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久坂玄瑞伝  作者: sigeha-ru
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松下村塾(9)



杉家の狭い家屋での講義には様々な階級の若者達が集まって日々議論を重ねていた。

松陰は身分にとらわれる事なく学問を学びたいものなら誰でも講義を受けられるよう

広く門人を受け入れた。本来なら顔を合わす事すらない武家上士と足軽たちがここでは

対等に扱われ、同じ高さで話しをすることが許されていた。講義に来る者たちは松

陰の姿勢に感服し、塾内での階級的問題は一切起こらなかったのである。今日の講義は

久坂玄瑞を始め高杉晋作・吉田栄太郎ら後に四天王と呼ばれる大物もこぞって参加して

おり、何時もよりも弁舌大いに盛り上がった。



松陰の教育は、個々の能力や性質に応じた丁寧なもので中には師対しあからさまな反撥

をするものもあったが、彼の辛抱強い教育指導によって改心し、真面目に学問に打ち

込む様になった生徒もいた。また、そんな松陰を支える杉家の人々にも門人達は大いに

敬服し、一層期待に応えようと才の向上に励むのであった。

そんな松陰に感化されつつある久坂・高杉両人。

自分達の才を引き出す為に互いに好敵手としての認識を持たされた二人は、松陰の思惑

通り文武に競い合いそれぞれの才能を早くも開花させていった。そんな高杉に松陰が

また一つ持ちかける。


「高杉君、以前見せていただいた詩作・・・久坂君には見せてみたかね?彼は詩歌には

優れているから是非彼の評も叩いてみるといいでしょう。」


「・・・・・・はぁ。」


敬服する師にそう言われて力なく返事を返す高杉であったが、その決して心中はおだやか

ではなかった。

久坂とのわだかまりは氷解したものの、それはあくまで同志としての関係なわけで、学問

に関してのものではない。学においてはやはり彼は好敵手でしかないのである。

一方の久坂も同様に、同志としての親しみは持てても学問に至ってはあくまで競う相手

としか見れず、松陰が高杉の才を評価するのを何ともいえぬ気持ちで見守るのであった。

中谷正亮や入江九一などは松陰の互いを競わせて向上させるという教育方針を早くから

見抜いていたが、敢て知らぬ振りをし、彼等の学力・思想の向上を見守るのであった。


こうして、若者たちの講義に取り組む中、門人は次々増え狭い杉家では部屋が足らなく

なっていった。

ある時、久坂は一つ提案する。



「これだけ門人が増えた事は真良い事です。しかしながら、これだけの人数が母屋に集っては、杉の方々にもご迷惑になろう。」



「確かにその通りじゃが、でもここ以外に集まる場所なぞあるか?」



高杉がすかさず返す。



「以前にも考えた事なんじゃが、この隣の空地に材木を集めてきて講堂を建ててはどうかな?大きなものは無理じゃろうが、何もないよりはマシじゃろ。」



杉家の隣に講義堂をという久坂の案に、最初は出来るのだろうかと不安がっていた門人達だったが、一人が賛成を唱えると一人、また一人と賛同者は増えていった。


こうして、いよいよ村塾という独立した学問所が誕生していくのである。




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