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久坂玄瑞伝  作者: sigeha-ru
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激動の風(8)





吉田松陰寅次郎・・・・・・彼の計画は遂に露見してしまう。

何時もの様に小さな仏間に小さな机と座布団を敷いて何時もの如く書に読みふけっていた彼は、

バタバタと外から近づいてくる騒がしい足音に気付くと何事かと気になって意識をそちらへと、集中する。



どうやら大勢のものと思しき足音と怒声は村塾から母屋玄関の前でピタと止み、続いて指揮官と

思える人物の声が鳴り響く。



「我等は藩命により参ったものである。家主何処に!」



家中に広がる怒声に、ガラガラと玄関の引く音が聞こえる。



「お迎え遅くになり申し訳御座いませぬ。」



驚きに掠れてはいるが、しっかりと応答する声・・・・松陰の母・滝であった。



「それで・・・この様なあばら家にお役人様が何ぞ御用でありましょうか?」



落ち着きを取り戻し凛とした口調で立つ母親。

その姿を眩しく見守った後、役人は文書を開き大きな声で言う。



「此度、吉田松陰寅次郎に不穏な気配有りとの情報が入ってな、直ちに捕えよとの通告を頂いたのだ。」



「・・・・・・そんな!」



気丈に振舞おうとする母親であったが、突然我子を捕縛と聞かされては動揺するなと言うのは些か無理な事である。

そんな彼女の事なぞお構い無しに役人は話を続ける。



「寅次郎は此処にいるのであろう?これは御殿の厳命である。如何なる事があっても此れを退ける事は許されぬ。

邪魔立てするものは同じく反逆の心有りとみて 子息共々引っ捕えるぞ!」



役人が怒声を放ち母親に詰め寄ろうとした次の瞬間、一度は閉ざされた玄関の戸がカラリと再び開いた。



「お話は聞かせていただきました。然しながら私は逃げも隠れも致しませぬ故、邪魔立てなぞ全く危惧するに

及びませぬぞ。命惜しくてこの様な覚悟は出来ませぬ。さて、それではお縄頂戴致しますかな。」



何時もと変わらぬ姿で、どこか笑みすら浮かべて松陰は姿を現した。



「それは良い覚悟だな。何、手荒にはせぬよ。寧ろその毅然とした態度、見上げたものだ。此度の事、御殿の苦渋の

命であること・・・・ご理解いただければ良いが・・。」



「存じております。さあ、何処へなりとお連れくださいませ。」



静かに佇み全く抵抗すら見せず連行されていく松陰を母は騒ぎに駆けつけた父親と共にただ悲しく見守る他無かった。

家屋の僅かに空いた戸から恐る恐る顔を覗かせているお文もまた、連れて行かれる最愛の兄の後ろ姿を瞼に焼付けるの

であった・・・・。





同じ時、入江九一は少しだけ抵抗の後を見せたが最後は師と同じく黙って藩命に従い捕縛される。

一方京都で大原卿との対談を終えた野村和作、彼は藩邸まであと僅かという所で戻るべき場所が騒然としているのに気付き、

手前の屋敷の壁へ背を付け様子を窺った。



「行け!野村和作は藩を潰すやも知れぬ危険因子である。吉田松陰の謀略を組む人物だ。藩命により如何なる事があっても捕えよ!」



此れを聞いた野村はサッと顔を蒼くした。



(何故だ・・・もしや先生の計画が藩に筒抜けに?このまま僕が反抗や逃走でもすればもしかしたら先生達にまで迷惑が・・・)



自分が裁きにかけられるのは痛くも無い。だが、兄弟や家族・・・何より大事な師がその罰を共に味わうのは捨て置けぬ事。

野村は暫く考え俯いていたが、やがて意を決したか藩邸へと自ら足を運んでいった。


要するに自首である。


此れにより藩は怪しいと思える入江兄弟・吉田松陰の捕縛に成功し、ホッと胸を撫で下ろした。



この知らせを江戸の久坂達が受け取り、妹婿として危ぶまれた彼に帰国令が下るのは数日程後のことである・・・・・。










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