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久坂玄瑞伝  作者: sigeha-ru
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松下村塾(7)



先ほどの高杉の態度が妙に気になる。

何か、敵対すると言うかまるで良い好敵手を見つけたと言わんばかりの表情であった。松陰の言うとおり、確かに殺気立っては居たものの、恨み

などの負の感情は感じ得なかったし、自信も全くその様なことに覚えがない。

とりあえず怨嗟ではない。・・・だとしたら何なのだろう?高杉家は上士であるから、医者坊主と肩並べて学を励むのが気に入らなかったのだろうか?でも

それなら昔、幼いとはいえ共に学んだ事もあったし、階級のいざこざがあるならばその頃に事が起こってもおかしくない。何故”今”なのか・・・。

そして、その謎に対しての師の表情が更に謎を深める原因となっていた。


(松陰先生は何か僕等に隠し事をしているのか?)


彼の思考を読み取ったかのように、松陰は、


「久坂君、高杉君は識人です。君と同じく学を磨けば光る優秀なる人材です。今は原石の状態にありますが・・・、貴方も負けていられません

よ。これから彼もこちらへ講義にくる事になりましたから、君も頑張りなさい。」


久坂は、嬉しそうに高杉の識才を称賛する師を見て少しばかりむっとした。


「成る程、それはこちらも負けぬようよく精進致さねばなりませぬな。」


そう言いながらも、僅かに怒気を含んだ久坂の声に可笑しくなったが、結局最後まで松陰は種明かしをせず、談合を終えるとそのまま彼を見送った。



久坂は家に着くと、袴を脱ぎ刀を立てかけて、さっさと書斎に入っていった。

どうやら、高杉との好敵手争いに見事火が付いた様である。

文書を読み漁り、詩作に耽るのだが、何時もと違って穏やかなものではない。

高杉晋作には負けじと少し躍起になっているようだ。

・・・この学の虫と化した彼をある日近隣に住む大楽が訪れてくる。



「大・・・源太さん、お久しぶりです。まぁ、お上がりください。」



二人の親交は日々重なり、今では大楽さんから「源太さん」へ親しく呼称も変化している。

奥へ招かれそこで大楽が目にしたのは、山積みになった文献・詩作書物であった。机には久坂らしい強くやや荒い文字で綴られた詩歌が何枚か

書かれてそのままになっていた。


「久坂君、随分派手にやっとるねぇ。」


「ええ、どうにも詩作が上手くいかず・・・。」


「ふぅむ、詩作がなぁ・・・。そりゃ詩人としちゃ大事だな。」


大楽は一見穏やかな何時もの久坂の口調の内に僅かな怒りが含まれて居る事を目ざとく察していた。



「本当に、どうしたものかと。思いあぐねておりますが、しかし僕は負けるわけにはいかぬのです。」


「負ける??」


誰に?とは敢て加えずに、久坂自身が話すのを待ち促す。


「今日、高杉晋作なる御仁に初対面しました。その時に松陰先生が、彼の識才を大いに称賛され、そこまでは良いのですが・・・・・・。兎も角、僕はその高杉と

どちらが勝るものか正しく競わねばならんのです。」


「それで、これだけの書物を・・・。ふむ、吉田殿がなぁ。」


大楽源太郎は、久坂と親しく交わり相互いに気安く接する程の仲になっているが、この大楽という人物。松陰が江戸で萩で活動し、名を広めたに対し誰よりも

いち早く志士としての思想・活動を開始し、久坂たちが活動するより先に京へ上り多くの人物と接触対談するなど、攘夷運動に至っては彼等の先駆者ともいう

べきである。だから、久坂も大いに敬意をもってまた、詩歌にも優れた大楽を親しく兄の様に思うのである。


「然り。僕は身分なぞでは到底叶いませぬが、せめて詩作の才だけでもと・・・・。」


「ほう、先方の作は見たことは無いが、君をそれ程創作意欲掻き立てさせるものがあるとは・・・一度拝見してみたいものだな。」


「源太さん・・・!」


久坂は、好敵手と定めた高杉を評した親友を恨めしげに見つめた。

大楽の方はただ、そんな彼を面白そうに苦笑いしながら無言で交すのであった。

この日から久坂・高杉の好敵手としての日々が始まる・・・・・・。



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