勝手に改編昔話~猿蟹合戦編~
秋晴れ某日、柿の木が群がるその中でも一際大きな柿の木の前での事でした。
「これは俺の柿の木だぞっ!」
猿は大きな柿の木を指差して言いました。
「これは私の柿の木よっ!」
蟹も大きな柿の木を指差して言いました。
「俺のだってば!」
「私のよ!」
「俺の!」
「私の!」
猿と蟹は睨み合っています。その様子を同族達がまたかよ、と呆れています。
「お前ら、いい加減にしろよ」
取り巻きのうちの誰かが言いました。
「この柿の木達は猿と蟹が共同で育てた木だぞ。どちらのものでもあって、どちらのものでもない。だから互いに平等に分け合うって取り決めがあるだろう? それを個人の所有物と言うなよ」
「「黙れこの知ったか野郎がっ!」」
猿と蟹は揃って物言いをしてきた輩のスタマックにブローを叩き込みました。叩き込まれた輩は腹を押さえて涙目になっています。せめてもの救いは蟹のハサミで切り裂かれたり貫かれなかった事でしょう。
「「それは分かってる。でも、これは(俺・私)が苗植えの時から端正込めて育てた柿の木! 他の柿の木よりも愛情を注いで育てたんだから、これは(俺・私)の柿の木も同然っ!」」
綺麗にハモって蹲る輩を見下して言い放ちました。猿と蟹の目には理性の箍が外れてしまっているように見えます。
「だから俺のだって言ってんだろ!」
「私のだって言ってるじゃない!」
再び死線……もとい視線が激突して火花が散ります。その火花が実体化したらここら一帯は焼け野原と化してしまう程に苛烈で熾烈で強烈でした。
「だったら、これの所有権を廻って勝負するか!?」
「ええ、挑むところよ!」
「負けても知らないからな!」
「こっちこそ、あんたが負けてべそかいても知らないから!」
「んだとっ!?」
「何よっ!?」
こうして、猿と蟹による柿の木を廻る戦いが始まりました。
そして同族達は皆思いました。
(((もう、好きにしてくれ)))
この猿と蟹を宥める事を諦めました。
勝負の内容は簡単なものです。相手に「参った」と言わせれば勝ち。方法は問わないというある意味一番収集がつかなくなる勝負です。
因みに、この勝負は一対一のガチンコで両サイドは挑むようです。別に他者の協力を得る事もアドバイスを聞く事もルール上はありなのですが、猿と蟹はあくまで自分自身の知力・体力・時の運だけを武器にして戦うようにしています。
意見交換なぞせずに、個別に同様の考えをしているので本来は気が合うのかもしれませんが、今回の成り行きは猿と蟹のほぼ同じ性質が原因です。なので最低でもこの勝負が終わるまでは猿と蟹の仲直り……と言うよりも互いに歩み寄る事はないでしょう。全く、困ったものです。
「「うっさいナレーター」」
見事にハモりますねお二方は。
それで、方法は問わないという事ですけど、お二方はどうやって相手に参ったと言わせようとしてるんですか? 殴り合いですか? それとも武器を取り合っての決闘ですか? 対戦カードを使って魂をかけた闇のデュエル?
「「そんな事はしない」」
しないんですか。ではどういう勝負なんですか?
「「くじ引きで決める」」
……方法を問わないってそういう意味ですか。そしてその中には相手を傷付けたり命を奪ったりする内容のものは無い、と。
「「その通り」」
よかったですよ。お二方に倫理やら良心やらがあって。
「あくまで所有者を決める為の勝負なんだぞ。自分が相手に傷付けたりするのは意味の無い事だ」
「そうそう」
そんな考えを皆がすれば平和なんですがねぇ〜。と言っても仕方が無いのでちゃちゃっと初めて下さい。因みに誰がくじ引くんですか?
「俺」
まぁ、手の形からして猿さんが妥当だと思いますが、蟹さんはそれでいいんですか?
