桜とともに。
春。
それは出逢いと、別れの季節。
「ちー。お待たせ」
桜吹雪の中。
それに埋もれてもなお、輝く人がいる。
「清兄!」
自然と顔がほころんでいくのがわかる。
あったかい、気持ち。
そんなあたしに清兄は頭をゆっくりと撫でてくれる。
そして優しく微笑む。
あたしはそれが、好き。
「ごめんね。忙しいのに」
「いいよ。どした? 急に呼び出して」
なんにも知らない清兄は、いつもの口調で微笑んだまま。
好き。
柔らかい口調も。
大人な微笑みも。
ちょっと寝癖がついている黒髪も。
家庭教師として清兄がうちに来たときからずっと、好き。
「……あのね、いいたいことがあって」
「? なんだ?」
不思議そうな顔。
それを見ながら、一度息を吐く。
ぎゅっ。と拳を握った。
「結婚、おめでとう」
こみあげてくるモノが、気付かれないように。
あたしは偽りの笑顔を貼りつける。
聞いたのは、一週間前だった。
“清隆くん、結婚するんだって”
衝撃だった。
耳を疑って、それでも現実だと知った。
ただただ呆然として、涙さえもでなかった。
「あ、聞いたのか」
「うん。お母さんから」
「そっか。ありがとう」
照れくさそうに笑う。
さっきとは違う、笑顔。
あたしには、見せてくれたことなんてない。
知ってるよ。
清兄にとってあたしは“妹”だから。
「ね、清兄初めてここに来た日、覚えてる?」
「この桜並木? あれだよな、ちーが桜みたいってた時だよな。ちょうどこの季節だろ?」
「正確に言うと、もう勉強したくなーいていったら清兄が桜見に行く?っていったんだけどね」
「あれ? そだっけ? よく覚えてんな」
当たり前だよ。
だってあの日。
あの桜吹雪の中で。
あたしは恋に、出逢った。
「あのね、清兄」
切ない。悲しい。寂しい。
こんな感情、なくなればいい。
あたし、清兄の一番になりたい。うらやましい。
こんな感情、なくなればいい。
「お別れしにきたの」
「……え? 俺に?」
「ううん」
「じゃあなにに?」
見当もつかないという顔をしている清兄にふっと笑う。
「清兄への、恋心に」
清兄、気付いてないんだね。
あたしね、ずっと清兄が好きなんだよ。
今も、昔も。
なにひとつ、変わらない純粋な気持ち。
「――え?」
今まででみたことのない、間抜けな顔。
清兄は、あたしの前ではいつだって優しいお兄さんだったから。
怒ったこともないけど、こんな間抜けな顔も見たことない。
笑い転げるところも、泣いているところも。
なにも、見たことなんてない。
彼女さんは、見ているのかな。
そんな清兄のこと。
全部、みてるのかな。
「……あたし、清兄が好き。昔から、ずっと」
こんな、困った顔も見たことないや。
終わりの日に、初めていろんな顔が見れたね。
「――俺にとって、ちーは妹だよ」
「知ってる」
目を背けようとして、でも思い直してあたしを見る。
清兄は、逃げない。
強くて、そして残酷だ。
「……ごめん」
期待なんて、もたせない。もたせてくれない。
――ごめん。
脳内に焼きついて、胸に刻みこまれる。
唇を噛みしめる。
知っていたのに。
あたし、わかってたのに。
……それでも、こんなにも胸はいっぱいになるんだね。
「ごめん。なんていわないで」
清兄の手をゆっくりと持つ。
昔から、清兄の手はおっきかった。
あたしの手がいつだって、すっぽりおさまるくらい。
「過去に、しにきたの。今日、今ここで、清兄への恋心を過去にしにきたの」
そんなつもりは全然なかった。
それでも清兄の手を握った瞬間、涙腺が崩壊した。
視界が熱くなって、ぼやけて。
それでもしぼりだす、最後のお願い。
「なまえを、よんで」
「え?」
「あたしのなまえ、よんで」
清兄はあたしが握ってない手で、あたしの頭を撫でた。
「ちはる」
ずくんっっ。
あふれだすものは、きっと今までの想い全部。
――好きだった。
頭を優しく撫でて、微笑む顔が。
ずっと。
何度も目をこすって、ゆっくりと顔を上げる。
清兄は微笑んでいた。
あたしが好きだった、顔で。
「ありがとう」
桜にのせて、散っていく。
この桜吹雪の中で、輝きを失っていく。
さよなら、あたしの初恋。
清兄が、大好きでした。
fin.
初めての投稿なのでうまくできたかわかりませんが、どうだったでしょうか^^;
春のイメージで書いてみました。
いつも終わり方がうまくなくて、今回もなんだかうーん。て感じなので思いついたらちょこちょこ変えていきたいと思います。
目を通していただいてありがとうございました^^