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ルティの物思い …… その2

 ここまで物陰から見ていて、もう我慢できないとばかりに、パルフィと、刀に手をかけたミズキが駆けだしていきそうになるが、グレンが二人の腕をつかんで止めた。


「まて、二人とも」

「止め立てするな、グレン」

「な、なんで止めるのよ。助けてあげなきゃ」

「いや、まだ早い。ここで出て行っても、ルティのためにならん」

「そんな」

「見ろ、ルティはああやって、あの子を守ろうとしている。なりはああでも、あいつは一人前の男なんだよ」

「そんなこと言ったって、ルティはまだ小さいし、腕力もないし、アンタみたいに剣も使えないのよ」

「そんなことは問題じゃねえ、男にはたとえ負けが見えても、立たなければならない時がある、それが自分の惚れた相手のためならなおさらだ。そして、ヤツはいま一人で立とうとしている。これは、ルティの戦いだ。俺たちはジャマしちゃいけねえんだよ」

「でも……」

「しかし……」


 心配でたまらないといったパルフィとミズキだったが、とりあえずは物陰から見ていることにしたようだ。

ルティはよろよろと起き上がるが、顔は真っ赤に腫れて、唇から血を流していた。しかし、それでもルティはくじけていなかった。


「やめてください。この花は、この子が、リリイが、おばあさんと丹誠込めて育てた花なんです」

「ケッ、このくそ坊主が。てめえ、女の前だからっていいかっこしてんじゃねえよ、すっこんでろ」

「そうは行きません。この子がいったい何をしたって言うんですか。無体なことはやめてください」

「うっせえな、ここで商売したきゃ、俺たちに場所代はらえっていってんだよ」

「ここはあなたの土地ではないはずです。あなたたちにお金など払う必要はありません」

「まだ言ってんのか、俺たちをあんまりなめんじゃねえぞ。おい、もうめんどうくせえ、こいつからさきにやっちまおうぜ」

「おお」


 そういって、ごろつきは数人がかりでルティに殴る蹴るの暴行を加え始めた。あっという間にルティは地面に倒され、さらによってたかって蹴り飛ばされる。何度も立ち上がろうとするが、そのたびに突き飛ばされ、殴られ、蹴られて、しだいに、ルティは動きが鈍くなり、そして、起き上がろうとしても起き上がれなくなった。


「ケッ、口先だけか、このガキが」

「ほらよ、もう一発くらいなッ」


 一人がルティの腹を蹴り上げた。


「ぐふっ」


 ルティが体をくの字に折り曲げて、苦痛にうめく。


「何でえ、もう終わりかよ」

「やめて、もうやめてくださいっ」


 泣き叫びながら、ごろつきどもを止めようとする女の子が、一人のごろつきに取りすがってルティのそばから引き離そうとする。しかし、


「このガキ、すっこんでろ」


 と、振り払われて、


「きゃあっ」


 と弾みで倒れ込んだ。

 それを見たルティは、すでに地面にはいつくばっていたが、力を振り絞って、ごろつきの一人の足にすがりつき、すねにかみついた。


「い、いてえ、なにしやがる、てめえッ」


 そして、そいつがひるんでいる間に、倒れている女の子のところによろよろと駆け寄って、自分の背中にかばい、片膝をついたまま、まるで女の子を守るかのように両手を広げて、息も絶え絶えに声を絞り出した。


「リリイに手を……出すのはやめてください。この子に……罪はないはずです……、私が気に入らないなら、私を好きなように……すればいいでしょう。でもこの子には……手を出さないでください」

「ルティ……」


 クリスがパルフィの顔をふと見ると、パルフィは少し涙ぐんでいるようだった。ルティの行動には、何か見るものの胸を突くけなげさと必死さがあった。ミズキも、相変わらず激しい感情を抑えかねるように肩をふるわせていた。グレンは相変わらず何も言わずじっと見つめているだけだったが、拳は色が白くなるまで強く握りしめられていた。

