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久坂玄瑞伝  作者: sigeha-ru
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巣立つ時(4)






高杉の変貌は目覚しかった。


僅かの間に、これだけ明確な意思を訴える事ができるとは・・・。

久坂はそんな盟友を見て、ふと少し前の事を思い出すのである。



二人の若者が互いに好敵手として認識し、競い合い時には喧嘩染みた論争を繰り広げる

のを、周りが仲裁に入ったりオロオロしたりする様を師たる人は何をするでもなくただ

教卓からじっと静かに見守っている。


その表情に曇りは無く、寧ろ晴れ晴れと我子の成長を見つめる親の様だった。



そういえば、出会った頃から目の前の男とは論争耐えなかった気がする。

思想というか、学問等等。とにかく様々な分野で負けじと意地になっていたと思う。

別に仲が悪いわけでも過去の因縁という訳でもない。


全くの初対面の筈で・・・・・・・・・・・・。

ここまで来て久坂は、ああそうか。これが目的だったのかと気付きはっとするのである。




松陰が何故怒る事も無く、ただ見守っていたのか・・・

やっと解った気がする。自分達は試されていたのかもしれない。

それぞれを褒めておいて、そして相手を言葉巧みに刺激し競争意欲を掻き立てる。

互いを強く意識するように。


つまり、松陰は両者の才を早くから見抜き、高杉久坂両人の学問向上意欲を上げる為に、

ワザと高杉の前では久坂を持ち上げ久坂の前では高杉を高く評価することで、嫉妬に似た

ライバル心を煽ろうとしていたのだろう。見事松陰の思惑通り、久坂高杉両者ともに競い

合って学問に励み今正に双璧と成り得る質を開花させるのであった。



(こりゃ先生にしてやられた訳か・・・。全く人の悪い事を・・・。それにしても、晋作が

知ったらこいつは暴れるじゃろうな・・・。)



笑ったり苦い表情を作ったり、コロコロ表情を変化させうんうん一人納得する久坂を訝りながら

見つめる高杉がいた。



「なあ玄瑞。何一人で芝居の役者みたいな事しとるんじゃ?もしかして寝すぎておかしゅう

なったんか?」



と、一言多いが一応心配の言葉を投げかける。


「な、おかしいとは失敬な。僕はたった今ある重要な事の種を明かしたんじゃが・・・・・・、

君には教えちゃらん。」



フンと歩きながら視線を他へ向ける久坂。

それに、少し焦ったのか高杉は、大慌てで久坂の前に回りこむ。



「なんじゃ。ちょっと待て、重要な事の種明かしってなんじゃ?!」



「いいや、君には一生解らんじゃろうからええ。というか解らん方が幸せかもしれんな。」


ふふんと軽く言葉であしらうと、久坂は歩幅を広げ唖然と立ち尽くす高杉を尻目にどんどん

松本村へ歩き去っていくのであった。


やがて、ハッと我に返った高杉は大急ぎで後を追い、共に松本村の松下村塾へとたどり着いた。






松下村塾へは久しぶりの訪問になる。


久坂とて毎日通える訳ではない。無論他の塾生とて同様だが、皆それぞれに家督を継いだり、

家業に勤しんだり。大変な生活の合間を縫ってこの塾へやっとこさ足を運んできているのだ。


貴重な自由時間を割いて来るだけの価値がこの場所にはあるとも取れる。

兎も角久坂高杉は久方ぶりにこの門を叩くのである。



「御免ください。」



「は〜い。・・・あら、久坂さん高杉さん。お久しぶりです。お変わりなくて何よりですわ。

まあま、お上がりになって。」



出迎えたのは末妹・文である。

そういえば、この少女とも久しぶりの対面であるが・・・。

相変わらず家事をせっせとこなしているらしく、走ってきたのか少しばかり息遣い荒くなっている。




「おお、お文さん。久しぶりじゃ、先生はご在宅じゃな。」



高杉が気さくに話しかけると、文は楽しそうに頷き答える。



「はい。お二人がお見えになるのを首を長くして待っていますよ。」



「では、お会いできるんですね。」


文の言葉に続いて、久坂が問う。



「ええ、今日は塾の講堂へ居るみたいです。もしかして来訪されるのを承知で待っているんでしょうか??

兎も角お通りになって。直ぐお茶をお持ちしますから。」



そういって、二人を中へ促すと文は母屋台番所へと去っていくのであった。








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