「ええ。その代わりに私がくじを混ぜるから」
成程。互いに不利益のないようにしている訳ですか。
「ほら、さっさと引きなさい」
蟹がくじ引きの箱の中身をわっしゃわっしゃと混ぜ、それを猿に渡します。
「はいよっ」
猿は勢いよくくじを一つ引き、天高く掲げました。因みにくじの形状はボール形です。
「「内容は?」」
猿と蟹は揃ってボールに書かれた勝負内容を確認します。
ボールには『栗避け』と書かれていました。
って栗避けって何ですか?
「「火をくべた囲炉裏に大量の栗を投入して爆ぜた栗を避けるだけの勝負」」
なんか地味ですね。
「地味じゃねぇよ。飛んでくる栗を舐めんな。あれ凄まじい速度で襲いかかってくるんだぞ」
「それに熱せられてるから当たったら火傷しちゃうのよ。死ぬ気で避けなきゃ痕が残るわ」
そりゃそうですけど、決着はどうつけるんですか? 避けた数が多い方が勝ちとか?
「いや、そんなんじゃない」
じゃあ何ですか?
「どちらかが音を上げるまで」
正にサドンデス。
「よし蟹。お前は誰もいない小屋を確保して囲炉裏に火をくべろ。俺はそこらの山で栗を拾いまくってくるから」
「分かったわ」
そう言って猿は山へ栗拾いに、蟹は里にいって空き家を探しました。なんだかんだで息がぴったりだったりします。
〜二時間後〜
「準備はいいか?」
「何時でもOKよ」
猿が囲炉裏の中に栗を沢山投下しました。
蟹が確保した小屋は里から少し歩いた先にある山の中腹辺りにぽつねんと一つだけ寂しく建っていた廃屋でした。回りには木しかありませんし、猿と蟹の同族達が住んでいる里からもそれなりに離れているので、どんなに騒いでも栗が爆ぜ散らかされようと迷惑を掛けるような事にはなりません。
「……そろそろか?」
「……そろそろね」
猿と蟹は囲炉裏を挟んで対峙し、栗の様子を伺っていました。囲炉裏全体に散らばっている栗全てに注意を向け、何時爆ぜても対応出来るように身構えています。
一つの栗が震えました。そして勢いよく飛んでいきます。
それを合図に、他の栗が次々と弾けていきます。
「よっ」
猿は襲いかかってくる栗を見極め、最小限の動きで避けていきます。
「はっ」
対する蟹は二つのハサミを駆使して迫りくる栗の猛攻を防いでいます。
……あれ? 蟹さんは栗を避けてませんけどルール的に大丈夫なんですか?
「「問題無し」」
無いんですか。
「避けるとはあるけど防いでもOK。だってそうしないと蟹にとって不公平な勝負になるだろ?」
と言うと?
「私は横にしか移動出来ないし跳び跳ねる事も出来ないから避けた数よりも当たる数の方が断然多くなってしまうの。だから私の場合は避けるんじゃなくて防ぐの。防ぐってルールにすると今度は猿に不公平な勝負になるから」
「蟹は殻が硬いからいいけど、俺はそんな防御力持ってないからな。だからそれぞれで栗の攻撃に対抗しやすい方法で勝負してんだよ」
成程。栗を避けながら防ぎながらの説明ありがとうございました。
そうしている内にも時間は刻々と過ぎていきます。
その間にも猿は栗を避けていきます。マトリックス並みにアクロバティックかつエキサイティングな身のこなしで栗の弾丸を避けます。
蟹は強固なハサミで栗を防いでいます。敵兵の弓矢なぞものともしないストロングなシェルで装甲されたハサミで防ぎます。
ここまでの私個人としての意見を言いましょう。代わり映えのない動作なので見飽きました。正直勝負としても地味ですし。
「「地味で上等。他人には分からないものがここにあるから」」
さいですか。流石は性格ほぼ同じなお二方。私にはちっとも分かりませんけどね。恐らく読んで下さっている方の99%も私と同意見だと思いますけど。
……にしてもどのくらいの量があるんですか? もう五百は飛び散りましたが、見た目から始めた時と比べても一向に減っていないのですが。
「一万個と二千個」
猿さん、あなた別に栗を愛してませんよね?