 だが、しかし、ごろつきどもには、そんなルティのひたむきな様子に感動する気持ちなどあるがはずもなく、逆に、「好きなようにしろ」と言われて、それを挑発と受け取ったらしく、目に物騒なものが宿るのが見えた。


「ほう、そうかい、じゃあ、好きにさせてもらうぜっ」


 言うないなや、ごろつきは剣を抜いた。


「きゃあ」


 女の子が叫び声を上げる。

 後ろに控えている子分らしき男たちは、こんな子供相手に、いちいち剣を抜くのも面倒とばかり、「やっちまえ」と口々にはやし立てていた。


「さっきから生意気なことばっかりいいやがって、どうだ怖いか、怖いだろう?」


 ごろつきはニヤニヤといやらしい顔つきで、剣先をルティのほっぺたにピタピタと当てた。そして、


「泣いて謝るなら許してやるぜ、クックック」


 といって、さらに剣先を立てて、ルティの頬の上で軽くスーッと引いた。引いた後から血がにじみ出る。

 しかし、ルティはまだ息は荒かったが、動じることもなく、相手の顔をまっすぐに見返し、


「いいえ、あなたの……脅しなど怖くありません」


 と言いはなった。

 それを聞いた瞬間、ごろつきは血相を変わった。


「なんだと、このくそ坊主が、なめやがって。子供だからって、手を掛けねえと思ったら大間違いだぜ、そんなに殺されてえなら、後ろのお嬢ちゃんといっしょに、あの世に行きな」


 そして、大きく剣を振り上げた。

 それを見たグレンは、


「ち、バカどもが。頃合いだ、いくぜ」


 舌打ちをして一気にとびだした。

 クリスたちも後に続く。

 ルティは、自分の身を挺してでもその女の子を守ろうと、後ろを振り向いて、女の子を自分の胸に抱き寄せて守ろうとする。しかし、それは、もちろんごろつきに背中を見せることになり、ごろつきは、まさにその背中を斬るつもりなのが、走りながらでも、ありありとわかった。


「死にやがれ」


 とわめきながら、ごろつきは剣を振り下ろした。しかし、ルティの背中に剣が届く前に、グレンがルティの前に走り出て、ごろつきの剣を自分の剣で受けて、そのまま、ごろつきを後ろに蹴り飛ばす。その間に、クリスたちもごろつきたちとルティの間に割って入る。


