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久坂玄瑞伝  作者: sigeha-ru
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上洛論戦(6)





防府宮市の国学者・岡本三右衛門を訪ねてから暫くして、元号は文久元年と改められた。


萩にて活動を模索していた久坂は、ふと一つの事を思い描いた。



(何を始めるにも活動資金は必須となる・・・。しかしどうやってそれらを徴収するか?

杉にも頼れぬし僕等で稼ぐしかないか・・・)



久坂は幾日か資金調達の法に試行錯誤し、結果自分達の学を生かしつつ貯蓄できる作業を見つけ出した。

写本をし、それらを売りえた金で行動の資金を賄おうというものである。

寫本は毎月六十枚ずつを持ち寄り1日に二枚最低売りさばけば何とか学の妨げともならず上手に稼ぐ事が

出来るではなかろうか?

久坂は才気ある同志達に、詳細を綴った手紙を出す事にした。


 一燈銭回覧文


此度、同社中申合せ自分々々の力を盡し骨を折りて、鎖細の事ながらも

相貯、置き度き事に候。非常の変、不意の急に差し掛かり候ても、懐中

拂底にては差閊ふるものに候。逐々有志人の牢獄につながれ亦は飢渇

に迫り候者も相助け度く、義士烈士の碑を建て墓を築き等までにも力を

盡し手を延し度き事に候へども、同社中、有余の金も有之まじき事に候へ

ば、何れ此方の至誠をのみ貫き度き事に候。されば、毎月寫本なりともし

て僅かの貯へ致し置き度く、月末松下村塾まで銘々持ち寄り致す可く候。

半年にもせよ一年にもせよ、塵も積もれば山となる理にてきっと他日の用に

相立ち、用途も有之べく相考へられ候。同社中身の膏を絞り出して集むる事

になれば、容易に費すべきにあらず、己むを得ざる事あれば、同社中申合

せの上にて取り捌き申すべく候。抑々人を救ふも、用に備ふるも、富貴長

者のことなれ ば、如何様にも相叶ふべけれど、我々にてかくまでにす

るは貧者の一燈とも申すべきことにて、至誠の貫かぬ理はよもあるまじき

也。之れに依り、此度取立て候金を一燈銭と名付くる也。


一、毎月寫本六十枚づつ村塾まで必ず持ち寄り致し置き度く候事。

一、寫本料は先師の定むる所眞字(漢字)十行二十字五文、片仮名同断

   四文の事。

一、一日僅に二枚づつの事なれば、さまで勉強にならぬ事はあるまじ。若し

 此の数不足なる時は一枚五文の辻(割合)を以って相償ひ、必ず持寄り

 度き事。

一、寫本紙、寫本取捌き等は逐々申し談じ合せ致すべく候へ共、當分の中

 は、寫本紙は銘々心配有之べく候事。


右條々、此度申合せ候所、これしきの事さへ骨を惜しみ候位にては、我々の

至誠相貫き候事も覚束なき事のやうに相考へられ候。銘々屹と怠らぬやう

致し度きことは申すも疎に候。


酉ノ十二月朔日     松下村塾同社中  

                                             』




久坂は中谷正亮・入江九一・吉田利麿ら松門の同志を中心に、回覧文書を見せていた。


勿論彼等は松陰の遺志を継がんと、勇み久坂の写本作りに賛同してくれた。

そんな中、久坂は松門の志士以外の面々にも声をかけていた。

文を娶り、杉へ移る前に済んでいた平安古。

懐かしい香り漂う町並みに再び久坂は足を踏み入れると、一件の家を訪ねる。この辺りは

土塀が高く外敵に供えられ、また作りも武家の町並みに匹敵する場所である。当然この付近にも

なかなか身分格高き人物が多く住まっており、侮れない所である。



「確かこの辺りじゃったか。ここは本当に懐かしいな。家族という者が居たころのまま・・・・っと、

感傷にひたっちょる場合じゃないな。そういえば近年越して来たと聞いたが。」



細い路地をウロウロと、長屋の古めかしさを目で追いながら歩いていると、後ろから聞き覚えある声が響く。



「・・・・・・・久坂君か?」



静かな空気の中に突如響き渡った声に、思わず久坂はビクリと体を震わせると、素早く後ろを振り返った。

其処には以前にあったままの大楽源太郎が居たのである。



「源太さん!すみません、訪ねようと思ってウロウロしていたのですが、何処へお住まいか聞き忘れて。

すっかり迷ってしまいましたよ。」



「ははは、ここを離れて随分なるからなぁ。それに以前と私も住居が異なっているし。仕様が無いね。」



互いに顔見合わせて苦笑いする。

久坂は、文才秀でた少しお堅い親友をなんとか誘えないものかと、大楽邸へ案内される間一人必死に考えるのだった。












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