「ああ。栗は好きだけど食い物としての好きだから愛してはないな」
じゃあどうしてこんなに大量に用意したんですか? 好きなだけなら八千個でもいいじゃないですか。いやそれでも多いですけれど。
「多ければ多い程白熱するかな、と」
あなた馬鹿ですか?
「一億と二千個にしなかっただけマシだろ」
それもそうですけど。
「そんな事よりも、そろそろフィーバータイムに入るぞ」
フィーバータイム? 相手に沢山透明な●゜よを押し付ける事が出来るあの連鎖全消しの祭りですか?
「違ぇよ。要はあれだ。大暴発」
……最悪の響きですね。つまりは残った栗が同時に弾け飛ぶ、と。
「そゆ事」
分かりました。悪い事は言いませんから猿さんと蟹さん、早く小屋から脱出して下さい。
「「嫌」」
いや、嫌じゃなくてですね。私はあなた方の身体と命を心配して言ってるんですよ? 親切心からですよ? このままだと残り一万千五百の栗の弾丸に為すすべ無く撃ち抜かれますよ? だから逃げて下さい。
「「だが断る」」
馬鹿だこいつら! あっ、なんかもう栗が全部動き出した!?
「「よっしゃ(来い・来なさい)っ!」」
だから来いじゃなくてですねっ!?
ばっか〜〜〜〜……ん!
栗は全弾発射されました。フルバーストです。爆ぜた栗は半球状に広がり、天井や壁、柱にアタックしていきます。しかも木の板なぞものともせずに次々と貫通していきます。屋根と壁は穴だらけ、柱にはヒビが走ります。
そして当然と言えば当然の結果が起こりました。
家屋倒壊。ヒビ割れた柱は自重を支えきれずに崩れ去り、それに伴って壁は倒れ、天井は落ちていきました。
あ〜〜ぁ……。猿さんと蟹さんは瓦礫の中に埋もれてしまいましたか。
っていうか、今回はこれでお終いですか? 私は前回の兎が投げつけた●゛ム兵を辛くも回避した作者にこの話の流れを教えられていないので分からないんですが、本当に終了なのでしょうか?
そんな心配をしていると、瓦礫がもぞもぞと蠢きました。
「「あぁ〜〜、死ぬかと思った」」
瓦礫の山の中から猿と蟹が這い出てきました。あ、無事だったんですか。
「あぁ、流石にあれら全部は避けるの不可能と悟ってな」
「私も全てを防ぎきるのは無理だと判断して」
「「床板壊して栗の射程範囲外でうずくまってた」」
何の打ち合わせも無しに同じ行動をした訳ですか。本当にお二方は性格似てますね。
「それにしても、もう『栗避け』の勝負は出来ないな」
猿は目下に広がる木材の成れの果てを眺めながら呟きました。
「そうね。それに他に空き家は無いし」
蟹も同様に呟きました。
「栗も無いしな」
「どうする?」
「う〜〜ん……」
猿は腕を組んで考えます。
「くじ引き直すか」
「そうね」
こうして二回戦の幕が上げられました。
さて、二回戦の内容はというと。お二方の格好でお察し下さい。
猿と蟹は白い防護服に身を包み、吸引力の変わらない掃除機に似たような機械を肩に提げています。
そう、雀蜂退治です。決着は女王蜂を仕留めた方の勝ち、だそうです。
「よし」
「行きますか」
猿と蟹は気合いを入れて雀蜂の巣へと赴きます。巣の位置は先程餌を探していた一匹の雀蜂の腹に糸をくくりつけて後を追って把握しています。近くには池があり、いざとなれば池にダイブすれば雀蜂から逃れる事が出来ます。
ていうか、最早本業の方の見よう見真似ですけど、結構本格的な格好ですね。
「そりゃアナフィラキシーショック起こしたくないからな」
「ねぇ」
おや? お二方は一度雀蜂に刺された事があるんですか?
