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ルティの寝坊

「ふぁーあ、おはよぉ」

「おぅ、起きたか、ねぼすけ娘」


 宿屋に泊まった翌朝、パルフィが眠い目をこすりながら、クリスたちの座っているテーブルを見つけてやってきた。

 宿屋の1階が食堂になっていて、宿泊した客はここで朝食を取る。クリスたちは、朝の七点鐘にここで集合ということになっていたのだった。グレンとミズキは朝早くから稽古をしていたらしく、クリスが降りてきたときには、すでに席について茶をすすっているところだった。あとはルティがまだ来ていない。


「あれ、ルティは?」


 席に着きながらパルフィが尋ねる。


「まだのようだ。寝坊かな。ルティにしては珍しいこともあるものだ」


 ミズキがそういいながら、2階への階段の方を見ていた。まだ、ルティが下りてくる様子はない。


「グレン、昨日ルティは夜更かしでもしたのかい」


 とクリスはグレンに聞いた。

 昨日は3人部屋に空きがなく、2人部屋が2つと1人部屋が1つしか取れなかったため、パルフィとミズキ、そしてグレンとルティが同室で、クリスだけが一人部屋になったのだった。


「いや、あいつが寝るのは早かったぜ。むしろ、オレが遅かったぐらいだ」

「どうしたのかしら、いつもなら早いほうなのにね」

「心配だな。ちょっと見てこようか」


 とクリスが立ち上がりかけたときに、


「いや、今降りてきたようだぞ」


 ミズキが階段の方を指し示す。そちらを見ると、ちょうどルティが両手で目をこすりながら階段を下りてきたところだった。いかにも起き抜けという感じで、髪もボサボサで、まだ目もよく覚めていないようだ。


「みなさん、お早う……ございます。遅れてすみません」


 頭を下げながら着席するルティ。


「どうしたんだ、ルティ。珍しく寝坊か。夜遅かったのか」

「目の下にクマができてるわよ。寝不足なんじゃない?」

「ええ、ちょっと」


 と口ごもる。


「何か心配事でもあるのか?」


 ルティはこのパーティの中でも一番のしっかり者といってよかったが、それでもやはり年端もいかない少年だ。何か悩みか心配事でもあるのかと、みな心配そうに彼を見る。


「いえ、心配事などはないのですが。ただ……」


 と言いよどんで、ちらりとグレンを見た。

 それにめざとく気がついて、すかさずツッコミを入れるのはやはりパルフィだった。


「あ、グレンになんかされたの? もしかして、意地悪なことされたの?」

「お、おいおい。そんなことするわけねえだろ。ルティは仲間で、しかもオレにとっちゃ、弟分みてえなもんだ。なんで、オレがそんなことしなきゃならねえんだ」

「だって、今ルティがちらっとアンタのこと見たじゃない」

「そんなこと言われてもよ……」

「い、いえ、グレンが悪いわけではないんです。ただ……」

「ただ?」

「えと、その……」


 ルティはしばらくの間言いにくそうにしていたが、さらに促されてあきらめて口を開いた。


「実は、夜中にグレンのいびきで起こされてしまって」

「いびきぃ?」

「は、はい。それが、かなり強烈なもので、一晩中……。前にもあったんですけど、そんなに大きくなかったので、あまり気にならずに眠れたんですけど、昨日のはちょっとすごくて……」

「へえっ、そんなにグレンのいびきってすごいんだ。クリス、知ってた?」

「いや、何回も一緒の部屋で泊まったけど、そこまでひどいとは思わなかったな」

「ちょっとまて、そんなのオレは知らんぞ」

「そりゃそうでしょうよ。そんなの本人が一番気がつかないんだから」

「た、たぶん、昨日だけのことだと思います。わ、私もあんなの初めてでしたから。きっと、グレンは疲れてたかなにかで……」


 とフォローを入れるルティ。


「そ、そらあ、すまなかったな、ルティ」


 と申し訳なさそうに、そして恥ずかしそうに肩を小さく丸めて謝るグレン。


「いえ、大丈夫ですから。気になさらないでください」

「ふーん。だけど、強烈ってどんな感じだったの」


 容赦なく聞くパルフィ。


「え、そ、それは……」


 ルティは言っていいものかどうかグレンを見たが、グレンはもうあきらめたらしく、仕方がないという感じで軽く首を縦に何度か振った。それを見て、ルティが答える。


「えっと、音はそんなに大きくないのですが、『ぐがー』とか『ぐおー』っていう音の間に、なぜか『ピョー』とか『ミャー』っていう、ちょ、ちょっと変わった音が聞こえてくるんです。それで、私も気になってしまって……」


