うる限り議論で勝ちたいものだがね。」
「ええ、政略を持って戦うが理想ではありますが、何か策を講じねば・・・。」
「ソレなのだが、私に一つ考えがあるが・・・」
そう言って、大楽は一枚の紙キレを懐から取り出した。
こんばんは。
ご覧頂き有難う御座います。
此の度、ちとバタバタしておりまして・・・
明日はお休みさせていただこうかと思います。
日曜再開まで、暫くお待ちくださいませ。