「「さっき糸つける時」」
は?
「いやぁ、まさかこの防護服を貫通してくるとは思わなかったな〜」
そんな装備で大丈夫なんですか? 防護の意味無いじゃないですか。
「ちょっと体温あがって刺された所がじくじくして視界ぼやけて身体ふらふらしてるけど、なんとか行けるわ」
確実に大丈夫じゃないですよね。もう病院行った方がいいですよ。
「「それは嫌」」
何故?
「「一度始めた事は途中で投げ出したくないから」」
それはとても素晴らしい考えですが、何事も自分の健康が第一ですよ。今日は中止して、また日を改めて勝負を再開して下さい。
「「却下。さぁ突入っ!」」
この馬鹿二人は何考えてんですかっ!?
顔色の悪い猿と更に赤みがかった蟹はふらふらと猛毒と戦いながら雀蜂の巣へと突入していきます。
巣に近付くと外敵を感知した雀蜂の尖兵が群れをなして襲いかかっていきます。
猿と蟹は肩に提げた掃除機のようなもののスイッチをオンにし、吸引を始めます。雀蜂は為すすべ無く吸い込まれて行きます。
しかし、何事にも容量の限界というものが存在します。
十分も経たない内に吸いきれなくなり、掃除機のようなものの中には雀蜂がぎゅうぎゅうに押し積められる程に大量に確保されています。
これ以上吸い込むと壊れると悟った猿と蟹は掃除機のようなものの口を縛って近くにある池に沈めます。
「おらぁ!」
猿は近くに落ちている石を次々と投げて雀蜂を撃ち落としていきます。
「はぁあ!」
対する蟹は自身の射程に入った雀蜂を一撃必殺のハサミギロチンのもとに葬り去っていきます。
なんかお二方はアクティブに動いていますが、そんなに動くと毒の進行が早まりますよ?
「「知った事かっ!」」
いや、知っとけ馬鹿共。動けなくなって毒針の集中砲火食らって死ぬぞ?
「「……それは、嫌だ」」
だったらあんまり激しく動くなっての。ったく。
……え〜〜、失礼。こほん。
さて、猿と蟹は攻撃の手を緩めます。緩めたとしても、雀蜂の数は大幅に減っているので攻撃の隙間を縫って襲いかかってくる事はありません。
三十分かけて、雀蜂の尖兵を殲滅し終えました。殲滅終了と同時に猿と蟹は倒れ伏してしまいます。毒に侵された身体を無理に動かしていたので、体力を使い果たしてしまったのです。
「「も、もう駄目……」」
そりゃ猛毒受けた状態であんなに動いたらそうなりますよ。二人共動けないようですし、女王蜂は倒してませんからこの勝負はドローという事にして、早く病院行って治療して貰い、一週間くらいは安静にして下さい。
「「わ、分かった」」
分かればよろしい。
猿と蟹は身動ぎ一つせずに体力の回復に集中します。
と、その時雀蜂の巣から一匹の蜂が出てきました。
身の丈は一メートルを越え、人間の指二本分もの太さを誇る毒針、また黄色と黒の縞模様の蜂の曲がった腹部分には鋸のように鋭利な刃がずらりと並んでいます。あと特徴としては小さめの頭部には昆虫のくせに複眼ではなく、愛嬌のあるきょろっとした単眼がつけられています。
って、これ明らかに●゛ンガーじゃないですか。●゛ンキーコングが踏んづけても倒せない厄介な敵キャラクターじゃないですか。
「「そうだね」」
そうだねって、お二方は納得出来るんですか? こんな邪魔キャラが出てきても?
「「前回は●リオカート的なのやってたからこれくらいはどうって事無い」」
そうですか。そして話の流れからして、あの●゛ンガーが女王蜂の設定のようですね。
「「よし、倒そう」」
身動ぎ出来ないのに?