「きゃー、『ピョー』『ミャー』だって、あはははっ」

「あはは」


 と爆笑する一同。ふとクリスが隣を見ると、


「がははは」


 と、やけくそで顔を引きつらせながらグレンも笑っていた。


「グレンにしちゃ、かわいいじゃない。1回、その『ピョー』とか『ミャー』ってのをじかに聞いてみたいわね」


 まだくっくっとおなかを引きつらせながら、パルフィが言う。


「さぞかし、笑えるでしょうよ」

「う、うるせえ」


 顔を赤らめるグレン。

 と、そこへ


「そうは言うが、パルフィも寝言を言うぞ」


 と、ミズキが思わず口にして、しまったという顔で口を押さえた。


「ええっ? あたしが?」

「あ、いや、すまない。今のは……」


 忘れてくれと言い終わる前に、グレンが急に息を吹き返したかのようにニヤニヤして突っ込み返す。


「ほほぅ。パルフィの寝言だって? それはぜひとも詳しく聞かせてもらいたいものだなあ、おい」

「あ、あたし寝言なんて言わないもん」


 急に矛先が自分に向いて、あわてて打ち消そうとするパルフィ。


「い、いや、寝言といってもそんなたいしたものじゃなく、ほ、ほほえましいというか、おもしろいというか……」


 ミズキもあせってなんとかフォローを入れようとするが、周りがよけい聞きたくなるようなことを言って、全くフォローになってなかった。


「へえ、そうなんだ。それは、なおさら聞きてえな」

「僕も」

「ちょ、ちょっと、クリスまで何よ」

「だってさぁ」

「そ、それは、プライバシーというか、じょ、女性の秘密なので……」


 と、ほとんどしどろもどろになるミズキ。自分のせいでとんでもないことになったと焦っているのだろう。ミズキは普段はきわめて冷静なだけに、これはこれで見物だとクリスは思った。


「何言ってんだ。先に、パルフィがオレの寝息をからかったんだからな」


 確かにそれは一理あったので、ミズキは、どうしようとばかりにパルフィの方を見たが、パルフィはちょっと赤面して、ちょっとふくれっ面、そして半ばあきらめ顔の複雑な顔で横を向いていた。ミズキは、しょうがないとばかりに話し出した。


「いや、いつもはゴニョゴニョ聞こえてくるだけで、何を言っているのか分からないのだが、昨日のは、たしか、『おなかへったよぉ』とか、あと何のことか分からないのだが、『へんしーん』とか……」

「ぷっ、……あははは」

「わははは」

「あははは、パルフィは夢でも食い地がはってるね。あははは」

「それに、何だ『へんしーん』って。さすが幻術士だな。ぐははは」


 とグレンが大笑いする。


「いやいや、パルフィらしいよ、くっくっくっ」


 クリスも悪いとは思ったが、あまりにもパルフィらしい寝言に笑いをこらえることができなかった。横を見ると、ルティとミズキも吹き出すのをなんとか我慢しようと、無駄な努力を続けていた。


「ちょ、ちょっと、そんなの私知らないわよ」


 パルフィは顔を真っ赤にして言い返す。


「そりゃ、そうだろうよ。そんなの本人が一番気がつかねえんだからな」

「っ、も、もう知らないっ」


 さっき、言ったセリフを相手にそのまま返されて、何も言い返せず、ふくれっ面で横を向くパルフィであった。



後日談。


 その数日後、ミッションの帰りに野宿したクリスたち。


「ぐおー、ぐおー、ピョー」

「お腹減ったよう~。モゴモゴ」

「ぐがー、ぐがー、ミャー」

「……へんし~ん。ムニャムニャ」


(勘弁してくれ……)


 両側からグレンとパルフィーのいびき+寝言攻撃に眠れないクリスなのであった。






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