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久坂玄瑞伝  作者: sigeha-ru
21/92

巣立つ時(1)


〜 巣立つ時 〜




塾の講堂を築いて早くも半年が過ぎようとしていた。

本当ならば毎日通い、討論したいのだが藩医久坂家督を継いだ立場上そう頻繁に松本を

訪れる事は出来なくなっていた。

これが、泰平の世ならば家督存続は何にも代え難いものである。しかしながら、今諸外国

との論争により国は慌しく動いている。この今までの平穏がもしかしたら永久に失われる

やも知れぬ危急存亡のときなのである。

目まぐるしく変わる時代の流れに、ただ身を任せるだけでは居られない、自分に何か

出来る事はないのか。久坂は家督という小さな枠組みに囚われる自分が情けなくて仕様が

無かった。


藩医として蘭学や医術等の学問を修めるべく日々好生館に通いながらも彼は悶々と自身の

境遇を愁いていた。


(自分も何か国の為できることはないのだろうか・・・。今のまま自分の立場を取り

お家を守るだけで果たしてよいものか・・・)



考えれば考えるほど溜息が出てくる。次第にそれは大きくなり目の前が暗くなってくる。

最近は医業の取得に手間取って塾へも久しく通っていない。

近隣の大楽源太郎との交流も、好生館寮に入ってここ数日途絶えている。

好生館の学生達とは特に時勢を論じる事も無く、掻い摘んで噂程度に情報の語らいを

する程度。当然これで焦燥に駆られている

久坂が満足するわけ無く、悶々とする毎日を送っていた。


暫く医学に勤しんだ久坂は、ようやく好生館の講義から開放されまず平安古の町を

練り歩いた。近くに住み、幼少からの親友・大楽の元を訪れる事にした。この友人

宅を訪れるのは久しぶりである。

門を叩き呼ぶと、木戸が開き家人と思しき老婆が姿を見せる。久坂を一目見ると、


「お久しぶりです。久坂殿、源太郎様は奥に居られますよ。さ、さ、客間でお待ちに

なってくださいな。お伝えしてまいりますから・・・。」


といって、襖を静かに閉め部屋を出て行った。久坂は足音の遠ざかるを暫し聞いていたが、

やがてその音も聞こえなくなると視線を天井へ移しふうっと一つ溜息をついた。これは

好生館での愁いを帯びたものとは少し違い、久しぶりに論じる事が出来る、一番の

空間に入り込めた喜びと緊張から来るものであった。


暫く待っていると、トタトタと規則的な足音が廊下から響き、客間の前でパタと止まり、

スッと静かに襖が開く。その襖の向こうより部屋へ入ってきたのは、先程家人の老婆が

呼びに言った大楽源太郎その人であった。


「あ、源太さん。お久しぶりです。」


久坂は心から親しみこめて挨拶を交わす。一方の大楽も、実に優しい笑みを浮かべ、


「やあ、久坂君。随分久しぶりじゃ。この所好生館に雪隠詰めだったそうじゃないか。

はは、君にはあそこは物足りんじゃろう。」


と、言って可笑しそうに笑った。サラリと襞に隠してあった感情を読み取られ久坂はグッと

言葉に詰まる。だが、長い付き合いのある大楽には隠し事をしても無駄だなと観念した

彼はポツリポツリと自身の境遇の事を話し始めた。




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