「な、なんだ、てめえら」


 ごろつきは虚を突かれて、一瞬、ひるんだが、すぐに立ち上がった。それを見て、ごろつきの仲間たちも剣を抜く。

 ルティも、一瞬、なにが起こったのか分からなかったような顔つきだった。しかし、すぐに、クリスたちが助けに来たのが分かったようだ


「グ、グレン、それに、みなさん、ど、どうしてここに」

「話は後だ、ルティ、後は俺たちがやるから、後ろに下がってな」

「で、でも……」

「おまえは、その女の子を守るっていう大切な仕事があるだろう」


 グレンは振り返り、ルティに向かって優しく言った。それは、いつもの皮肉めいた顔ではなく、めったにみないようなまじめで優しい笑顔だった。


「あ、は、はい。わかりました」

「よし、その子は頼んだぞ」

「はいっ」

「みんな、いくぜ」


 グレンはすでに臨戦態勢に入っているクリスたちに声をかけて、前に出る。


「いつでもOKよ」

「この下郎どもが。天に代わって成敗してくれる」


 ルティは、ぼろぼろになった体で、ムリに立ち上がって、すっかりおびえてしまった女の子をかばうようにしながら、後衛にいるクリスとパルフィのさらに後ろに下がる。

 それを確認して、グレンがさらにルティに声をかける。


「ルティ、よくやったな。お前の根性は見せてもらった、おめえも一人前の男でオレはうれしいぜ」

「で、でも、こんなぼろぼろにされて、何もできませんでした……」


 すこし情けなさそうにルティが言う


「ばかやろ、強さってのはそんなんじゃねえよ。立派だったぜ。さすがは、オレの相棒だ」


 それを聞いて、ルティの顔にすこし笑顔が戻る。

 パルフィも後ろを振り返り、ルティに優しく微笑みかける。


「よくがんばったわよ、ルティ」

「は、はい」


 ごろつきどもは、このやりとりをしばらく呆然と眺めていたが、急に我に返ったらしく、クリスたちに突っかかってきた。


「なんだあ、てめえらは、このくそ坊主の仲間か」

「ああ、そうだ。よくも俺たちの仲間をやってくれたな」

「けっ、めんどうくせえ、てめえら、まとめてあの世に送ってやるぜ」

「このゲス野郎どもが。ミズキ、用意はいいか」


 グレンが剣を構えながら、ミズキに声をかける。その声は、先ほどルティに向けたものとは全く異なり、怒りにうちふるえていた。


「ああ。いつでもいいぞ」


 ミズキもよほど怒っているらしく、声は静かで落ち着いていたが、全身から怒りのオーラを発散させていた。しかし、ミズキは、剣を構えたまま、かちゃりと回して、刃を下にした。峰打ちするつもりのだろう。


「いくぞっ」

「おう」




 だが、勝負は実にあっけなくついた。クリスを含めてパーティ4人の怒りはものすごく、そのせいか、普段よりも攻撃力が異様にアップしていたようだった。ほとんど瞬殺と言っていいほどのスピードで、ごろつき全員がだらしなく地面にはいつくばることになった。

 全員を戦闘不能にした後、グレンは、打ちのめされて仰向けに地面に転がっている、ルティを切ろうとしたごろつきのところにズカズカと近寄って、その胸に足をかけ、剣を逆手に持ち替えて、耳から毛の先しか離れていない地面にグサッと自分の剣を突き立てた