「「……そうだった」」
だから、今回は諦めなさいって。
と、女王蜂は猿と蟹を一瞥すると、羽をはばたかせて飛翔し、北へと飛び立ちました。
「え?」
「ナレーター、今何て言った?」
どうしたんですか? 血相変えて●゛ンガーが飛んで行った方角を見て。
「「いいから答え(ろ・て)っ!」」
き、北へと飛び立ちました、と言いましたが?
「「北……」」
猿と蟹は体力が回復しきっていない状態で、無理矢理立ち上がりました。
ど、どうしたんですか一体?
「「嫌な予感がする」」
嫌な予感?
その後は無言になり、猿と蟹は身体を引き摺って蜂が飛んで行った方向へと向かいました。
「「やっぱり」」
猿と蟹は異口同音で溜め息を吐きました。原因は目の前の光景にあります。
猿と蟹が所有権を巡って勝負をしていた巨大な柿の木に女王蜂が居座り、熟した柿の実を貪っています。しかも結構なハイスピードで貪っています。
雀蜂って、いや、この場合は●゛ンガーですか。柿の実を食べるんですね。あ、なんかもう五十個はいきましたね。
「「ぶち殺す」」
物騒な事呟きますね。
「「あれは(俺・私)の柿の木なんだ(ぞ・よ)! 蜂なんぞに食われてたまるかっ!」」
で、そんな蜂をどうやって退治するんですか? 殺虫剤でも撒きますか? でもそうすると柿の実にもついてしまいますけど。
あ、樽を投げてぶつけるのはどうでしょう。●゛ンキーコングも樽で倒してますし。
「「誰がそんな生っちょろい方法使うか」」
生っちょろいですか。そう言うのでしたら案がある訳ですね。具体的にはどういった内容なのでしょうか?
「「石臼で擂り身にして伊達巻に混ぜ込んでやる」」
そんな海老の擂り身を加えて旨味を増やす工夫みたいな事はやめて下さい。想像してしまったじゃないですか。明らかな下手物は食べたくありません。というか、漸く出てきた臼はこう使われる運命なんですか。
「猿、石臼用意」
「了解。蟹はあいつを柿の木から引き摺り下ろしておいてくれ」
「分かったわ」
そう言うと蟹は単身で巨大な柿の木へと向かい、猿は石臼を取りに一度この場から離脱しました。
で、どうやって●゛ンガーを引き摺り下ろすんですか? あなた木に登れないでしょうに。
「登れるよ」
登れるんですか。原作設定無視してますね。
「何を今更。よし、じゃあ登るわ」
あ、そう言えば毒はどうしました?
「ターン経過で治ったわ。猿も同様に回復したわ」
いや、RPGじゃありませんよこれ。
「桃太郎にも同じ事をナレーターは言ってたわね、その言葉」
……そうですね。でも、立場としては今の私は桃太郎さん側ですけど。
「まぁ、そんなのは置いといて」
置いておくんですか。
「覚悟しなさい、この駄蜂」
蟹は自慢のハサミを柿の木に突き立てて登っていきます……?
あの、端正込めて育てた柿の木を自分で傷付けていいんですか?
「それは大丈夫」
いや大丈夫じゃないですよ。明らかに穴だらけになってしまってますよ?
「今ハサミを突き立ててる箇所にはカミキリムシの幼虫が巣食ってるの。だからハサミを突き立てて貫いて殺してるわ。これは害虫駆除の一環でもあるの」
そうですか。というかカミキリムシの幼虫の位置はどうやって把握してるんですか?
「柿の木に突き立てたハサミの殻から伝わってくる微かな震動で」
よく出来ますね。神経過敏じゃないと出来ない芸当ですよそれ。
「私、神経質だから」
そういう問題ですか?
