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久坂玄瑞伝  作者: sigeha-ru
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上洛論戦(14)





艶やかな芸妓達が入室すると場の雰囲気は一変する。

手馴れた二人を見ていると、久坂は急に不思議と自分が小さい男に思えてきて居た堪れない

思いに駆られる。



「どうした久坂さん。そう固うならんこう大きゅう構えとりゃええですよ?」



伊藤が浅菊の肩を抱き笑った。

寺嶋を見ると、早くも自分の相方を選んだのか、芸妓に凭れる様な姿勢でうっとり杯を傾けている。

どうしたものかと思案している彼の腕に何かが絡み付いてくる。



「久坂はん・・・うちの事お嫌いどすか・・・?」



しっとりした高い美声が耳元から聞こえる。

ハッとして振り向くと、白粉に艶やかな紅をさした美しい芸妓が上目遣いに自分を見つめている。



「い、いや。嫌いではないが・・・、こう言う場所には縁がのうて・・・。」



しどろもどろに言うと、芸妓は拗ねた表情を一変させころころと鈴鳴りに小さく笑った。



「うふふ、久坂はんは思うた通り真面目な方なんどすなぁ・・・」



口元に手を軽く添え、妓は綺麗な仕草で言う。

都とは遠い長藩にあって、お文と慎ましく暮らしてきた頃とは全く違う色町の空気に眩暈を覚えつつ

それから逃れるように久坂は少しだけ目線を彼女から外した。



「あら、許しとくれやす・・・久坂はん。珍しいお客様どしたからつい・・・」



先程の笑い顔とは打って変わって芸妓は少し申し訳なさそうに久坂の顔を覗き込み許しを請う。



「いや・・・怒ってはないが・・・ああ、やはり駄目だなぁ・・。」



久坂は照れとも苦笑いとも取れる表情で芸妓へ再び視線を戻すとそう呟いた。

そんな彼の言葉に妓は一瞬驚いた表情を見せるも、直ぐ嬉しそうなそれに変わり久坂の腕に軽く

縋りついた。



「うち壇さん事気に入ったわぁ・・・色んなお話聞かせとくれやす。」



甘い声で縋ってくる芸妓の名は辰路といった。

源氏名であるが故、本名とは違うが久坂は表情をコロコロ変える面白い妓だと印象深く残るので

ある。


久坂は目の前にいる二人の同志と共に杯を傾けると、後は一時の散会となり伊藤も寺嶋もそれぞれに

相方を伴って散っていった。




「・・・・久坂はん。うちらも行きまひょ。」



辰路に甘く囁かれると、夢見心地に浸り自然彼女の言葉を当たり前の如く受け入れてしまう。



「・・・・そう・・・じゃな。少しだけ休ませて貰おうかな。」



そういって久坂もまた先に出て行った二人の同志と同じく相方となった辰路に寄り添って彼女の室へと

移っていった。






「・・・・ほな、久坂はんは今暫くはこちらへ?」



「ああ、京で活動する為に同志を探しに来ているんだ。つい先日もこの近くへは足を運んだのじゃが。」



「んもぅ!そやったら、うっとこ寄ってくれはっても・・・」



「すまんすまん。どうにも苦手でのぉ。今晩もあの二人に引っ張ってこられた位じゃからのぉ。」



申し訳なさそうに言うと、辰路は機嫌を直したのか再び酌を再開した。





この美しい芸妓とやがて深く関わりを持つなど、今の久坂は予想だにしなかったのである。



ただ今宵限りの事と信じて疑わぬ彼にとって辰路が妻に継いで安息の場となるのはまだまだ

先の事である・・・・。













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