「ヒィィ」


 ごろつきは、おびえた声を出して、逃げようとするが、グレンに胸を踏まれていて逃げられない。すがるような目でグレンを見上げる。

 グレンは、足を胸にかけつつ、少し顔を寄せて上からのぞき込むようにして言った。


「おい、今日はここまでで許してやる。だが、次にこの花屋とオレ様の仲間に手を出しやがったら、てめえの首と胴体が生き別れになるから、そう思え」

「ハ、ハイ、わ、わかりましたっ」


 とごろつきはぶんぶんと首を振る。


「それがわかったら、とっとと失せな。あ、いや、ちょっと待った」


 グレンが急に何かを思いついたかのように、ごろつきに足をかけたまま、ルティと女の子の方を振り返る。


「ここで売ってた花は全部でいくらぐらいだったんだ?」

「え、えーと、たぶん5ゴールドぐらいだと思います……」


 急に尋ねられて、驚いたようだったが、女の子が答える。


「おう、そうか。よし」


 また、グレンがごろつきの顔をのぞき込む。


「おい、てめえがダメにした花を全部買い取っていきな。全部で100ゴールドだそうだ」

「え、で、でも、い、今5ゴールドって……」


 ごろつきがおびえながらも抗議する。100ゴールドというのは、アルティアで一ヶ月は遊んで生きていける金額である。


「……」


 グレンは、その抗議を聞くと、無言で男の耳元に刺さっている剣を抜き、反対側の耳のそばにグサッと突き立てた。


「ヒイィィ」


 ごろつきがまたおびえた声を出す。


「バカか、てめえは。迷惑かけたんだから多めに払うのは当然だろうが。それに水瓶とかも壊したんだから、弁償しねえとな」

「わ、わかりました」


 怯えながら、ごろつきは震える手で胸のポケットから財布を取り出し、中から札束を出した。


「なんでえ、結構持ってるじゃねえか。ケッ、ホントなら身ぐるみはがされても文句は言えねえところなんだぜ」

 グレンが、ごろつきの差し出す札束をむしり取り、きっちり100ゴールド分取って、残りをごろつきに返す。


「まあ、いいや。ほらよ、とっとと失せな」


 そして、グレンが、足を胸からおろして、剣を地面から抜くと、ごろつきはあわてふためいて、よつんばになりながらグレンから離れ、


「ちきしょう、お、おぼえやがれっ」


 といういかにも悪党らしいセリフを残して、残りのごろつきといっしょに逃げていった。


「ケッ、馬鹿どもが」

「大丈夫かい、ルティ」


 クリスたちはルティのところに駆け寄る。ルティは顔と体中あざや傷だらけだった。服も結構破けている。ただ、大きなケガはしていないようだ。


「ええ、みなさんのおかげで、なんとか生きてます」


 ルティはまだ顔がこわばってはいたが、自分の好きな女の子が無事だったということもあって、ほっとしたらしい。ちょっと涙目になっていたものの、少し笑顔が見えた。


「あ、こちらは、花屋さんの娘さんで、リリィです」

「リリィです。み、みなさん、本当にありがとうございました」


 女の子がまだ涙で濡れた目のままで、クリスたちにお礼を言う。


「なに、礼にはおよばんさ。ほら、この金とっときな。小汚ねえ金ですまねえが、何かの足しになるだろ」


 グレンが、紙幣を女の子に差し出す。


「で、でも……」


 女の子は正直者らしく、5ゴールド相当の花に100ゴールドももらうのが気が引けるようだった。


「気にするな、迷惑料だって言って向こうは払ったんだし、花だけじゃくていろんなものも壊されただろう」


 確かに、水瓶やら花瓶やらが倒されたり蹴られたりで、いろいろ壊れていた。


「は、はい。では……。本当にありがとうございます」


 そう言って、女の子は頭を下げる。


「いいってことよ。それよりも、ルティに礼を言ってやってくれ。この小さいなりであんなでけえごろつきたちに向かっていくなんざ、よっぽどの勇気がなきゃできんことだ」

「は、はい。私もそう思います。ありがとう、ルティ」


 女の子はルティに向かって礼を言った。ルティは、顔を真っ赤にして


「ううん、リリィが無事でよかったよ」


 やたら照れながらルティが言う。


「私のために、こんな傷だらけになって…」


 リリィは手を伸ばして、傷だらけのルティの頬を優しくさわった。


「いいんだよ、君が無事だったんだから」


 と、顔を真っ赤にして答えるルティ。この気恥ずかしくなるような光景に一同は頭をかいたり、あらぬ方を見たり、もじもじしたりしていた。

 ふと、クリスが横を見ると、パルフィがカバンから取り出したらしい回復ポーションを手に持っているのに気づいた。きっと、ルティに渡すつもりで取り出したのだろう。しかし、パルフィはそれをルティには渡そうとはせず、カバンに戻した。


「さて、そろそろ俺たちは行くか」

「そうだね」

「すまねえが、後片付けはたのんだぜ」

「ええ、もちろんです」

「じゃあ、私たちは先に帰ってるわね。ルティ。また宿でね」

「はい」




 ルティたちを後に残し、宿に戻る道を歩きながら、パルフィが言った


「後片付け手伝ってあげてもよかったのに」

「まあな、でも、ああいうことは二人だけでやった方がいいような気がしてな」

「あら、グレンのくせに気を利かせたのね」

「へっ」

「そういえば、さっき、パルフィはどうしてポーションをルティに渡さなかったの」

「え、気がついてたの」

「うん」

「ルティは傷だらけだったじゃない? あの傷がね、なんか、好きな女の子を守った勲章みたいな気がして、ポーションで治すのは後でもいいかなって。命に関わる傷じゃなさそうだったし」

「へっ、好きな女の子を守った勲章か、おめえもなかなか気が利くこと言うじゃねえか」

「まあね」

「まあ、しかし、これでルティの恋が成就して、幸せになってくれるといいんだがな」

「そうだね」


 先ほどの様子なら、きっと大丈夫だろう。全員がそう思いつつ、少し面はゆい気持ちで宿屋に戻ってきたのだった。


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