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久坂玄瑞伝  作者: sigeha-ru
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上洛論戦(4)





翌朝、久坂は大楽や岡本らと連れ立って小高い丘を歩いていた。



「「桜を見に行こう。」」



誰が言い出したか、その一言から始まった今日の行程・・・・・。

桜花に対する武士の生き様、愛すべき国花に憧れを抱く久坂はその意見に是非にと賛同するのであった。




季節は丁度桜の咲き誇る美しい春・・・・・・・・・・。

新しい蕾を幾つもつけて、薄い紅色を遊ばせている穏やかさの中に清らかな空気が一面漂っている。

久坂はそんな清々しい空気を深く吸い込んで、空を仰ぐ。



(ああ、先生も今頃はあの上から見守ってくださっているのだろうな・・・)



空を眺めつつふと思い出される松陰の面影。

敬愛する人物を失ったのは久坂だけではない。大楽や中谷らも同じである。

振り返れば皆一様にそれぞれの懐かしくも悲しい思い出を回想している様だ。



「よしよし、皆こちらで酒でも飲みながら持参した物を拝見しようじゃないか。」



岡本は、皆を敷いた御座に呼び寄せる。

酒などを供えられた簡易の祭壇が小ぢんまりと佇んでおり、いよいよ追悼の意を込めた語らいが

始まるのである。




久坂らは吉田松陰の面影を偲ぶ遺影代わりとも取れる掛け軸を。

大楽は頼三樹三郎ら師から受けた書を広げた。

其々に実に思い出深く大事な遺品だった・・・。詩と酒に酔い、大いに盛り上がる小さな法事ともつかぬ席。


久坂はこの日の出来事を良く記憶するのであった。

やがて、一頻り宴席が空けてくると、いつの間にか席を外していた中谷が走ってこちらへ向かってくるのが見える。

その顔は驚きと、複雑な喜びに満ちていた。




『大老・井伊直弼が白昼江戸城桜田門で惨殺された!』



彼が持ち込んだ一報は、まさに志士にとっては朗報。

だが、久坂や大楽達はうれしさ半分、あとは弱りきった幕府・そして日ノ本の行く末を思って目を白黒させていた。



「井伊をやったのは恐らく水戸の志士じゃと言われとる。あれだけ多くの血を流した男じゃ。こればかりは自業自得よ。

先生方の敵討ちは果たされたわけじゃ。」



中谷は興奮した面持ちで得た情報を皆に知らせる。



「しかし、幕府の権力者が白昼堂々と・・・・・・すっかり幕府も衰えたという事か?」



顎に手をやって考え考え久坂は呟く。

それを隣で控えている大楽は相槌打ちながら、


「いや、井伊だけが幕府ではない。勢いはそう衰えまいが、取り合えず一つ大きな嵐が去った事には変わりない。

どちらにとっても井伊の政は良いものではなかったろうしな。」



それは、極めて冷静な言葉だった。

二百余年と泰平を維持してきた幕府、その大老が真昼間暗殺という話はまさに信じ難く、また国家の暗転を匂わせるものであった。













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