上洛論戦(7)
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大楽源太郎邸。
久坂と聞いて大楽は喜び彼を客室へ通した。
静かな室内に茶を啜る音が響く。
「で、今日はどうかしたのかね?」
「はい、今日は源太さんにお願いがあって来ました。是非ご協力頂きたい事があるんです。」
「協力?・・・・まあ、取り合えず話したまえ、聞いて見ようじゃないか。」
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一燈銭申し合せ書きをパラっと目の前に広げていく。
一通りの事項が書き綴られており、その最後に署名が連なっている。
「久坂君・・・・・・此れは一体?」
瞬きも忘れて表情固くした大楽は小さい声で呟く。
「これから我々が攘夷へ向けて活動するに於いて、その資金調達が必須となってきます。
何れは藩からの支援も頂戴出来ればと考えておりますが、まずは自分達でと・・・・・。」
「・・・・・・成る程な。然し活動する塾生は兎も角何故私まで・・・。」
「一人かなりの枚数寫本する訳ですが、当然人には得手不得手があります。僕としては確実に
役割をこなしてくれる有志が必要なんです。源太さんは文才に秀で更に活動においても先輩
でしょう?そう考えるとどうしても外せなくて。」
申し訳なさそうに久坂は述べる。
大楽はそれでも少し渋っていた。今まで接点の浅かった松下村塾生らと果たしてどう協力していくのか。
松陰の思想に浸かりきった彼等と接する事に成功を感じえぬ所があるのも事実。さて、どうしたものか・・・・。
「源太さん?黙っていたら了解と取りますよ?」
俯いて考え込んでいると、人の良さ気な顔で久坂が顔を覗き込む。
「な!待て待て。考え中じゃ・・・!」
自分は滅多な事では動じない、感情は常に襞に隠して応対をする。
そんな冷静さを売りにしてきた自分が慌てた声を出すなどそう無い事だ。大楽は自分の有様に驚きを覚えつつも
必死で久坂の言葉を遮ろうとした。
「ねぇ源太さん、僕はここから出て何時かは幕府を・・・日ノ本を変えたい。その為には志を同じくする同志と、
それらが抱える才気を全て取り込みたいんですよ。松下村塾生だけでは成しえぬ事です・・・何れも。貴方をこうして説得
出来るかどうか・・・その小さな事一つにも日ノ本の命運がかかっていると言っても過言ではない・・・・・お願いします!」
先程までのお茶らけた空気は一変して真摯なものに変化する。
大楽は見つめた久坂の瞳の奥の真理に気付いてハッとした。
彼が背負う大きな存在とそれを遮ろうとする壁・・・・・・・・。
その板ばさみになっているのは目の前にいる年下の青年。
「・・・仕様が無いのぉ・・・。久坂君、少し待ってくれ。墨を磨って来る。」
そう言って静かに席を立つと、大楽は自室の書斎へと消えていった。
一人残された久坂は、後姿をただじっと見詰めていた・・・・・・。