「さぁ、そろそろハサミの届く距離よ」
蟹は害虫駆除をしながら登っていき、巨大な蜂の目の前まで来ました。
蟹の姿を視認した蜂は羽音を立て、毒針を出して蟹を威嚇します。
蜂の威嚇に尻込みもせず、蟹は速攻で羽をハサミで切り落とします。そして羽のもがれた蜂を蹴落とします。
……あれ? 何か手際よく処理しましたね? 相手が攻撃する前に終わりましたし。
「害虫駆除は慣れてるから」
そういう問題ですか? その癖に二回戦の最初の方で雀蜂には毒針で刺されてましたけど。
「あれは駆除が目的じゃなかったからね」
そういうもんですか?
「そういうもん。猿〜〜、そっちに行ったわよ〜〜」
「了解〜〜」
柿の木の根元には猿が石臼を構えてスタンバイしてました。蜂は丁度石臼へと落ち、落下の衝撃で目を回して気絶してしまいました。
「へっへっへ……覚悟しやがれ、この駄蜂」
猿は擂り粉木で蜂を叩きます。ある程度叩いて柔らかくなったら擂っていきます。粘り気が出るように塩も加えます。
〜しばらくお待ち下さい〜
「蟹、卵溶いたか?」
「溶いたよ」
猿は擂られた蜂の身を蟹が溶いた卵に混ぜ込んでいきます。
そしてそれを油を敷いた卵焼き用の長方形のフライパンに流し込んでいきます。
有言実行でした。
きちんと焼けたら、簀巻きで巻いていきます。
「「出来た」」
で、それどうするんですか?
「「食べる」」
食べるんですか!?
「「いただきます」」
異口同音でそう言うと、同時に口の中へと蜂の擂り身入り伊達巻を放り込みます。
「「…………………………」」
ばたっばたっ。
猿と蟹は倒れ伏しました。
原因は熱でも分解されなかった●゛ンガーの毒です。●゛ンガーの毒は熱で壊れる程柔ではなかったようです。
そんな毒を食らった猿と蟹はピクピクと痙攣して口から泡を出しています。
取り敢えず、救急車でも呼びますか?
「「た、頼みます……」」
一ヶ月後。
ターン経過では回復しなかった猿と蟹は毒から回復して、柿の木の所有権を巡っての勝負を再開させました。
勝負は幾度となく行われましたが、全く決着はつきませんでした。
勝負で被害が及ぶようになり、嫌気が差した同族達から、もう二人のものでいいだろ、と呆れながら一週間言われ続けて漸く終止符が打たれました。
そんな二人は今現在害虫駆除の真っ最中です。
「猿、落ちたよ」
「了解」
柿の木の上で蟹が落とした●゛ンガーを猿が石臼の上に落とさせます。元々似た性格であり、互いの役割を意見交換もせずに適職に就いています。
最初の頃こそ渋々一緒に柿の木の世話をしていましたが、日が経つにつれて互いを認めるようになり(柿の木の所有権を巡っての勝負も影響していますが)、つい最近では嫌な顔一つせずに世話をしています。
「今日はこれでお終いね」
「だな」
蟹が降りてきて猿に告げると、二人で石臼を運びながら帰っていきます。
今日も猿と蟹は柿の木の世話をします。明日も明後日も、世話をしていきます。
自分達が端正込めて育てた柿の木なのだから。自分達にとっては子供のような存在だったのです。だから頑なに自分のものだと言っていました。
今では共同で育てた子供という認識になっています。
子供の世話は親が行う。
だから猿と蟹は明日も明後日も、これからずっと先もこの巨大な柿の木の世話をしていきます。
……所で。
「「何?」」
その退治して擂り潰した●゛ンガー軍団はどうするんですか?
「「伊達巻に入れて作者に食べさせる」」
やっぱり報復目的ですか。そろそろ作者は回避しきれなくなってくる頃ですね。
「「あと、作者が進んで食べるように目の前で(俺・私)も食べる」」
身体張ってますね……。
「「(俺・私)は一度食べたから毒に耐性が出来たから平気だし」」
それは、また、チートのような気がしますが気にしませんよ私は。
「「ナレーターも一緒に食べる?」」
それは勘弁して下さい。