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久坂玄瑞伝  作者: sigeha-ru
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上洛論戦(15)







久坂はこの一夜を境に、活動を開始する。


薩摩や土佐の志士達と盛んに会合を重ね、その度辰路と出合った島原へと


頻繁に足を運ぶのだった。



部屋を貸しきれるこの遊里は密議には持ってこいの場所で、他藩の者達も


事ある毎にここを使い更なる交流を広めていく。


久坂はこの日、土佐の勤皇志士らと面会を果たし芸妓を囲んで対談していた。




「成る程、こちらが吉田松陰先生の辞世でありますか・・・。」



強い双眸を持つ丈夫が卓を挟んで向かいに座り手に先程渡した故人の書を取っている。


その書とは松陰の辞世の句であり、久坂も度々これを手にとっては読み直し決意を新たに


している。



「はい。武市殿にも是非ご覧頂きたく思いお持ちしたのです。」



久坂が畏まって言うと、武市半平太は書に目をやったまま口を開いた。



「・・・・そうですか・・・・・有難う御座います。いや、吉田先生の句は実に素晴らしい!」



「・・・・・。」



「我等志士は彼の人をよく見習って此れから進んでゆかねばなりませんな。」



「ええ、僕達も日々師のおっしゃられた事柄を思い起こしながら先を目指しております。」



「ああ、是非に私も微力ながら吉田先生や貴殿らの志に沿いたいものですな。」



そういって二人は改めて杯を交わした。



その後は、いよいよ本題である尊攘論へと入り、暫し二人の会話に耳傾けていた志士達も


我こそはと名乗り上げて熱く時勢を論じるのであった。








それ以降連日会合を重ねた久坂は、本当に何ヶ月か振りに単身島原の門を潜った。

辰路と出会ってから常に座へ呼び、すっかり馴染となった彼女は久坂が訪れると嬉しそう

に声を上げ彼を自室へと誘った。



「ホンマお一人で入らはるなんて久しぶりやわぁ・・・。」



幾分甘えた声で辰路は酌を勧めつつ久坂の傍へと身体を寄せる。



「ああ、ここで君と二人で話をするのも随分久方ぶりな気がするのぉ。」



「ホンに。すっかり忘れられたか思うて寂しかったどすえ。」



「スマンスマン。僕も成る丈時間取ろう思うたんじゃが、何分忙しゅうてなぁ。」



申し訳なさそうに頭を掻く久坂の仕草に辰路はクスリと小さく微笑んで笑みを洩らすと、

一層彼に縋る手に力を込めた。




「・・・・・久坂はんの奥様てどんなお方どす?」



ふいに出された質問に久坂は驚いて隣に座る芸妓を見た。

そんな彼の行動も知るかのように女は再び笑うのだった。



「・・・恩師の妹御でな、聡明だが静かな女じゃが。どうした?」



「いいぇ、少〜し気になっただけどすえ?」



辰路は悪戯っぽく言うと、久坂から顔を隠す様に彼の腕に顔を埋めてしまった。



辰路に言われ、ふと久坂は遠い地で待つお文の顔が脳裏に浮かんだが傍に座って

すっかり黙ってしまった彼女を見て苦笑いした。



「なんじゃ、何ぞ不貞腐れてしもうたか?」



少しからかう様な言葉をかけると、辰路はゆっくり顔をあげ恨めしげに久坂を見やった。



「久坂はんの意地悪。」



プクッと頬を膨らませながら絡めた腕をそのままに辰路はふぅっと息を吐くと彼を振り返った。



「辰路、君は本当に飽きん女子じゃな。見とって面白い、表情もよう変わるし」



クスクスと言う久坂に、辰路は思わず先程までの拗ねた表情を一変させポカンとした顔をする。



「は・・・・・?久坂はん??」



「いやいや、すまなかった。毎日君の面白い話や仕草を見とると世情の緊迫した空気から解放され

楽な気持ちになれるんじゃ・・・本当に助かっとるよ。」



ぼんやりとこちらを見る辰路に笑みを向けると、漸く理解できたのか彼女は嬉しそうに表情を一変させた。



「嬉し、久坂はん。うちも久坂はんが来てくれはるんが何より嬉おすえ・・・」



そういうと、辰路は久坂に一層縋りつき甘えた。

そんな妓の可愛らしい様に久坂は顔を綻ばせ、この美しい芸妓を思うままに抱き寄せるのであった。













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